ドラゴンパイロット! ―少女の歌と竜の瞳―

伊武大我

文字の大きさ
5 / 5

形見

しおりを挟む
 魔物から玉を取り戻したハルは村からかなり離れた草原で風に吹かれていた。
足元には頭に矢の刺さったトカゲの顔の死体と傷だらけで羽がボロボロになった鷲の顔の死体があった。

「的には当たらないくせに…」

ハルは弓を握りしめ、足元の死体を見つめていた。


 段々、シンディが泣いている男の子を慰めているのが見えてきた。

「あ、ハルー!取り戻せましたかー!?」

ラズリに跨ったハルが近づいてくるのに気付いたシンディは両手を振りながら叫んだ。
ハルは玉を握った手を空へと突き上げて答える。

「取り戻せたみたいだよ!よかったねハーク君!!」

シンディは男の子の手を取り、上下に振りながら喜んだ。
シンディの笑顔に釣られて男の子の顔も晴れやかになった。
喜ぶシンディと男の子の上でラズリが翼を広げて止まった。
そして、ゆっくりと翼を羽ばたかせながら降りてきた。
地面に降り立つと姿勢を低くしてハルが降りやすくしてくれた。
ハルが地面に足を付けるとラズリは立ち上がり、横たわるフィーの元まで歩み寄った。
そしてフィーの横でうずくまり、息を確かめるように顔を寄せ、犬のようにクゥーンクゥーンという声出しながら心配そうな顔をしている。

「フィーなら大丈夫ですよラズリ。私の魔法で血は止まりました。傷は塞ぎきれなかったので少し休養が必要ですけど…」

シンディは少し申し訳なさそうに顔を伏せた。

(魔法で応急処置ができるだけでもすごいと思うけどな…俺の傷もほとんど治ってるし…)

「それでハル!この子の「竜の瞳」は!?」

「ああ!もちろんあるぜ!ほら。」

ハルは男の子に取り戻した玉を手の平に乗せ、差し出した。
男の子は玉を見るなりまた悲しそうな顔になり、

「ありがとう…ありが、とう……」

こみ上げてくる涙で言葉が詰まり、声が震えた。

男の子を見ながら微笑むハル、ふとさっきのシンディの言葉で気になることがあった。

「ん?、今「竜の瞳」って言ったよな?この子も「三つ目」なの?」

「いえ、確かにそれは「竜の瞳」ですがこの子は「三つ目」ではありません。」

ん?でも確かさっき竜に認められた「三つ目」と呼ばれる人たちが「竜の瞳」を授かるとシンディが言っていたはず…

「どういうこと?」

「その子の「竜の瞳」は授けられた物ではなく……その子のドラゴンの…形見だそうです…」

「形見…」

形見ってことはまさか…

「さっきの魔物に…殺されたそうです…」

ハルは男の子の方を振り向いた。
俵型の両端が尖ったような形のとても綺麗で透き通った透明の「竜の瞳」を握って、男の子は泣いていた。


 空での「二十一目隊」の戦闘はまだ続いている。
ハルとシンディとラズリは、まだ気を失っているフィーと男の子を連れてひとまずシンディの家へと戻った。
シンディはフィーをさっきまでハルが寝ていたベッドに寝かせて傷口をしっかりと手当すると、「竜の瞳」についてもう少し詳しく教えてくれた。

「さっきも言った通り基本的には「竜の瞳」を持っているのは「三つ目」の人たちです。「竜の瞳」はドラゴンにとっては魔力の根源みたいな物なのでそう簡単には渡してくれません。それこそ命を預けてもいいと思ってもらえるくらいでなければ。」

命を…それほどドラゴンに信頼されている人たちなのか…
ハルは窓から空を見上げた。だいぶ敵の数が減ってきたように見える。

「しかし、「三つ目」ではなくても「竜の瞳」を持っている人たちはいます。」
「それがハーク君のように相棒のドラゴンが死んでしまった人たちです。」

「まずこの村のドラゴンについて説明しますね。
この村では全員に相棒のドラゴンがいます。人が生まれると同時にサフィア様を祀った祭壇にドラゴンの卵が置かれています。一人なら一つ、双子ならきちんと二つ、サフィア様の祭壇に現れるのです。どこの家にも竜舎があるのはそのためです。」

ハルはまた窓を覗き、今度は近くの家を見てみた。確かにどこの家にも家ほどは大きくない建物がある。

「そしてドラゴン共に生活し、共に一生を終えるのですがたまにドラゴンの方が先に死んでしまう人がいるんです。そういう人たちが形見として「竜の瞳」を持っています。しかしほとんどが魔力を持っていません。ドラゴンが死んでしまってから取り出すので命と共に魔力が失われているんです。」

「なるほど。宝石みたいな物ってことだね」

「そういう感じです。ただ稀に「三つ目」の人たちほどではありませんが魔力が残っていて魔法が使える物もあります。それは、人を守ろうとして死んだドラゴンたちの「竜の瞳」です。」
「何か危機的状況で死にかけたドラゴンは、人を守ろうとして「竜の瞳」の魔力を使うことがあります。
そうやって助けられた人の手にはなぜか微弱な魔力の籠った「竜の瞳」があるんです。
まるで死んだ後も守ろうとするかのように…」

そしてシンディはハーク君に歩み寄って「竜の瞳」を握った手を優しく包み込み、

「ハーク君の「竜の瞳」からも魔力を感じる…ハーク君のドラゴンも守ろうとしてくれたんだね…」

「うん…ぼくを逃がそうとして離れた場所にワープさせた隙に死んじゃった…」

「転移魔法…ドラゴンはいなくなっちゃったけど、今度はその「竜の瞳」がハーク君のことを守ってくれるよ…私みたいに…」

そういってシンディは微笑み、自分のネックレスを男の子に見せた。

「え、まさか、シンディも?」

たしかにこの家、竜舎はあるがドラゴンがいない…

「そうです。私のドラゴンも私を守ろうとして殺されました。今日のように突然現れた魔物たちに…」

「そうだったのか…」

シンディの胸には綺麗な緑色の玉が輝いていた。

 少ししんみりムードのハルたちの雰囲気を壊すように、玄関の扉がいきよいよく開いた。
そして大きな声が聞こえてきた。

「おおおおい!!さっきドラゴン乗って魔物仕留めたやついるかぁ!!?」

「ちょっとぉ!!いきなりそんな大声出したら迷惑でしょ!」

さっき空を飛んでたライオンの顔の人の声と水着が透けてたかわいい子の声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...