3 / 5
ドラゴンと少女
しおりを挟む
目が覚めた。
ベッドの中だ。また気絶していたのだろうか…
林の中にいたはずだが部屋の中にいる。
知らない天井だ。
誰かが病院に運んでくれたのだろうか。
しかし木造の天井からはそういう雰囲気は感じ取れなかった。
窓から心地の良い日差しとそよ風が入ってきている。
國島が上体を起こそうとするとちょうど部屋に唯一ある扉が開いた。
おぼんに食事を乗せた少女が現れた。
「あ、ダメですよ!まだ治したばっかりなんですから!」
上体を起こしかけていた國島を見るなり少女は手に持っていたおぼんを近くの机に置いて駆け寄ってきた。
「血も減ってるはずなんですから寝ててください!」
そう言って國島の体を押し倒した。
言われてみれば少しふらつく。
なすがままにベッドに戻される國島だが彼女の顔を見てあることに気付いた。
「あれ!?榛地じゃん!ここどこなの?」
「えっ…」
急に知らない名前で話しかけられた少女は少し驚いた表情になった。
「私の名前はシンディですよ?ここは私の家です。」
「え、シンディ…?」
よく見てみると顔も髪型もそっくりだが榛地よりも幼く見える。高校生くらいだろうか。
何より榛地の頭に羊のような角は付いていない。あともみあげが長い。腰くらいまである束を金属のリングでまとめていた。
前髪が片側だけ長く、片目が隠れがちになっている。
服装もどこかの国の巫女みたいな服装だ。
名前の響きもそっくりだが別人のようだ。
「林の池の近くで倒れているあなたをフィーとラズリが運んできたんです。あとでお礼してあげてくださいね?」
「あぁ…(フィーとラズリ?)ところでその角って何なの?コスプレ?」
「コスプレ?何のことかわかりませんがこの角は私の角ですよ?」
「ふーん…」
設定に凝ってる子なのかな?と思って國島はあまり深く聞かない事にした。
「話は変わるけど君が看病してくれたみたいだね。ありがとう!」
「いえっ、医者の娘なのでケガしてる人を治してあげるのは当然の事です!
まだ魔法が未熟なので傷が開いてしまうかもしれませんけど…」
ちょっと恥ずかしそうにしている。
(それで寝てろって言ったのか。ん?ていうか魔法?)
もしかしたら結構痛い子なのかなと國島は思った。
寝てろと言われたしもうちょっとだけ寝てようかなと思って國島が目をつむろうとすると聞き覚えのある歌が聞こえてきた。
「あれ、この歌…」
「あぁ、フィーの歌ですよ。よくこうやってラズリに聞かせてあげてるんですよ。」
そう言ってシンディが窓の外を見る。
國島もつられて窓の外を覗いてみるとさっき池で見かけた女の子と
さっきのドラゴンがいた…。
國島はベッドから飛び起きて外へ飛び出していった。
「あ、ちょっと!まだ寝てなきゃダメですって!!」
どう見てもドラゴンだ…。
ドラゴンに似てる動物なのかと思ったけど、どうやって見てもドラゴンだ…。
爬虫類のような青白い肌に蝙蝠のような羽、先端にはかぎ爪が付いている。
4本の脚があり、頭には何本か角が生えている…
切れ長の大きな目は瑠璃色のように濃くて綺麗な蒼で怖いというよりは美しいという印象を与えている。
そして額には瞳の色と同じく瑠璃色の綺麗な玉のような物が収まっていた。
そして行儀よく座りながら女の子の歌を聞いていた。
「おお、目が覚めたか。倒れているお前を見たときは心底驚いたぞ!」
國島に気付いた女の子が話しかけてきた。
10歳前後くらいだろうか。
薄っすらと青くて白い髪を地面に付きそうなくらい長く伸ばし、頭にツバの付いていない浅い円筒形の帽子を被っている。
ドラゴンとはまた違った透き通るような美しい青い目をしている。
特別寒いわけではないが外套のような物を羽織っている。
「え、それ…ドラゴンだよね…ほ、本物?」
「ん?本物に決まってるじゃないか。お前、ドラゴン見たことないのか?」
「いや普通あるわけないでしょ!!」
女の子はいや普通あるだろって顔をしている。
と、そこへベッドを飛び出していった國島の後を追ってシンディがやってきた。
「ま、まだ、寝てなきゃ、ダ、ダメって、言ったじゃ、ないですか…」
余程体力が無いのか部屋の中から家の庭まで走っただけなのに息を切らしている。
「だ、だってドラゴンが家のすぐ外にいるんだよ?!誰だって驚いて飛び出すでしょ??!」
「え、ドラゴンくらい普通じゃないですか?」
え、普通なの?
何かおかしい気がする…
なんとなく家の作りとかも日本っぽくないような…
「あの…変な事をお尋ねしますがここって日本ですよね?」
「二ホン?なんですかそれ?ここはガル村ですよ?」
なん…だって…
國島に雷のような衝撃が走った。
そして血の気が引いていった。
「え、日本じゃない?じゃ、じゃあ俺はどこの国まで来ちゃったんですか?」
「…?だからここはガル村ですって。国じゃないですよ?」
「一番近い国はヴァ―モル公国ですね」
どっちも…知らない…
しかも公国なんて地球上に何個もないはずなのに聞いたこともない…
そんな事絶対無いと思うけど一応ハッキリさせておきたい
「あのぉ…一応聞くんですけど…ここって地球ですよね?」
「チキュウ?チキュウって?」
「俺たちが立ってるこの世界の事だよ!」
「この世界は女神サフィア様の治めるエル・ドラメでは?」
國島は膝から崩れ落ち、白目をむいた。
*
「ハッ!」
「あ、起きた」
またベッドの中だ。
また気絶したようだ。
ベッドの脇にはさっきの女の子が腕を組んだ上に頭を置いてこちらを見ている。
「また倒れたのか。体が弱いなぁ」
女の子に軽くバカにされている。
目が覚めたら基地に戻っていると思ったのに!そう上手くはいかないようだ。
「いやあちょっと信じられないことが重なって…今も信じられてないけど…」
「なんだお前はどこか遠いところからきたのか?ドラゴンを見たくらいで驚くなんて」
「どうやらそうみたい…ドラゴンなんて見たことないもん…どうしよう…」
どうやら地球ではなさそうだとわかって國島は絶望しかけていた。
(イーグルで宇宙に出て他の星まで行けるわけがないし、ここはいったいどこなんだろう…)
と、そこへまた部屋に唯一ある扉が開いておぼんに水を乗せたシンディが入ってきた。
「あ、起きたんですね。突然倒れるからびっくりしました。」
「どうもびっくりする事が重なって…」
「もう一回聞くけどここは地球って場所じゃないんだよね?」
「そうですよ。ここはエル・ドラメのガル村です。」
「ちょっと村の風景を見てみますか?そのチキュウって場所とは違うって事がわかるかもしれません。」
さっき外に出た時はドラゴンに驚いて急いで庭に行ってしまったので確かに村の様子は見ていなかった。
國島は部屋を出て家の玄関まで行き木製の扉を開けた。
家を出てすぐの道には誰もおらず、家が並んでいるだけだった。木製の家が多いようだ。
周りの家を見ながら少し道を進んでいくと賑やかな声が聞こえるようになってきた。
その賑やかな声がする道に入ると商店街のように店が並んでいた。
そしてそこで買い物をする人たちを見てここが地球でないと確信した。
確かに人間のような人たちもいるがシンディのように角がある人たちがいる。耳が長い人も。
極めつけには明らかに動物の顔をしている人たちがいた。
虎の顔や犬の顔など様々な動物の顔をしている。
ぬいぐるみかとも思ったがどう見ても被り物をしている感じではない。普通に口を動かして喋ってるし。
そういう人たちがドラゴンを連れながら歩いている。
とても地球人とは思えない。
國島は走ってシンディの家へと戻った。
「うん、確かにここは地球じゃないみたいだね…」
「何かチキュウと違うところはありましたか?」
「うん、地球には角が生えた人も耳があんなに長い人も顔が動物の人もいないからね。俺みたいなノーマルタイプの人しかいないからね。」
「えっ!いないんですか!ロークドもエルフもアニメイルの人たちも!?ヒューオムの人たちだけなんですか?!」
自分のように角が生えてる人たちがいないと聞いてシンディは心底驚いた。
「ちょ、ちょっとそのチキュウについて教えてください!」
シンディと國島はイスに座り、情報交換会を始めた。
地球にはアニメイルはいないが同じような顔の動物はいること、エル・ドラメでは魔法が使え、地球では伝説とされている生物がいること…
お互いに知っていることは色々話した。
「どうやら色々違う世界のようですね…」
「うーん…一体どうやってここに来ちゃったんだろう…どうやって帰ればいいんだろう…」
「ちょっとここに来てしまった直前の事を話してみてください。何かわかるかもしれません。」
「わかった。
まず俺は軍隊みたいなところに所属しててね、そこで飛行機っていう空を飛ぶ機械に乗ってたんだ。
で、その日はドラゴンみたいなのが出たから見てこいって言われて行ったんだ。
ドラゴンなんてこっちの世界じゃ空想の生物だから何かの間違いだと思いつつその場所へ行ったんだ。
そしたらほんとにドラゴンみたいなのがいて追いかけたんだ!
そうしたらすごい速さで移動するもんだから飛行機の速度を最高にしたんだ。
そして気付いたらこの世界の空を飛んでたってわけさ。」
「うーん…そちらの世界にいないドラゴンがいたというのが気になりますね…
そのドラゴンと交換でこっちに来たんでしょうか…?」
「いやあ、そもそもドラゴンだったかもわからないんだけどね」
「ところでお前!空を飛ぶ機械に乗ってたって言ってたな!という事は空を飛ぶのは慣れっこだな!?」
今まで黙って話を聞いていた女の子が急に声を上げた。
「え、まあ一応キャリアは数年あるけど…」
「よーし、表へ出ろ!」
女の子は國島の袖を掴み外へと連れて行った。
表へと連れていかれた國島は女の子の歌を聞いていたドラゴンの前に立たされた。
「この子はラズリっていうんだ。そういえば名前を教えていなかったな。フィーの事はフィーと呼ぶがいい。」
「フィーとラズリ…ああ!じゃあ君が林の中で倒れた時に運んでくれたんだね!どうもありがとうございました。」
フィーと名乗った女の子はまあまあそう大したことではないと言いたげなドヤ顔だ。
「で、お前の名前は?」
「ああ、俺は國島春樹っていうんだ」
「おお、お前も名前にハルと付くのか!よし、今度からお前の事はハルと呼ぶぞ!」
フィーはその綺麗な青い目をキラキラ輝かせた。
「うん、あっちの世界の知り合いもハルって呼ぶからそれでいいよ。」
「ん?お前「も」ていうのは?」
「フィーの本名はフィア・ハルネスっていうんです。ふふっ、自分と同じ名前が入ってて親近感が湧いたんでしょうね」
シンディが微笑みながら教えてくれた。
「なるほど!よろしくな、フィー。」
「うむ。よろしくな、ハル。」
二人は熱い握手を交わした。
「ちなみに私はシンディ・エアハートって言います。」
別に聞いていないのにシンディが割り込んできた。
「私もハルって呼んでいいですか?」
「ああ、もちろん。よろしく、シンディ。」
「はい、よろしくお願いします。ハル。」
二人は固い握手を交わした。
「よし、ハル。ラズリの前に立て。」
「あ、ああ…」
フィーに無理矢理引っ張られてラズリの前に立たされた。
「別に襲ったりしないから安心しろ。しかしいきなり知らない奴に乗られてもラズリもおもしろくないだろうからな。まず自己紹介といこう。」
「話しかけながらゆっくりと頭を撫でろ。」
「え、乗るの?」
「いいから早くしろ!」
半ば無理矢理ラズリの方へと押し出されたハルは、言われた通りに自己紹介をしながら近づいた。
「や、やあ!ボクはハル!君の名は?」
喋れるわけがないのに、名前も知ってるのに名前を聞いた。
もちろん返事はない。
そのままゆっくり近づき頭を撫でようとした。
そして、手を触れようとした瞬間、急にラズリが立ち上がり、牙を剥いた。
ああ、死んだわ。こんなよくわからない場所でドラゴンに食べられて死んだわ。
と、ハルと最期の言葉は何がいいかと考えていると、
またあの歌が聞こえた。
フィーがまたあの歌を歌っている。
知らない言語なので意味はわからないがどこか懐かしく、子守唄のような心地よい歌声だ。
最期にこの歌を聞きながら死ぬのもいいかもしれないと思っていると段々とラズリの表情が落ち着いてきた。
そしてまたお行儀よく座って歌を聴いている。
「その歌ってそんな効果があるのか…」
「お前バカか!いきなり「竜の瞳」に触ろうとしたら怒るに決まってるだろ!」
「え、「竜の瞳」って?」
全く理解できていないハルにシンディが教えてくれた。
「ドラゴンの額にある玉のような物ことです。瞳にも見えるので「竜の瞳」と呼びます。ドラゴンにとっては命の次に大事なものです。」
「そ、そうだったのか…気を付けるよ」
「よし、もう一回やってみろ!」
またフィーが無理矢理ラズリの方へ押し出した。
今度は「竜の瞳」に触らないように気を付けながら優しく撫でた。
今度は受け入れてくれたようだ。
「よし、いいだろ。背中に乗れ」
「え、もう?」
「大丈夫だ。ラズリの方で落とさないように飛んでくれるから。」
ラズリも状況を理解したのか体を低くしてくれた。
「ほら、早くしろ。」
またフィーに無理矢理押し出された。
恐る恐る乗ってみると完全に座りきる前にラズリが立ち上がった。
「うわッ!」
落ちそうになったがラズリが上手く体勢を変えてくれた。
そしてそのまま軽く助走をつけると、一気に空へと飛びあがった。
「うおおおおおっ!?」
正直ヘルメットも航空メガネも無しなので目を開けているのが大変だった。
しかしやはり空を飛ぶ感覚が染みついているのか居心地がよかった。
景色も素晴らしい。
ちらほらと国や村のようなものは見えるが自然の方がたくさん残っているようで綺麗な森や池がたくさんみれた。
遠くの方には海もあるようだった。
グルっと一回りするとラズリは元の場所へと戻っていった。
そして地上から数メートルの高さでホバリングした。
「どうだ!気持ちいだろ!」
下からフィーが叫んだ。
「ああ!もう一周してきたいくらいだよ!」
ハルも下に向かってそう叫んだ。
そして顔を上げると遠くの方から何か飛んでくるのが見えた。
「ねえ、あれって…」
ハルがフィーとシンディに聞こうとすると
「おい!またあいつらが来たぞ!」
熊の顔のおじさんが焦った様子で走ってきた。
ベッドの中だ。また気絶していたのだろうか…
林の中にいたはずだが部屋の中にいる。
知らない天井だ。
誰かが病院に運んでくれたのだろうか。
しかし木造の天井からはそういう雰囲気は感じ取れなかった。
窓から心地の良い日差しとそよ風が入ってきている。
國島が上体を起こそうとするとちょうど部屋に唯一ある扉が開いた。
おぼんに食事を乗せた少女が現れた。
「あ、ダメですよ!まだ治したばっかりなんですから!」
上体を起こしかけていた國島を見るなり少女は手に持っていたおぼんを近くの机に置いて駆け寄ってきた。
「血も減ってるはずなんですから寝ててください!」
そう言って國島の体を押し倒した。
言われてみれば少しふらつく。
なすがままにベッドに戻される國島だが彼女の顔を見てあることに気付いた。
「あれ!?榛地じゃん!ここどこなの?」
「えっ…」
急に知らない名前で話しかけられた少女は少し驚いた表情になった。
「私の名前はシンディですよ?ここは私の家です。」
「え、シンディ…?」
よく見てみると顔も髪型もそっくりだが榛地よりも幼く見える。高校生くらいだろうか。
何より榛地の頭に羊のような角は付いていない。あともみあげが長い。腰くらいまである束を金属のリングでまとめていた。
前髪が片側だけ長く、片目が隠れがちになっている。
服装もどこかの国の巫女みたいな服装だ。
名前の響きもそっくりだが別人のようだ。
「林の池の近くで倒れているあなたをフィーとラズリが運んできたんです。あとでお礼してあげてくださいね?」
「あぁ…(フィーとラズリ?)ところでその角って何なの?コスプレ?」
「コスプレ?何のことかわかりませんがこの角は私の角ですよ?」
「ふーん…」
設定に凝ってる子なのかな?と思って國島はあまり深く聞かない事にした。
「話は変わるけど君が看病してくれたみたいだね。ありがとう!」
「いえっ、医者の娘なのでケガしてる人を治してあげるのは当然の事です!
まだ魔法が未熟なので傷が開いてしまうかもしれませんけど…」
ちょっと恥ずかしそうにしている。
(それで寝てろって言ったのか。ん?ていうか魔法?)
もしかしたら結構痛い子なのかなと國島は思った。
寝てろと言われたしもうちょっとだけ寝てようかなと思って國島が目をつむろうとすると聞き覚えのある歌が聞こえてきた。
「あれ、この歌…」
「あぁ、フィーの歌ですよ。よくこうやってラズリに聞かせてあげてるんですよ。」
そう言ってシンディが窓の外を見る。
國島もつられて窓の外を覗いてみるとさっき池で見かけた女の子と
さっきのドラゴンがいた…。
國島はベッドから飛び起きて外へ飛び出していった。
「あ、ちょっと!まだ寝てなきゃダメですって!!」
どう見てもドラゴンだ…。
ドラゴンに似てる動物なのかと思ったけど、どうやって見てもドラゴンだ…。
爬虫類のような青白い肌に蝙蝠のような羽、先端にはかぎ爪が付いている。
4本の脚があり、頭には何本か角が生えている…
切れ長の大きな目は瑠璃色のように濃くて綺麗な蒼で怖いというよりは美しいという印象を与えている。
そして額には瞳の色と同じく瑠璃色の綺麗な玉のような物が収まっていた。
そして行儀よく座りながら女の子の歌を聞いていた。
「おお、目が覚めたか。倒れているお前を見たときは心底驚いたぞ!」
國島に気付いた女の子が話しかけてきた。
10歳前後くらいだろうか。
薄っすらと青くて白い髪を地面に付きそうなくらい長く伸ばし、頭にツバの付いていない浅い円筒形の帽子を被っている。
ドラゴンとはまた違った透き通るような美しい青い目をしている。
特別寒いわけではないが外套のような物を羽織っている。
「え、それ…ドラゴンだよね…ほ、本物?」
「ん?本物に決まってるじゃないか。お前、ドラゴン見たことないのか?」
「いや普通あるわけないでしょ!!」
女の子はいや普通あるだろって顔をしている。
と、そこへベッドを飛び出していった國島の後を追ってシンディがやってきた。
「ま、まだ、寝てなきゃ、ダ、ダメって、言ったじゃ、ないですか…」
余程体力が無いのか部屋の中から家の庭まで走っただけなのに息を切らしている。
「だ、だってドラゴンが家のすぐ外にいるんだよ?!誰だって驚いて飛び出すでしょ??!」
「え、ドラゴンくらい普通じゃないですか?」
え、普通なの?
何かおかしい気がする…
なんとなく家の作りとかも日本っぽくないような…
「あの…変な事をお尋ねしますがここって日本ですよね?」
「二ホン?なんですかそれ?ここはガル村ですよ?」
なん…だって…
國島に雷のような衝撃が走った。
そして血の気が引いていった。
「え、日本じゃない?じゃ、じゃあ俺はどこの国まで来ちゃったんですか?」
「…?だからここはガル村ですって。国じゃないですよ?」
「一番近い国はヴァ―モル公国ですね」
どっちも…知らない…
しかも公国なんて地球上に何個もないはずなのに聞いたこともない…
そんな事絶対無いと思うけど一応ハッキリさせておきたい
「あのぉ…一応聞くんですけど…ここって地球ですよね?」
「チキュウ?チキュウって?」
「俺たちが立ってるこの世界の事だよ!」
「この世界は女神サフィア様の治めるエル・ドラメでは?」
國島は膝から崩れ落ち、白目をむいた。
*
「ハッ!」
「あ、起きた」
またベッドの中だ。
また気絶したようだ。
ベッドの脇にはさっきの女の子が腕を組んだ上に頭を置いてこちらを見ている。
「また倒れたのか。体が弱いなぁ」
女の子に軽くバカにされている。
目が覚めたら基地に戻っていると思ったのに!そう上手くはいかないようだ。
「いやあちょっと信じられないことが重なって…今も信じられてないけど…」
「なんだお前はどこか遠いところからきたのか?ドラゴンを見たくらいで驚くなんて」
「どうやらそうみたい…ドラゴンなんて見たことないもん…どうしよう…」
どうやら地球ではなさそうだとわかって國島は絶望しかけていた。
(イーグルで宇宙に出て他の星まで行けるわけがないし、ここはいったいどこなんだろう…)
と、そこへまた部屋に唯一ある扉が開いておぼんに水を乗せたシンディが入ってきた。
「あ、起きたんですね。突然倒れるからびっくりしました。」
「どうもびっくりする事が重なって…」
「もう一回聞くけどここは地球って場所じゃないんだよね?」
「そうですよ。ここはエル・ドラメのガル村です。」
「ちょっと村の風景を見てみますか?そのチキュウって場所とは違うって事がわかるかもしれません。」
さっき外に出た時はドラゴンに驚いて急いで庭に行ってしまったので確かに村の様子は見ていなかった。
國島は部屋を出て家の玄関まで行き木製の扉を開けた。
家を出てすぐの道には誰もおらず、家が並んでいるだけだった。木製の家が多いようだ。
周りの家を見ながら少し道を進んでいくと賑やかな声が聞こえるようになってきた。
その賑やかな声がする道に入ると商店街のように店が並んでいた。
そしてそこで買い物をする人たちを見てここが地球でないと確信した。
確かに人間のような人たちもいるがシンディのように角がある人たちがいる。耳が長い人も。
極めつけには明らかに動物の顔をしている人たちがいた。
虎の顔や犬の顔など様々な動物の顔をしている。
ぬいぐるみかとも思ったがどう見ても被り物をしている感じではない。普通に口を動かして喋ってるし。
そういう人たちがドラゴンを連れながら歩いている。
とても地球人とは思えない。
國島は走ってシンディの家へと戻った。
「うん、確かにここは地球じゃないみたいだね…」
「何かチキュウと違うところはありましたか?」
「うん、地球には角が生えた人も耳があんなに長い人も顔が動物の人もいないからね。俺みたいなノーマルタイプの人しかいないからね。」
「えっ!いないんですか!ロークドもエルフもアニメイルの人たちも!?ヒューオムの人たちだけなんですか?!」
自分のように角が生えてる人たちがいないと聞いてシンディは心底驚いた。
「ちょ、ちょっとそのチキュウについて教えてください!」
シンディと國島はイスに座り、情報交換会を始めた。
地球にはアニメイルはいないが同じような顔の動物はいること、エル・ドラメでは魔法が使え、地球では伝説とされている生物がいること…
お互いに知っていることは色々話した。
「どうやら色々違う世界のようですね…」
「うーん…一体どうやってここに来ちゃったんだろう…どうやって帰ればいいんだろう…」
「ちょっとここに来てしまった直前の事を話してみてください。何かわかるかもしれません。」
「わかった。
まず俺は軍隊みたいなところに所属しててね、そこで飛行機っていう空を飛ぶ機械に乗ってたんだ。
で、その日はドラゴンみたいなのが出たから見てこいって言われて行ったんだ。
ドラゴンなんてこっちの世界じゃ空想の生物だから何かの間違いだと思いつつその場所へ行ったんだ。
そしたらほんとにドラゴンみたいなのがいて追いかけたんだ!
そうしたらすごい速さで移動するもんだから飛行機の速度を最高にしたんだ。
そして気付いたらこの世界の空を飛んでたってわけさ。」
「うーん…そちらの世界にいないドラゴンがいたというのが気になりますね…
そのドラゴンと交換でこっちに来たんでしょうか…?」
「いやあ、そもそもドラゴンだったかもわからないんだけどね」
「ところでお前!空を飛ぶ機械に乗ってたって言ってたな!という事は空を飛ぶのは慣れっこだな!?」
今まで黙って話を聞いていた女の子が急に声を上げた。
「え、まあ一応キャリアは数年あるけど…」
「よーし、表へ出ろ!」
女の子は國島の袖を掴み外へと連れて行った。
表へと連れていかれた國島は女の子の歌を聞いていたドラゴンの前に立たされた。
「この子はラズリっていうんだ。そういえば名前を教えていなかったな。フィーの事はフィーと呼ぶがいい。」
「フィーとラズリ…ああ!じゃあ君が林の中で倒れた時に運んでくれたんだね!どうもありがとうございました。」
フィーと名乗った女の子はまあまあそう大したことではないと言いたげなドヤ顔だ。
「で、お前の名前は?」
「ああ、俺は國島春樹っていうんだ」
「おお、お前も名前にハルと付くのか!よし、今度からお前の事はハルと呼ぶぞ!」
フィーはその綺麗な青い目をキラキラ輝かせた。
「うん、あっちの世界の知り合いもハルって呼ぶからそれでいいよ。」
「ん?お前「も」ていうのは?」
「フィーの本名はフィア・ハルネスっていうんです。ふふっ、自分と同じ名前が入ってて親近感が湧いたんでしょうね」
シンディが微笑みながら教えてくれた。
「なるほど!よろしくな、フィー。」
「うむ。よろしくな、ハル。」
二人は熱い握手を交わした。
「ちなみに私はシンディ・エアハートって言います。」
別に聞いていないのにシンディが割り込んできた。
「私もハルって呼んでいいですか?」
「ああ、もちろん。よろしく、シンディ。」
「はい、よろしくお願いします。ハル。」
二人は固い握手を交わした。
「よし、ハル。ラズリの前に立て。」
「あ、ああ…」
フィーに無理矢理引っ張られてラズリの前に立たされた。
「別に襲ったりしないから安心しろ。しかしいきなり知らない奴に乗られてもラズリもおもしろくないだろうからな。まず自己紹介といこう。」
「話しかけながらゆっくりと頭を撫でろ。」
「え、乗るの?」
「いいから早くしろ!」
半ば無理矢理ラズリの方へと押し出されたハルは、言われた通りに自己紹介をしながら近づいた。
「や、やあ!ボクはハル!君の名は?」
喋れるわけがないのに、名前も知ってるのに名前を聞いた。
もちろん返事はない。
そのままゆっくり近づき頭を撫でようとした。
そして、手を触れようとした瞬間、急にラズリが立ち上がり、牙を剥いた。
ああ、死んだわ。こんなよくわからない場所でドラゴンに食べられて死んだわ。
と、ハルと最期の言葉は何がいいかと考えていると、
またあの歌が聞こえた。
フィーがまたあの歌を歌っている。
知らない言語なので意味はわからないがどこか懐かしく、子守唄のような心地よい歌声だ。
最期にこの歌を聞きながら死ぬのもいいかもしれないと思っていると段々とラズリの表情が落ち着いてきた。
そしてまたお行儀よく座って歌を聴いている。
「その歌ってそんな効果があるのか…」
「お前バカか!いきなり「竜の瞳」に触ろうとしたら怒るに決まってるだろ!」
「え、「竜の瞳」って?」
全く理解できていないハルにシンディが教えてくれた。
「ドラゴンの額にある玉のような物ことです。瞳にも見えるので「竜の瞳」と呼びます。ドラゴンにとっては命の次に大事なものです。」
「そ、そうだったのか…気を付けるよ」
「よし、もう一回やってみろ!」
またフィーが無理矢理ラズリの方へ押し出した。
今度は「竜の瞳」に触らないように気を付けながら優しく撫でた。
今度は受け入れてくれたようだ。
「よし、いいだろ。背中に乗れ」
「え、もう?」
「大丈夫だ。ラズリの方で落とさないように飛んでくれるから。」
ラズリも状況を理解したのか体を低くしてくれた。
「ほら、早くしろ。」
またフィーに無理矢理押し出された。
恐る恐る乗ってみると完全に座りきる前にラズリが立ち上がった。
「うわッ!」
落ちそうになったがラズリが上手く体勢を変えてくれた。
そしてそのまま軽く助走をつけると、一気に空へと飛びあがった。
「うおおおおおっ!?」
正直ヘルメットも航空メガネも無しなので目を開けているのが大変だった。
しかしやはり空を飛ぶ感覚が染みついているのか居心地がよかった。
景色も素晴らしい。
ちらほらと国や村のようなものは見えるが自然の方がたくさん残っているようで綺麗な森や池がたくさんみれた。
遠くの方には海もあるようだった。
グルっと一回りするとラズリは元の場所へと戻っていった。
そして地上から数メートルの高さでホバリングした。
「どうだ!気持ちいだろ!」
下からフィーが叫んだ。
「ああ!もう一周してきたいくらいだよ!」
ハルも下に向かってそう叫んだ。
そして顔を上げると遠くの方から何か飛んでくるのが見えた。
「ねえ、あれって…」
ハルがフィーとシンディに聞こうとすると
「おい!またあいつらが来たぞ!」
熊の顔のおじさんが焦った様子で走ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる