上 下
16 / 19

16

しおりを挟む
「これは……チャイティー」

まろやかなのに、鋭い香りが鼻を抜けていく。
複雑で優しい刺激と濃厚な甘みが、口いっぱいに広がった。

体が一気にぽかぽかとし始める。
その心地よさに、思わず呟いてしまった。

「あら?  知っているの?  」

エリザベート王妃陛下が反応する。

アルネは、今、王城の王妃の私室サロンを訪れていた。

継母ははが好きでしたので」

異国の料理人を招いた際に、教えてもらったのだ。継母はははいたく気に入り、手に入れようと奔走した。
しかし、あまりの高価さに、公爵家をもってしても諦めざるおえなかった。

……流石は、王家である。

「フランク公爵夫人ね」

王妃陛下が、短く吐き捨てるように言った。


「それで、ハルクの調子はどうなの?  」

ティーを一口含んだ王妃陛下が、尋ねた。

「……あれから、一度もお会いできていません」

「 ……そう」

ずっと、旦那様のことを気にされている。
実はここを訪れるのも、2度目だった。

「以前国王陛下がおっしゃっていた『この国の危機的状況』とは、10年前の厄災と関係があるのですか?  」

「貴女、10年前の厄災についてどの程度知っているの?  」

「国王軍が魔を斥けたと、リアに聞きました。旦那様のお義父様とお義母様、そして、婚約者様が戦いのさ中、お亡くなりになったとも」

「そうね 」

女王陛下の表情が憂いを帯びたものになった。

「初めは誰も、あそこまで酷い大災害になるとは、考えていなかった。
魔土の出現頻度が少し多い。その程度の認識
だった。
私も、全力で対応すれば、例年通り、すぐ沈静化するだろうと思っていたわ。
各貴族に声をかけ、自領地に出現した魔土の浄化にあたらせた。
彼らはよく働いてくれたわ。でも、一向に浄化できたとの報告が上がってこなかった」

「そっ、そんなことがあるんですかっ!?」

「王国の長い歴史の中でも、なかなか、聞かないわね。だからこそ、この国が存続できているのだから」

「原因は何だったのです?  」

「元素均衡の崩れ方が、例年以上に激しかったためと言われているわ。
元素濃度が濃くなり、呼ばれた魔物は異常に強かった。
私達は、領地関係なく人員を動員して対応に当たることにした。時間をかければ、浄化できるとふんだのよ。
でも、それが甘かった。浄化しきる前に、次々と新たな魔土が出現し、 地上は元素で溢れかえってしまった」

「地上が……元素で…… 」

「厄介だった魔物は、さらに手に負えなくなった。
異なる元素から生み出された魔物が、連携を謀り攻撃してくるようになった。最悪よ。
被害は益々拡大し、さらに多くの犠牲を払うことになったわ」

ちょっとだけ、想像してみた。

火元素の魔物を攻撃すために生み出した水が、土元素の魔物の攻撃によって無効化されるのである。

ぞっとした。

「でも、それすら、序章に過ぎなかったわ」

既に言葉のでないアルネを尻目に、王妃陛下が続ける。

「今度は、四元素が混じりあったところで、異変がおこった。辺り一面、真っ黒な元素に覆われ始めたの。
それこそ、魔気と呼ぶに相応しいほどの禍々しさだったわ。
厄介なことに、この元素は指輪を介した浄化ができないの。
魔気は、急速に地上を呑み込んでいき、ついには、魔物を呼び寄せた。
きっと史上最凶の龍種であろう、暗黒龍を」

「史上……最凶の、龍」

「国王陛下の最愛の弟にして、ハルクの父である前サルヴィア公爵とその夫人、そしてハルクの幼馴染でもあった婚約者の命を奪った、超本人よ」

王妃陛下が忌々しげに言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

御用改
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

カウンターカーテシー〜ずっと陰で支え続けてきた義妹に婚約者を取られ家も職も失った、戻ってこい?鬼畜な貴様らに慈悲は無い〜

御用改
恋愛
義父母が死んだ、葬式が終わって義妹と一緒に家に帰ると、義妹の態度が豹変、呆気に取られていると婚約者に婚約破棄までされ、挙句の果てに職すら失う………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、主人公コトハ・サンセットは呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまでの鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………。

6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。 それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。 それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。 「お父様、私は明日死にます!」 「ロザリア!!?」 しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。

これが私の兄です

よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」  私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。  理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。  だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。  何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。  周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。  婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。

今更「謝るから」と言われましても

音爽(ネソウ)
恋愛
素直になれない男の懺悔 *2021、12、18 HOTランキング入りしてました、ありがとうございます。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです

ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。 侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。 アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。 同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。 しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。 だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。 「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」 元々、これは政略的な婚約であった。 アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。 逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。 だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。 婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。 「失せろ、この出来損ないが」 両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。 魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。 政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。 だが、冒険者になってからも差別が続く。 魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。 そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。 心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。 ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。 魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。 その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。 何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。 これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。

私この戦いが終わったら結婚するんだ〜何年も命懸けで働いて仕送りし続けて遂に戦争が終わって帰ってきたら婚約者と妹が不倫をしてて婚約破棄された〜

御用改
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、イヴ・ペンドラゴン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら……妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………彼女本人は気づいてなかったが、救国の英雄とまでなった主人公を裏切った二人に人権はなく、国が総出で二人を追い詰めていく……途中イヴに媚びてくるが………彼女が二人を許すことはない………。 一方、主人公は主人公で最初は王子様、次は獣人達、様々な男が彼女に好意を向けるが、鈍感な主人公は気付かない………最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。 バトル展開がある章は即ざまぁ編、人狼国編、ロイ争奪編、勇者来訪編です、一応人狼国編とロイ争奪大会編、勇者来訪編の最後はラブコメっぽいことします。 日常回やラブコメ展開多めな章は増援要請編、天使と悪魔編、ドM令嬢編、ロイ様とデート編、魔王襲来編、この章達は全編バトル無しなので、バトルが嫌な人はこっちの方から読んだ方がいいかもしれません。

処理中です...