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「これは……チャイティー」
まろやかなのに、鋭い香りが鼻を抜けていく。
複雑で優しい刺激と濃厚な甘みが、口いっぱいに広がった。
体が一気にぽかぽかとし始める。
その心地よさに、思わず呟いてしまった。
「あら? 知っているの? 」
エリザベート王妃陛下が反応する。
アルネは、今、王城の王妃の私室を訪れていた。
「継母が好きでしたので」
異国の料理人を招いた際に、教えてもらったのだ。継母はいたく気に入り、手に入れようと奔走した。
しかし、あまりの高価さに、公爵家をもってしても諦めざるおえなかった。
……流石は、王家である。
「フランク公爵夫人ね」
王妃陛下が、短く吐き捨てるように言った。
「それで、ハルクの調子はどうなの? 」
ティーを一口含んだ王妃陛下が、尋ねた。
「……あれから、一度もお会いできていません」
「 ……そう」
ずっと、旦那様のことを気にされている。
実はここを訪れるのも、2度目だった。
「以前国王陛下がおっしゃっていた『この国の危機的状況』とは、10年前の厄災と関係があるのですか? 」
「貴女、10年前の厄災についてどの程度知っているの? 」
「国王軍が魔を斥けたと、リアに聞きました。旦那様のお義父様とお義母様、そして、婚約者様が戦いのさ中、お亡くなりになったとも」
「そうね 」
女王陛下の表情が憂いを帯びたものになった。
「初めは誰も、あそこまで酷い大災害になるとは、考えていなかった。
魔土の出現頻度が少し多い。その程度の認識
だった。
私も、全力で対応すれば、例年通り、すぐ沈静化するだろうと思っていたわ。
各貴族に声をかけ、自領地に出現した魔土の浄化にあたらせた。
彼らはよく働いてくれたわ。でも、一向に浄化できたとの報告が上がってこなかった」
「そっ、そんなことがあるんですかっ!?」
「王国の長い歴史の中でも、なかなか、聞かないわね。だからこそ、この国が存続できているのだから」
「原因は何だったのです? 」
「元素均衡の崩れ方が、例年以上に激しかったためと言われているわ。
元素濃度が濃くなり、呼ばれた魔物は異常に強かった。
私達は、領地関係なく人員を動員して対応に当たることにした。時間をかければ、浄化できるとふんだのよ。
でも、それが甘かった。浄化しきる前に、次々と新たな魔土が出現し、 地上は元素で溢れかえってしまった」
「地上が……元素で…… 」
「厄介だった魔物は、さらに手に負えなくなった。
異なる元素から生み出された魔物が、連携を謀り攻撃してくるようになった。最悪よ。
被害は益々拡大し、さらに多くの犠牲を払うことになったわ」
ちょっとだけ、想像してみた。
火元素の魔物を攻撃すために生み出した水が、土元素の魔物の攻撃によって無効化されるのである。
ぞっとした。
「でも、それすら、序章に過ぎなかったわ」
既に言葉のでないアルネを尻目に、王妃陛下が続ける。
「今度は、四元素が混じりあったところで、異変がおこった。辺り一面、真っ黒な元素に覆われ始めたの。
それこそ、魔気と呼ぶに相応しいほどの禍々しさだったわ。
厄介なことに、この元素は指輪を介した浄化ができないの。
魔気は、急速に地上を呑み込んでいき、ついには、魔物を呼び寄せた。
きっと史上最凶の龍種であろう、暗黒龍を」
「史上……最凶の、龍」
「国王陛下の最愛の弟にして、ハルクの父である前サルヴィア公爵とその夫人、そしてハルクの幼馴染でもあった婚約者の命を奪った、超本人よ」
王妃陛下が忌々しげに言った。
まろやかなのに、鋭い香りが鼻を抜けていく。
複雑で優しい刺激と濃厚な甘みが、口いっぱいに広がった。
体が一気にぽかぽかとし始める。
その心地よさに、思わず呟いてしまった。
「あら? 知っているの? 」
エリザベート王妃陛下が反応する。
アルネは、今、王城の王妃の私室を訪れていた。
「継母が好きでしたので」
異国の料理人を招いた際に、教えてもらったのだ。継母はいたく気に入り、手に入れようと奔走した。
しかし、あまりの高価さに、公爵家をもってしても諦めざるおえなかった。
……流石は、王家である。
「フランク公爵夫人ね」
王妃陛下が、短く吐き捨てるように言った。
「それで、ハルクの調子はどうなの? 」
ティーを一口含んだ王妃陛下が、尋ねた。
「……あれから、一度もお会いできていません」
「 ……そう」
ずっと、旦那様のことを気にされている。
実はここを訪れるのも、2度目だった。
「以前国王陛下がおっしゃっていた『この国の危機的状況』とは、10年前の厄災と関係があるのですか? 」
「貴女、10年前の厄災についてどの程度知っているの? 」
「国王軍が魔を斥けたと、リアに聞きました。旦那様のお義父様とお義母様、そして、婚約者様が戦いのさ中、お亡くなりになったとも」
「そうね 」
女王陛下の表情が憂いを帯びたものになった。
「初めは誰も、あそこまで酷い大災害になるとは、考えていなかった。
魔土の出現頻度が少し多い。その程度の認識
だった。
私も、全力で対応すれば、例年通り、すぐ沈静化するだろうと思っていたわ。
各貴族に声をかけ、自領地に出現した魔土の浄化にあたらせた。
彼らはよく働いてくれたわ。でも、一向に浄化できたとの報告が上がってこなかった」
「そっ、そんなことがあるんですかっ!?」
「王国の長い歴史の中でも、なかなか、聞かないわね。だからこそ、この国が存続できているのだから」
「原因は何だったのです? 」
「元素均衡の崩れ方が、例年以上に激しかったためと言われているわ。
元素濃度が濃くなり、呼ばれた魔物は異常に強かった。
私達は、領地関係なく人員を動員して対応に当たることにした。時間をかければ、浄化できるとふんだのよ。
でも、それが甘かった。浄化しきる前に、次々と新たな魔土が出現し、 地上は元素で溢れかえってしまった」
「地上が……元素で…… 」
「厄介だった魔物は、さらに手に負えなくなった。
異なる元素から生み出された魔物が、連携を謀り攻撃してくるようになった。最悪よ。
被害は益々拡大し、さらに多くの犠牲を払うことになったわ」
ちょっとだけ、想像してみた。
火元素の魔物を攻撃すために生み出した水が、土元素の魔物の攻撃によって無効化されるのである。
ぞっとした。
「でも、それすら、序章に過ぎなかったわ」
既に言葉のでないアルネを尻目に、王妃陛下が続ける。
「今度は、四元素が混じりあったところで、異変がおこった。辺り一面、真っ黒な元素に覆われ始めたの。
それこそ、魔気と呼ぶに相応しいほどの禍々しさだったわ。
厄介なことに、この元素は指輪を介した浄化ができないの。
魔気は、急速に地上を呑み込んでいき、ついには、魔物を呼び寄せた。
きっと史上最凶の龍種であろう、暗黒龍を」
「史上……最凶の、龍」
「国王陛下の最愛の弟にして、ハルクの父である前サルヴィア公爵とその夫人、そしてハルクの幼馴染でもあった婚約者の命を奪った、超本人よ」
王妃陛下が忌々しげに言った。
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