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第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~

平和なひととき

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 ハクに連れられ壇上前に移動すると、講堂の照明が落とされた。

 壇上中央には細い一本足のテーブルが置かれており、その上に巨大な肉の塊が乗せられていた。目算で大人の胸ほどの高さが有りそうだ。

 そこに、赤い髪の男の子が入場してくる。
 ドン様と瓜二つの風貌であったが、こちらは幾分表情が幼く可愛らしい。緊張しているのか、動きが不自然でカクカクしていた。

 しかしそんな彼も、銅鑼の合図で雰囲気が一変する。目がキリリと釣り上がり、一端の戦士へと変貌を遂げた。

    彼が剣の柄を高らかに掲げると、そこから炎の刃が噴き出す。
 そして、音に合わせ舞い始めた。

 皆が息をのむ。
 動かぬはずの肉が、まるで、生きているように、二者が絡み合い始めた。

「余が相手を致そう」

 そこにもう1人が割って入る。
 慈愛に満ちた瞳を爛々と輝かせた、長身痩躯の国王陛下である。

 突然声を掛けられた男の子は、一瞬固まった。
 しかし、それは本当にホンの一瞬だった。
    日頃のゴンちゃんを知らねば気付けないほど、些細な変化だった。

 二者の舞いから、三者の舞いに流れる様に変貌をとげ、会場はさらに魅了されていく。
 
    それはまさに、手に汗握る迫真の炎舞だった。
    余りの白熱っぷりに、俺は、全然焼けないか、黒焦げになるのではないかと心配になった程だ。
 が、杞憂に終わった。

 拍手に応える二人の背後には、こんがりと満遍なく焼きあがった龍焼ロンシューがドドーンと鎮座していた。芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

 巨大龍焼ロンシューは、マスターの手で切り分けられることになった。
 その第1号が今日の主賓、ラヴォア新学術院長である。

「マスター、素晴らしかったです」

「ガハハハハハ、ゴンと国王陛下のお陰だな」

 豪快に笑うマスターの隣で、赤い髪の男の子が恥ずかしそうに俯いていた。

「ゴンちゃん、カッコよかったよっ!!  」

「うん、私のために、ありがとう」

「い、いえ。こちらこそ、ありがとうございます」

 ハクと博士の祝福に、照れたように答えている。やはりこちらも兄貴と一緒で、キャラ変しているようだ。

「人の祝賀会まで商売の宣伝に使うとは、流石だな」

「ガハハハハハ、バレちまったか。
 これを機会に、エローにも分店を出す予定だからなっ!  贔屓にしておくれよ、新学術院長殿っ!!  」

 分厚い肉を受け取る博士の軽口に、軽口で返すマスター。相変わらず仲がいいようだ。

「次、僕ーっ!!  って、あぁっ!! 」

 二番を名乗りでたハクの前に、ズイっと現れる赤髪強面イケメン。

『俺様がいっちばーん!  』とはならず。

「す、スマン、割り込んでしまった。レッタ嬢に持って行ってあげようと思ったのだ」

「えっ!  あっ、うん、いいよ。レッタ嬢さんに先に持って行ってあげてっ!  」

「すまない。ありがとう」

 ハクまで、変になっている。

「きゃー、何なのあれ?  」

 黄色い声は、当然アミちゃんである。そちらを振り向いて、ギョッとした。隣に野獣が佇んでいたのだ。あの美女と野獣の、野獣である。

 会場がザワついているのは、焼龍ロンシューだけが原因ではなかったようだ。

「えーーっと、そちらの野獣さんは?  」

「ワイや、黄さんやで!  どないや、カッコええやろ!  」

 黄さんは、黄さんで、ブレない。
 うーん、前世であれば女の子の憧れではあったのだろうけど、なぁ?

「アミちゃん、これはどういう事?  」

「きいてよー!  あたしの『守護彼氏』はこんなのだったのーーっ!  やっぱり、ヴァイオレッタ皇妃陛下と交換してくるっ!!  」

「なんや、交換制度もあるんかいなっ!  それ、おもろそーやなぁ!  ワイものったるでーっ!!」

 騒がしい二人が去っていく。これはこれで、愛称抜群なのか?
 そんな2人を見送りつつ俺も肉を受け取って、敬愛なる飼い主様のところへ献上することにした。

 パーティは、その後夜まで続いた。
 美女と野獣の優雅なダンスを観賞したり、赤髪強面イケメンから実践型社交術を学び取ったり、ピロロにぶんぶん振り回されながら踊りきったり、と、平和で楽しい一時が流れていった。

 そして、念願の、エローINNで一泊した俺達は無事、マゼンタ王国に帰りついたのだった。
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