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第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~
女神降臨
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目の前は真っ白だった。
ゆがんでいる様にも見える。
というか、俺自身目を開けているのかどうかさえ、自信がもてなかった。
兎に角、眩しい。
体はじんわりとした温もりに包まれ、頭がぼーーっとしていた。
早々に思考を諦め、その温もりに身をゆだねる。
すると、次第に眩さは落ち着いていき、人の輪郭が浮かび上がってきた。
「ピ、ロ、ロ? 」
ピロロが立っていた。
しかしながら、いつもと雰囲気が違う。衣服はそのままだったのだが、髪の毛が銀髪で瞳まで白い。
その姿をみたら一気に脳が覚醒し、記憶が蘇ってきた。
ピロロはボン・ブラックと闘っていたのだ。そして、心臓を貫かれたはずだった。
俺の見間違いだったのだろうか。
「ピロロっ!! 」
「貴様、何故生きている? 」
俺の言葉はボン・ブラックの問いにより遮られた。
「妾は色素女神である。ソナタを粛正すべく天界より下って参った」
「……」
ボン・ブラックが無言で首を傾げた。
相変わらず、無表情なので不気味さがより一層増す。
そのまま、ピロロ――もとい、色素女神様に飛びかかっていった。
ガキーーーーンッ!!
凄まじい衝撃音と共に、ボン・ブラックは吹き飛ばされた。
まるで、デジャブを見ているかのようだった。
「妾の力の一部を与えられし人間風情が、妾に歯向かおうなど笑止千万。その罪の深さを思い知るがいい」
吹き飛ばされたボン・ブラックの体がグググっと持ち上げられた。ちょうど襟元を掴まれているような形だ。
ボン・ブラックがジタバタともがき始めた。
驚愕と苦悶で表情が歪んでいる。
皮肉にも、初めて見る人間らしい表情だった。
ボン・ブラックも俺に負けず劣らず、かなりの大馬鹿者だったようだ。ことここに至って漸く自らの危機を受け入れたらしい。
「ソナタはお痛がすぎた。妾の力は返してもらうぞ」
色素女神様が手をかざすと、ドン・ブラックが見る見るうちに干からびていく。しまいには黒い砂塵となって散り始めた。
それと共に、言いようの無い負の感情が流れ込んできた。
貧困、国民の餓死、病気の蔓延、華やかな他国への憧れや羨望、そして、自国や自らの運命に対する憎悪、ついには世界の破滅。
あの能面のような表情が思い出される。
ボン・ブラックは自らの心を守るために、一切の感情を捨てたのではなかろうか。
そんなことを考えていると、再び砂塵が集まりだした。
そして、1人の少年を形作る。ハクによくにた風貌であったが、全身真っ黒だった。
鋭い目付きで色素女神様を睨んでいる。
「黒、また、ソナタか。妾とて、今度ばかりは庇いきれぬぞ」
「うっせぇっ、くそババァ! 誰も庇ってくれなんて頼んでねぇっ! 俺を消滅させるなら、さっさとそうしやがれっ!! 」
「あっ、あのっ、どういうことですか? 」
穏やかならぬ会話に思わず、口を挟んでしまった。
「本来ならば人間などに聞かせるべきことではないが……。ソナタには話さねばなるまいな」
色素女神様がこちらを向いて話しだした。
少年は色素精霊の黒であった。
以前アナターゼ総主教から聞いた通り、黒と白の因縁は人類史以前から繰り返されているのだそうだ。
その度に、色素女神様が介入し、事を荒立てぬよう治めてきたのだという。
しかし、それも限界だとういう。
天界の神々の間で、黒の沙汰について議論なされているというのだ。
「あのっ、色素の調和が乱れると、女神様の御加護が途絶え、世界が滅ぶと聞いたのですが……」
「うむ。黒は全て色素精霊の源となる原初の精霊だ。彼奴を消滅させれば、他の精霊も共に滅ぶ。必然、この世界の秩序も作り替えねばならぬな」
「ちょっと、待ってくださいっ!!
それって、今生きている人々はどうなるのですか? 」
「共に滅ぶな」
女神様はさらっと言ってのけた。
神々にとっては、人間など取るに足らない存在なのだろう。
いやいや、待て待て。
冗談ではない。こんな痴話喧嘩に巻き込まれて滅ぶなんてありえない。なんとしてでも回避せねば。
あの反抗期真っ只中の少年は、女神様の気を引きたいだけなのだ。
だから、度々問題を起こし、色素女神様が来てくれるのを待っているのだろう。
その気持ちを正直に表現出来ないのも、お年頃なのだろう。精霊の年齢なんて知らんけど。
「妾は黒を連れて、天界に帰る」
「もう、黒が裁かれることは決定なのですか? 」
「今後の此奴の態度次第であろう。なんにせよ、妾と此奴は話し合わねばならん。
他の精霊達も天界で妾の帰りを待っているでな」
「俺はアンタなんかに、ついて行かねーぞっ!! 」
黒が叫んだ。
最期の一言で明らかに、その表情が歪んだ。
『僚が生まれた時、翔の荒れようは酷かったのよ。今思うと、それまでワガママなんて殆ど言わない子だったから、余計にそう感じたのね。
僚に意地悪はするわ、床に寝っ転がって動かなくなるわ。母さん、途方に暮れたわ』
昔、母と交わした何気ない会話が、ふと蘇ってきた。翔とは俺の三つ上の兄のことだ。
あの時、何と言っていただろうか。
叱ったのだったか?
違うな。それは、逆効果だったと言っていたな、たしか。
『できるだけ、翔との時間を作るようにしてスキンシップを増やしたの。
そしたら、自然と収まっていったわ。
きっと、自分も愛されていることが分かり安心できたのね』
これだっ!
「好きにするが良い。妾は先にゆくぞ。 7日が期限じゃ。ピロルよ7日たって黒が戻らぬ場合は、諦めよ 」
「ま、待ってくださいっ!!
橙、藍、紫、俺がお前達と遊んでやるっ! 俺の元へ来いっ! 」
色素女神様を制して、俺は天に向かって叫んだ。
その瞬間、天から3色の光が降り注ぐ。
「……ソナタは何をやっているのだ。
なんだ黒? ついてくるのか? 」
「ふんっ!
あいつが余計なことをしやがったから、気が変わっただけだっ! 」
呆れたような表情の女神様と、憎まれ口を叩きつつも満更でも無さそうな黒が天に登るの姿を見送りながら、俺は床へと倒れ込んだ。
きっとこれから、地獄を味わうのだ。
とりあえず、今の俺に出来ることはここまでだろう。
薄れゆく意識の中、馴染みのある温もりにそっと包まれるのを感じた。
ゆがんでいる様にも見える。
というか、俺自身目を開けているのかどうかさえ、自信がもてなかった。
兎に角、眩しい。
体はじんわりとした温もりに包まれ、頭がぼーーっとしていた。
早々に思考を諦め、その温もりに身をゆだねる。
すると、次第に眩さは落ち着いていき、人の輪郭が浮かび上がってきた。
「ピ、ロ、ロ? 」
ピロロが立っていた。
しかしながら、いつもと雰囲気が違う。衣服はそのままだったのだが、髪の毛が銀髪で瞳まで白い。
その姿をみたら一気に脳が覚醒し、記憶が蘇ってきた。
ピロロはボン・ブラックと闘っていたのだ。そして、心臓を貫かれたはずだった。
俺の見間違いだったのだろうか。
「ピロロっ!! 」
「貴様、何故生きている? 」
俺の言葉はボン・ブラックの問いにより遮られた。
「妾は色素女神である。ソナタを粛正すべく天界より下って参った」
「……」
ボン・ブラックが無言で首を傾げた。
相変わらず、無表情なので不気味さがより一層増す。
そのまま、ピロロ――もとい、色素女神様に飛びかかっていった。
ガキーーーーンッ!!
凄まじい衝撃音と共に、ボン・ブラックは吹き飛ばされた。
まるで、デジャブを見ているかのようだった。
「妾の力の一部を与えられし人間風情が、妾に歯向かおうなど笑止千万。その罪の深さを思い知るがいい」
吹き飛ばされたボン・ブラックの体がグググっと持ち上げられた。ちょうど襟元を掴まれているような形だ。
ボン・ブラックがジタバタともがき始めた。
驚愕と苦悶で表情が歪んでいる。
皮肉にも、初めて見る人間らしい表情だった。
ボン・ブラックも俺に負けず劣らず、かなりの大馬鹿者だったようだ。ことここに至って漸く自らの危機を受け入れたらしい。
「ソナタはお痛がすぎた。妾の力は返してもらうぞ」
色素女神様が手をかざすと、ドン・ブラックが見る見るうちに干からびていく。しまいには黒い砂塵となって散り始めた。
それと共に、言いようの無い負の感情が流れ込んできた。
貧困、国民の餓死、病気の蔓延、華やかな他国への憧れや羨望、そして、自国や自らの運命に対する憎悪、ついには世界の破滅。
あの能面のような表情が思い出される。
ボン・ブラックは自らの心を守るために、一切の感情を捨てたのではなかろうか。
そんなことを考えていると、再び砂塵が集まりだした。
そして、1人の少年を形作る。ハクによくにた風貌であったが、全身真っ黒だった。
鋭い目付きで色素女神様を睨んでいる。
「黒、また、ソナタか。妾とて、今度ばかりは庇いきれぬぞ」
「うっせぇっ、くそババァ! 誰も庇ってくれなんて頼んでねぇっ! 俺を消滅させるなら、さっさとそうしやがれっ!! 」
「あっ、あのっ、どういうことですか? 」
穏やかならぬ会話に思わず、口を挟んでしまった。
「本来ならば人間などに聞かせるべきことではないが……。ソナタには話さねばなるまいな」
色素女神様がこちらを向いて話しだした。
少年は色素精霊の黒であった。
以前アナターゼ総主教から聞いた通り、黒と白の因縁は人類史以前から繰り返されているのだそうだ。
その度に、色素女神様が介入し、事を荒立てぬよう治めてきたのだという。
しかし、それも限界だとういう。
天界の神々の間で、黒の沙汰について議論なされているというのだ。
「あのっ、色素の調和が乱れると、女神様の御加護が途絶え、世界が滅ぶと聞いたのですが……」
「うむ。黒は全て色素精霊の源となる原初の精霊だ。彼奴を消滅させれば、他の精霊も共に滅ぶ。必然、この世界の秩序も作り替えねばならぬな」
「ちょっと、待ってくださいっ!!
それって、今生きている人々はどうなるのですか? 」
「共に滅ぶな」
女神様はさらっと言ってのけた。
神々にとっては、人間など取るに足らない存在なのだろう。
いやいや、待て待て。
冗談ではない。こんな痴話喧嘩に巻き込まれて滅ぶなんてありえない。なんとしてでも回避せねば。
あの反抗期真っ只中の少年は、女神様の気を引きたいだけなのだ。
だから、度々問題を起こし、色素女神様が来てくれるのを待っているのだろう。
その気持ちを正直に表現出来ないのも、お年頃なのだろう。精霊の年齢なんて知らんけど。
「妾は黒を連れて、天界に帰る」
「もう、黒が裁かれることは決定なのですか? 」
「今後の此奴の態度次第であろう。なんにせよ、妾と此奴は話し合わねばならん。
他の精霊達も天界で妾の帰りを待っているでな」
「俺はアンタなんかに、ついて行かねーぞっ!! 」
黒が叫んだ。
最期の一言で明らかに、その表情が歪んだ。
『僚が生まれた時、翔の荒れようは酷かったのよ。今思うと、それまでワガママなんて殆ど言わない子だったから、余計にそう感じたのね。
僚に意地悪はするわ、床に寝っ転がって動かなくなるわ。母さん、途方に暮れたわ』
昔、母と交わした何気ない会話が、ふと蘇ってきた。翔とは俺の三つ上の兄のことだ。
あの時、何と言っていただろうか。
叱ったのだったか?
違うな。それは、逆効果だったと言っていたな、たしか。
『できるだけ、翔との時間を作るようにしてスキンシップを増やしたの。
そしたら、自然と収まっていったわ。
きっと、自分も愛されていることが分かり安心できたのね』
これだっ!
「好きにするが良い。妾は先にゆくぞ。 7日が期限じゃ。ピロルよ7日たって黒が戻らぬ場合は、諦めよ 」
「ま、待ってくださいっ!!
橙、藍、紫、俺がお前達と遊んでやるっ! 俺の元へ来いっ! 」
色素女神様を制して、俺は天に向かって叫んだ。
その瞬間、天から3色の光が降り注ぐ。
「……ソナタは何をやっているのだ。
なんだ黒? ついてくるのか? 」
「ふんっ!
あいつが余計なことをしやがったから、気が変わっただけだっ! 」
呆れたような表情の女神様と、憎まれ口を叩きつつも満更でも無さそうな黒が天に登るの姿を見送りながら、俺は床へと倒れ込んだ。
きっとこれから、地獄を味わうのだ。
とりあえず、今の俺に出来ることはここまでだろう。
薄れゆく意識の中、馴染みのある温もりにそっと包まれるのを感じた。
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