上 下
106 / 124
第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~

神殿より敵襲 (★教帝聖下視点)

しおりを挟む
 ──チタニア教帝領、教帝聖下執務室にて。

 午前のお祈りを早々に切り上げると、私は執務室で書類の整理に没頭していた。
 例の『黒い嵐』は、チタニアに甚大な被害をもたらした。多くの民が命を落とし、田畑は荒れ果てた。
 領民の生活基盤の復興、治安維持、周辺国への支援要請等々、早急に処理しなければならない問題は山積みだ。それに加え、紛失した機密文書の複製も重要な課題の1つだった。

 今、まさに、それに取り組んでいる。
 これらの書類は色素ピグメントにより閲覧制限がかけられていた。本の表紙に色素ピグメントを流すと文字が浮かび上がる仕組みだ。私と首席枢機卿、そして、書記官のみの色素ピグメントに反応し、それが起こる。

 それゆえに、その3名で頭を突き合わせて、記憶をたぐりよせることになった。完全に紛失したものの再現は困難を極めるため、とりあえず、水没のみで難を免れたものの復元からはじめた。
 濡れた書物は乾くと互いに貼りつく。しかも、泥水に浸ったため、茶色く染まり文字が見にくくなかなか解読が進まなかった。

 結局、我々の集中は1時間程度しかもたず、休憩を挟むことになった。

「 色素女神ピグマリア様がハクコクを人間界に宿され御加護を与えられた後、はじめは、上手くいっていたのですよね?  」

 茶ばんだ書類に目を落としながら、イルメナイト首席枢機卿が言った。

「うむ。どこかに記載されていたと思うが、二柱の融和を望んだ色素女神ピグマリア様により、今の我々よりも強力な御加護うけていたらしい。ハクの力は病気の治癒や農作物の豊穣、水の浄化などに至るまで、コクの力は物体強度の増強、肉体強化、そして、黒炎の取り扱いなどが記録されていたと思う。
 人々は自由に空を飛び回り、文明も現在よりも発展していたそうな」

 私の発言に反応し書記官が手を動かす。

「神殿は、その当時からあるのですよね?  」

「そうだ。当時から民の憩いと信仰の場として、5箇所とも今の場所造られていたはずだ。
 確か教帝聖下が二人いた時代もあったとか」

「……最近、ニガレオス帝国に攻めの兆候があったとききました」

 イルミナイト首席枢機卿が真っ青な顔で言った。

「エローとシアニンが軍備をさき、ニゲルの森を見張って……」

 ニガレオス帝国がこちらに攻め込むには、ニゲルの森を、絶対通らねばならない。
 各国の王とも話し合って、見張ることをきめたのだ。
 そこまで発言し、背中を嫌な汗が伝うのを感じた。


「「チタニア神殿だっ!!  」」

 私と首席枢機卿は同時に叫び立ち上がった。そして、廊下へと駆け出す。

「どうなされたのですっ!  」

 状況を飲み込めてない書記官が、背後で叫んだ。

 その瞬間私の脳裏に、神殿から沢山の漆黒兵が湧き出してくる映像が浮かんだ。

 チッ!

 またもや、遅すぎるお告げに苛立つ。

(ピロルっ!  きこえるかっ?  各国の王に伝えよっ!   神殿より敵襲っ!!  )

 私がそう思念するのと、立っていられないほどの地鳴りが鳴り響くのがほぼ同時だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界薬剤師 ~緑の髪の子~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:177

【本編完結】捨てられ聖女は契約結婚を満喫中。後悔してる?だから何?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,313pt お気に入り:8,001

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,262pt お気に入り:3,825

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:10,373pt お気に入り:1,088

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:444

処理中です...