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第四章 エロー学術都市~20年越しのざまぁ編~

飛び火

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「博士っ!  なんでそんな大事な事、教えてくれないんですかっ!!  」

 思わず叫んでいた。
 祝福したい気持ちやら、大事な事を伝えてもらえなかった悲しさ、博士が居なくなる寂しさなんかが、一緒くたに押し寄せてくる。

「いやっ、えーっと、その、まだ、決まったわけではなくて……」

 歯切れの悪い博士。
 あれっ、博士、喜んで……いない?

 それも、そーか。
 俺だって、博士がマッド化して政治に取り組んでいる姿は、ちょっと、想像出来ない。

「ふふっ、父上はもう決定事項だと言っていましたよ。責任をとって頂けるということで、お命の価値を高めて差し上げた?  とか」

 命の価値を高める?
 貴族って、そんなこと迄出来るのか?

「……はぁ。国王陛下の手腕には、完敗ですよ。責任を取ると言っても、差し出せる物は命ぐらいしかありません。そうお伝えしたら、危険に晒した殿のお命とは釣り合わないと。釣り合わせるために、エローの国家元首になれと。
 今のところ、お受けするつもりです。
 ただ、──」

「ただ、?  」

 項垂れる博士に、ピロロが先を進める。

「ただ、気の合うモノが現れたら、この限りではありません」

「ほぅ」

「どうするんですか?  」

 妖しく微笑むピロロの代わりに、俺が問う。

「駆け落ち……とか」

「……駆け落ち」

 なるほど。
 なんとかして、逃げたいのだな……。
 博士の苦肉の返答から、逃れられない運命への決死の抵抗が感じられた。

「あのっ、僕はどうなるの?  」

 ハクがおずおずと尋ねる。
 チタニア領に戻されるのではと、不安なのだろう。

「ハクくんにもエローに来てもらう方向で、今調整している。当初、マゼンタで色々教えていくつもりだったが、エローの方が学術水準が高いからその方がいいだろうと思って。
 もちろん、ハクくんが嫌でなければだが」

「……ピロルたちと離れるのは、寂しい……」

 ポツリと呟くハク。

「そこも何とかしようと思っている。優秀な色素魔獣ピグモンが学べたり、教壇に立てたり出来るようにしたいと思っている。
 少し時間はかかるかもしれないが……」

「一緒に勉強できるの?  」

「ああ、そうするつもりだ」

「やったぁ!  ピロルと一緒なら、行くっ!! 
  」

 相変わらず、可愛い。思わずぎゅーーっとしてしまった。
 ハクも満足した様なので、俺が話を引き継ぐ。

「とりあえず、学術院長ご就任おめでとうございます。
 折角、エローのお話がでたので、ついでにお伺いしたいのですが──」

「そんな堅苦しい話し方は、やめてくれ。
 ピロルくん、君は今まで通りでいい」

 俺の祝辞が終わると、皆、興味が落ち着いたようで、食事や雑談へと戻っていった。
 俺は、博士から許可を頂いたので、そのまま、エローについて教えてもらうことにした。

 ずっと気になっていたのだ。
 エローの発電の仕組みや化学品の入手方法について。
 流石に、石油は無いそうだ……いや、有るのかもしれないが、まだ、知られていないようだ。俺の話を聞いた博士に、逆に興味を示された。

 今現在、発電はゴミの焼却で賄っているらしい。発生した熱で水蒸気を加熱し、タービンを回すのだと。
 化学品は、色素ピグメントを分解した原料から合成されているらしい。ここら辺の反応は、俺の知識よりもずっと技術が進んでいるようだった。
 専用の触媒なんかも開発されているのだと。

 なんだか、ワクワクしてきた。
 先程まで悲愴感が漂っていた博士も、目を輝かせている。

「ところで、ピロロピロール妃殿下っ!  エローに駆けつけられた時、どのようにしてピロルくんの危機を察知されたのですっ?  」

 博士が明るく叫んだ。
 無駄に声が大きい。
 そして、目が妖しく輝いているような……?

「……」

 一瞬にして、静まり返る料理長室。
 何故か無言のまま、厳しい表情で黄金のオーラを纏い出すピロロ。

 皆の視線がピロロに集中した。
 やはり、俺の救出劇ということもあって、興味があるのかな?

「……これが送られてきた」

「えっ?  えっ?  俺?  」

 博士ではなく、俺に紙を差し出してきた。握り潰された様な跡のあるソレは、きっと、伝朱雀だろう。

 また、デートしようね……アミ♡

「……えーっと」

 なんだ、これはっ!
 俺が持っていた伝朱雀で間違いない……ようだ……が。

「ぜひ、詳しくお話を聞かせていただこうか」

 笑っているようで笑っていないピロロが、今度は俺を見ながら微笑んだ。

 俺達のやり取りを見て、博士がうんうんと頷いている。

 はーかーせっ!!  俺を売ったなーっ!!

 叫びたくとも叫べず、俺は硬直したまま動けないのだった。
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