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第四章 エロー学術都市~20年越しのざまぁ編~

俺はピロルだ

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 ヤザワ精肉店にて。
 街が少しずつ起き出す早朝、ドアが叩かれた。

「ヤザワは、ここにいるっすか?  
 ピロ兄をつれてきたっす!  」

「おうっ!  よく来たなっ!  」

「げっ!?  よっ、用事を思い出したっす」

「ガハハハハ。まぁ、そう急がなくてもいいだろ。
 俺もお前に用事があったんだ。今日、炙り肉の試食を出そうと思ってたところだ。どれ、調子を見てやろう」

 踵を返した赤龍を捕まえるヤザワ。

 ボーーーーーっ!

「やっ、やめるっす!  」

 ゴーーーーーっ!


 ゴーーーーーっ!

「香ばしい匂いだねぇ。肉を炙ってるのかい? 
  」

「火力が違うと、こんなに美味しくなるのか」

「そのゴーーッてやつ、僕もやりたいっ!  」

 ゴーーーーーっ!

 ヤザワ精肉店で行われた炙り肉の試食会は、こうして大人気イベントになった。

「もう、勘弁っすよー。何もでないっすよーー」


◇◆◇


 手荒く麻袋から引っ張り出された。

 怯えている家畜達どうほう

 壁に掛けられた大小様々の包丁。

 ずらりと並べられた肉。

 生き生きと楽しそうな店員。

 逞しい体つきの壮年男性。

 調理服の生々しく血痕。

 豪快な笑い声。

 騒がしい店内。

 絶妙な掛け合い。

 視界に入ってくるその一つ一つが、靄のかかった脳に刺激を与えてくる。
 俺はコレを知っている?
 俺は何なんだ?

 それらに触発されるように、今まで気にならなかったことが、気になり始めた。


「頼もう」

 その時だ。
 凛と澄んだ声が、店内に響き渡る。
 それは俺の頭の中で木霊し、一筋の光を与えた。

 逞しい体つきの壮年男性……マスターが、俺を抱えて連れていく。

 俺は何だ?
 そうか。俺はピロルだ。
 この肉屋で、ピロルになったんだ。

 大好きな甘い香りと、お馴染みのふわりとした優しい温もりに包みこまれる。

「ピロ……ロ  」

 俺はピロロに抱きしめられていた。
 見る見るうちに、ピロロの目に涙が溜まっていく。




「うおぉーーーぉぉお!
 ピロル様が無事戻られたよ~
 ピロル様がお気付きになったよ~、うううっ
 よかったよ~」

 横で泣きじゃくる青づくめの男っ!?
 それを見て、涙目のピロロが吹き出した。

 俺とピロロの感動のシーンがっ!!
 ピロロが笑顔になったから、まぁ、いっか……
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