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第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~
黄虎
しおりを挟む「ガルルルルッ! 」
「っ!? 」
猛虎の威嚇にねーちゃんが反応し、勢いよくしがみ付いてくる。危うくバランスを崩しそうになった。
斜め下を振り返ると、大きな牙を剥き出しにして、此方を睨みつけていた。目は血走っており、憎悪の色を湛えている。明らかに、常軌を逸していた。
俺の10倍は有ろうかという巨漢を左右に揺らし、イラだたしげに歩き回っている。
色素操作による洗脳がなされているのかもしれない。今更ながら、黄色系の色素取得をしていなかったことが悔やまれる。
弱らせて正気に戻す以外、方法はなさそうだ。とりあえず、ラウンドねーちゃんをフサロに預けることにした。
相っっ変わらず、話に没頭するフサロの元へ向かう。
ガンッ!!
「おわっ!? 」
「きゃぁあっ!? 」
何かにぶつかった?
透明の壁? のようだ。
「なんだこれっ!? 」
「そういえば、明日の本番に備え、結界の動作も確認するというお話でした」
ラウンドねーちゃんが教えてくれた。
御前試合では、三国がそれぞれ結界を張り巡らせ、観客を攻撃から守ることになっていた。触った感じだと、マゼンタのものでもシアニンのものでもない。消去法で、エロー学術都市の結界だと結論づける。
……くそっ! 本気で突き破るか
「うっ、うしろっ!? 」
ねーちゃんの悲鳴で、現実に引き戻された。凄まじい殺気が、物凄い速度で背後に迫ってくる。
バリィーーンッ!
痛っってぇ!
咄嗟に出現させた結界は敢え無く破壊され、物凄い衝撃とともに刺すような激痛におそわれた。
「きゃぁあっ! 」
ドッカーーーーーンッ!!
吹き飛ばされた俺達は、そのまま地面に激突した。土埃が舞い、俺たちを隠してくれる。
「ガオォォオーーン!! 」
黄虎が、勝利の雄叫びを上げた。
「だっ、大丈夫ですか? 」
「ええっ、ありがとうございます」
地面との間に体を滑り込ませることで、なんとか、ねーちゃんは守れたようだ。露出の多い手足は、痛々しく擦りむけていた。
「……すみません」
ラウンドガール的には、傷跡を残したくはないだろう。
「いっ、いえ。ピロルさんの方こそ……」
ねーちゃんが視線を俺の背中へと移した。
先程の攻撃の時、爪で引っかかれたようだ。結界のお陰で、傷はそれほど深くはないが、じわじわと痛みが広がる感じがした。何かしらの毒物が体を蝕んでいるのかもしれない。
傷口を色素で硬化させ、チタニア種で浄化を試みる。ほんの少し、痛みが楽になった。
土埃が落ち着き、次第に視界が開けてくる。
先程まで俺達がいた辺りに、夕日を浴びて黄金に輝く虎が堂々と佇んでいた。自らの結界を足場にしている。
観客席ではフサロ達が慌てている。流石に気付いたようだ。エロー学術都市のトップ(ヨーメン学術院長というらしい)も部下を呼びつけていた。
俺達を見つけた黄虎が、突進してくる。結界を階段状に出現させ、スルスルスルッと滑るように降りてきた。
ねーちゃんを庇いながら戦うのは無理だ。それに、俺から離れた方が安全だろう。ねーちゃんを、結界で覆う。念の為、三重にしておいた。
「ここで待ってて下さい」
「はいっ! 応援していますっ! 」
勝利の女神の、きらっきらの笑顔に見送られ、俺は迫り来る黄虎の追撃へと向かっていく。
背面攻撃が俺たちにヒットした際、ヨーメン学術院長が一瞬だけ覗かせた、憎たらしいニヤケ顔を思い出しながら。
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