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第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~
蛸の恩返し
しおりを挟む「ミョージンさーん! 」
ハクがチタニア海岸を駆け出した。
船の準備をしていた青年が、こちらを振り返り手を振っている。海底で昆布をくれたミョージンさんだ。
「皆さん、乗ってください! 」
俺達が乗り込むと、ミョージンさんが船を押しだす。
「しゅっこーだぁー! 」
ハクの威勢のいい掛け声で、俺達の航海が始まった。
スー――ポチャン!
「はーっ、はーっ」
スー――ポチャン!
「はーっ、はーっ」
ミョージンさんが汗だくになりながら、一生懸命櫂を漕いでいる。
……のだが、少しずつしか進まない。
それはそうだ。4人と5匹が乗っていてるのだ。
「私たちも漕ごう」
「えーっと、櫂の予備が……」
ピロロの提案に、ミョージンさんが申し訳なさそうに言った。
「……」
全員が沈黙する。やばい、このままだと、ほぼ陸釣りになってしまう。
ふるふるふる、キュッポーン!
ポチャ、ポチャーン!!
俺が思案に暮れていると、ピロロ胸に抱かれていた2匹の手乗りスライムが海へと飛び込んだ。
「うわぁぁぁぁぉぁーーーーーあ! 」
行成のトップスピードに、真後ろへと身体を持っていかれる。
俺達の大絶叫が、大海原に響き渡った。
「スラリー、シロリー、ここら辺で泊めてくれ」
ミョージンさんが、スライムエンジンに指示をだす。
最初暴走した彼らを、ミョージンさんは短時間で操れるようになっていた。流石、漁師である。
名前まで『白スラリー』から『シロリー』へと洗練されている。
このスライムエンジンは、ピグミア大陸で爆発的に普及し、後にピグミア三大発明? 発見? の1つとまで言われるのだが、まだ、それは先の話である。
「ちょー、気持ちー! 」
「波も穏やかで、最高の釣り日和ですね」
ミョージンさんが釣り針に餌をつけながら答える。
「みてみてー! 」
先に釣りを始めたハクが叫んだ。
えっ!?
皆の視線がハクに集まり、目が点になる。
まるで、熟練したカツオの一本釣り漁師みたく、次から次へと釣り上げていた。
「……チタニアの釣りって、あんな感じなんですか」
「いやー、そんなことは……」
ドサッ――ピチ、ピチ、ピチッ
ミョージンさんの言葉を遮るように、空から魚が降ってきた。それを皮切りに、魚の雨が降り注ぎ始めた。
「ひぃーっ! 」
「やーっ! 」
「わーっ! 」
戦場……船上に響き渡る叫び声に比例して、魚の山が出来上がっていく。その横では、人知れず、スラリーが大量の魚を呑み込んでいた。
「っ!? 」
ピタッと雨が止み、今度は船が大きく傾き出す。
沈むーー!
そう覚悟した瞬間、船が小高い丘へと乗り上げた。ヌメリとした弾力の有りそうな丘肌は、太陽光を反射し黒、青、赤、白の四色に輝いていた。
視線をあげると、吸盤の着いた足が、魚を握りしめながら手を振っている。
「たっ、助かった……」
死を覚悟したであろうミョージンさんは、そう呟くとその場に崩れ落ちた。
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