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第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~
種の芽吹き
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ここはどこだろう。
働かない頭で一生懸命考える。まるで、ほろ酔い状態だ。意識はあるのだが、ぼーっとしている。気分が良く、細かいことなどどーでもよくなってしまう。
まぁ、いっか。
俺は思考を手放した。
鳥の囀りが聞こえてくる。優しい日差しが降り注ぎ、ポカポカと体を温めた。
「いざ、芽吹きのとき」
囀りに混じり、天から声が聞こえて来た。まるで、歌い声のように軽やかで優しい響きだった。脳内へと到達すると、輪唱しだす。それは波紋を描く様に、体の隅々にまで伝わっていった。
ザワりとした感覚に襲われる。体の深部で何かが蠢き出した。今までの心地良さが嘘のように、激しい悪寒に襲われる。同時に言い様もないほどの気持ち悪さがやってきた。
俺は為す術もなく小さく身を縮めた。身体中に広がる蠢きが止まるのを、ただ只管じっと待つ。
「黒と白のこと、ソナタに託さん」
天の声が響く。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ……
呪文のようにそう唱え続ける俺に、その声が届くことはなかった。
◇◆◇
(ぁぁあっ!)
俺は叫び声をあげながら飛び起きた。夢だったのか。耐え難いムカつきから解放され安堵した。
水の中にいるようだ。
えーっと、何をしてたんだっけ。
「!? 」
大きな紅団子がこちらへと向かってきた。二体の蛇が複雑に絡み合っている。その後ろで巨大ダコがバルーンへと向きを変えるのが見えた。
考えるのよりも先に体が動いた。翼を出現させ、水中飛行を試みる。飛び出しは順調で、紅団子も難なく躱せた。が、上手く加速できない。
ダメだっ!
あと数十メートルでタコがバルーンへたどり着く。対して、俺とタコの距離は数百メートル以上もあった。
もう一歩なのに。
もう1歩で教帝聖下を救い出せるのに。
翼を動かせば動かすほど、水の抵抗を強く受け上手く進まない。少し角度を調整すると、幾分ましになった。しかしながら、そんなほんの数秒で、水を捉えることはできなかった。
ただ、タコの軌跡を眺めるだけの自分が、どうしようも無くもどかしかった。フサロみたいに、色素粒子になって分散できればな。それでも、水中だと拡散速度が遅く瞬間移動はできないか。
逃避気味の俺のヴィジョンが、スーーっとブルーからレッドへと変化した。瞬く間に視点が切り替わり、10メートル程先にタコが迫っている。理解よりも先に、口が動いた。
(球状牢獄! )
キメ顔でそう叫ぶと、半球状結界をタコに向けて展開した。
スポンッ!
巨大ダコが流れるように反転し、結界へと収まる。
(結っ! )
右手の人差し指と中指を立てて手を組み、口元に寄せてそう叫んだ後、結界を閉じた。
こうして俺は、本能に刻み込まれた厨二パワーと色素の融合により、巨大ダコの脅威を取り除いたのだ。
(やっと捕まえやがったか! 俺様が足止めしといてやったお陰だな)
(いやー、自分も頑張って活躍したっすよー)
紅団子兄弟が浮上してきた。
狙ったような登場に、若干イラッとする。
(お前達なんで、団子にされたあげく捨てられてんだよ)
(いやー、てめぇが戻ってきた時の出番とっといてやったんだ。感謝しやがれっ! なぁ! )
(そっ、そうっすよ! 天下のスネーク種がタコなんかに負けないっすよ! )
(よくいうぜ。スラリーが居なかったら、今頃全滅だぞ)
2匹にスラリーの武勇伝を聞かせてやった。
スラリーは、間に合わないと絶望している俺を飲み込んで、瞬間移動したのだ。
……さーせん、格好つけました。
実際は泳いだ? というより、滑っただけのようだ。余りにも速くて俺が勝手に瞬間移動したように感じたのだ。
お陰でバルーンとタコの間に分け入り、捕獲できたというわけだ。
(スラリー、でかしたぞ。貴様に名前をくれてや……)
(断固として断るっ! )
(てめーにいってねぇ! )
スラリーが楽しそうに、ふるふると揺れた。
そんな下らないやり取りを繰り広げていると、地味に結界が迫ってきた。このタコは捕らわれても尚、バルーンを目指しているらしい。どうも、色素が弄られているようだ。
あまり気は乗らないが、浄化することにした。
水の中で呼吸が出来ていることを考えると、俺はチタニア種の取り込みに成功したようだ。色素女神様が、邪な煩悩にまみれた守護魔獣のお願いを聞いてくれたのだ。早速、その能力を試してみる。
結界に手をかざす。色素を流し込もうとした瞬間、物凄い勢いで引き出される感覚に襲われた。
よく見ると、カーボン種の色素がタコへと流れ込んでいた。なんと、女神様は俺にカーボン種まで植えてつけていたのだ。通りで、死ぬほど辛かったわけだ。血中色素濃度の急上昇により急性色素中になったのだ、たぶん……。
これ幸いと、巨大ダコを俺色に染め上げ、呪縛から解放してやった。もし、チタニア種で浄化していたら、命まで奪うことになっただろうから結果往来だ。
(おっ!? 思念が届きそうだぞ! ピロル、聞こえるか! )
(はい、聞こえます! )
(無事、水面に到達したぞ! )
俺達の背後で、バルーンが水面に顔を出していた。
(やりましたねっ! )
(で、これからどうするのだ)
(へっ!? )
(てめぇ、さては、考えていなかったなぁ! )
(いやっ、あのっ、えーと、その、あはははははははははっ! )
(てめぇ、笑ってごまかすんじゃねーー! )
しまった。上に行くことばかりに気を取られ、その後のことを考えていなかった。博士はバルーンにしか興味がなかったしなぁ。
まぁ、ここまで来れば何とかなるだろう。ここまでも、何とかなったわけだし。
雲ひとつない空を見あげながら、俺は確信した。
働かない頭で一生懸命考える。まるで、ほろ酔い状態だ。意識はあるのだが、ぼーっとしている。気分が良く、細かいことなどどーでもよくなってしまう。
まぁ、いっか。
俺は思考を手放した。
鳥の囀りが聞こえてくる。優しい日差しが降り注ぎ、ポカポカと体を温めた。
「いざ、芽吹きのとき」
囀りに混じり、天から声が聞こえて来た。まるで、歌い声のように軽やかで優しい響きだった。脳内へと到達すると、輪唱しだす。それは波紋を描く様に、体の隅々にまで伝わっていった。
ザワりとした感覚に襲われる。体の深部で何かが蠢き出した。今までの心地良さが嘘のように、激しい悪寒に襲われる。同時に言い様もないほどの気持ち悪さがやってきた。
俺は為す術もなく小さく身を縮めた。身体中に広がる蠢きが止まるのを、ただ只管じっと待つ。
「黒と白のこと、ソナタに託さん」
天の声が響く。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ……
呪文のようにそう唱え続ける俺に、その声が届くことはなかった。
◇◆◇
(ぁぁあっ!)
俺は叫び声をあげながら飛び起きた。夢だったのか。耐え難いムカつきから解放され安堵した。
水の中にいるようだ。
えーっと、何をしてたんだっけ。
「!? 」
大きな紅団子がこちらへと向かってきた。二体の蛇が複雑に絡み合っている。その後ろで巨大ダコがバルーンへと向きを変えるのが見えた。
考えるのよりも先に体が動いた。翼を出現させ、水中飛行を試みる。飛び出しは順調で、紅団子も難なく躱せた。が、上手く加速できない。
ダメだっ!
あと数十メートルでタコがバルーンへたどり着く。対して、俺とタコの距離は数百メートル以上もあった。
もう一歩なのに。
もう1歩で教帝聖下を救い出せるのに。
翼を動かせば動かすほど、水の抵抗を強く受け上手く進まない。少し角度を調整すると、幾分ましになった。しかしながら、そんなほんの数秒で、水を捉えることはできなかった。
ただ、タコの軌跡を眺めるだけの自分が、どうしようも無くもどかしかった。フサロみたいに、色素粒子になって分散できればな。それでも、水中だと拡散速度が遅く瞬間移動はできないか。
逃避気味の俺のヴィジョンが、スーーっとブルーからレッドへと変化した。瞬く間に視点が切り替わり、10メートル程先にタコが迫っている。理解よりも先に、口が動いた。
(球状牢獄! )
キメ顔でそう叫ぶと、半球状結界をタコに向けて展開した。
スポンッ!
巨大ダコが流れるように反転し、結界へと収まる。
(結っ! )
右手の人差し指と中指を立てて手を組み、口元に寄せてそう叫んだ後、結界を閉じた。
こうして俺は、本能に刻み込まれた厨二パワーと色素の融合により、巨大ダコの脅威を取り除いたのだ。
(やっと捕まえやがったか! 俺様が足止めしといてやったお陰だな)
(いやー、自分も頑張って活躍したっすよー)
紅団子兄弟が浮上してきた。
狙ったような登場に、若干イラッとする。
(お前達なんで、団子にされたあげく捨てられてんだよ)
(いやー、てめぇが戻ってきた時の出番とっといてやったんだ。感謝しやがれっ! なぁ! )
(そっ、そうっすよ! 天下のスネーク種がタコなんかに負けないっすよ! )
(よくいうぜ。スラリーが居なかったら、今頃全滅だぞ)
2匹にスラリーの武勇伝を聞かせてやった。
スラリーは、間に合わないと絶望している俺を飲み込んで、瞬間移動したのだ。
……さーせん、格好つけました。
実際は泳いだ? というより、滑っただけのようだ。余りにも速くて俺が勝手に瞬間移動したように感じたのだ。
お陰でバルーンとタコの間に分け入り、捕獲できたというわけだ。
(スラリー、でかしたぞ。貴様に名前をくれてや……)
(断固として断るっ! )
(てめーにいってねぇ! )
スラリーが楽しそうに、ふるふると揺れた。
そんな下らないやり取りを繰り広げていると、地味に結界が迫ってきた。このタコは捕らわれても尚、バルーンを目指しているらしい。どうも、色素が弄られているようだ。
あまり気は乗らないが、浄化することにした。
水の中で呼吸が出来ていることを考えると、俺はチタニア種の取り込みに成功したようだ。色素女神様が、邪な煩悩にまみれた守護魔獣のお願いを聞いてくれたのだ。早速、その能力を試してみる。
結界に手をかざす。色素を流し込もうとした瞬間、物凄い勢いで引き出される感覚に襲われた。
よく見ると、カーボン種の色素がタコへと流れ込んでいた。なんと、女神様は俺にカーボン種まで植えてつけていたのだ。通りで、死ぬほど辛かったわけだ。血中色素濃度の急上昇により急性色素中になったのだ、たぶん……。
これ幸いと、巨大ダコを俺色に染め上げ、呪縛から解放してやった。もし、チタニア種で浄化していたら、命まで奪うことになっただろうから結果往来だ。
(おっ!? 思念が届きそうだぞ! ピロル、聞こえるか! )
(はい、聞こえます! )
(無事、水面に到達したぞ! )
俺達の背後で、バルーンが水面に顔を出していた。
(やりましたねっ! )
(で、これからどうするのだ)
(へっ!? )
(てめぇ、さては、考えていなかったなぁ! )
(いやっ、あのっ、えーと、その、あはははははははははっ! )
(てめぇ、笑ってごまかすんじゃねーー! )
しまった。上に行くことばかりに気を取られ、その後のことを考えていなかった。博士はバルーンにしか興味がなかったしなぁ。
まぁ、ここまで来れば何とかなるだろう。ここまでも、何とかなったわけだし。
雲ひとつない空を見あげながら、俺は確信した。
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