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第一章 マゼンタ王国~皇女の守護魔獣に転生編~
前夜
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激痛で目が覚めた。寝返りを打とうとしたのだが、体が動かせない。
薄目を開けると、ピロロ姫とヒノハラ医師が覗き込んでいた。
「あいつに殺られたのか」
ピロロ姫が無表情に問う。俺は目を逸らした。
「私が潰す」
そう、呟くと部屋を出ていこうとする。
俺は全力で阻止した。と、言ってもピロロ姫に向かって倒れ込むのがやっとだった。ヒノハラ医師が慌てて支えてくれる。
「キュウ……」
博士から貰った喉まで潰しやがったのか。誰よりも一番、ピロロに声を聴かせたかったのに。俺はフツフツと怒りが込み上げてきた。それと同時に、体が紅く発光する。
「あっ、ありえん」
ヒノハラ医師が呟く。ピロロ姫も目を見開いている。色素が血肉となり、傷がたちまち良くなったのだ。
「人間ならば全治半年はかかる重症ですぞ」
俺の体に触れて細部を確かめながら、ヒノハラ医師がいった。
もう大丈夫だと目配せして、立ち上がる。
「何処に行くのだ」
「研究室」
姫の問いに、短く答えた。
「次負けることは、許さぬぞ」
それに、手を挙げて応えた。
博士の研究室は庭園の隅にある植物園と併設されていた。呼び鈴を鳴らすと、博士が出迎えてくれる。
応接室へと案内された。縦長の建物で、真ん中を廊下が通っており、左右に部屋が設けられていた。手前側に応接室と博士の居室、奥側に実験室が2つあるようだ。廊下には棚が設置されており、薬品がズラリと並んでいる。
「ドン・スネークに可愛がられたようだね。その割には、元気そうだけど」
俺にスペアの声帯を手渡しながら、探りを入れてくる。
今日の俺の目的は、博士から色素魔獣の生態とその戦い方を教わることだった。なにせ、時間がないのだ。レベル1から、一晩でレベル100になる方法を見つけないといけない。
それほどまでに、俺とドン・スネークには技量差があった。一晩でそれは埋められないだろう。ならば、奴にはない人間様の知性で対抗する他ないのだ。
まず、声帯を破壊してしまったことを謝った。そして、ドン・スネークとの戦闘と今朝の傷の治癒について掻い摘んで話した。それから、博士を訪ねた目的について説明した。興味深そうに、俺の話に聞き入っている。
「やはり、君は唯の色素魔獣では無さそうだね。知性の高い個体種はいるが、ここまで理路整然と目的遂行する奴は初めてだよ」
博士は半場呆れたように言った。
俺は、今後のことも考えて、前世の記憶について話した。博士は驚きつつ、合点がいったようだった。
その後数時間、博士と元理系のディスカッションは続いた。折角分かったことをメモできない、と博士にボヤくと、ゴム手袋を渡された。『化学者の手』なんだと。色素が馴染ませてあるようだ。
俺の丸い手にはめて見ると、あら不思議、五指が自由自在に動くではないか。なんでもありで、こっちが呆れる。お陰様で、分かったことを雑記できた。
明日の戦略を立てる。まず、俺のレベルアップが必要だ。キナクリドン種の取り込みをやってみる。博士に立会をお願いした。興奮してマッドサイエンティストの様になっている。
考えるのをやめた。どうしようも無いことを悩むのは性にあわない。
意を決して、博士が作ったというキナクリドンの前駆体を酸に溶かして、一息に飲んだ。体が熱くなる。そして、とてつもない睡魔に襲われ、意識を手放した。
──柊僚の備忘録──
ピロルついて
①「化学者の目」を習得?洗練されると色を見るだけで色素の種類がわかるようになる。
ドン・スネークとの戦いで結界の形が見えた。結界はそれぞれの色素に適した構造をとっているらしい。普通の奴には見えない。
②化学の知識を元に、ピロロピロール種以外の色素を俺に取り込むことが可能か。これは、やってみないと分からない。ただ、色素魔獣は本能で能力を使う。俺が本能で知識を取り込めれば、可能性あり。ただ、アナフィラキシー等も考えられるので、同じ赤であるキナクリドン種とかアントラキノン種から始めるよう助言された。
ドン・スネークについて
蛇系の色素魔獣は上顎に毒袋を持っている。放出範囲により噴射口径を調節。キナクリドン種の場合、主成分は100%硫酸で色素が溶解している。炭化と急激な色素析出による硬化が、主な攻撃方法。毒袋は攻撃時以外硬く閉ざされている。
色素魔獣一般
色素を体内の一部に局在化させ、耐性を上げることが可能。小さい傷等だったらこの能力により、自己修復可能。ただし、俺の回復は異常なようだ。
薄目を開けると、ピロロ姫とヒノハラ医師が覗き込んでいた。
「あいつに殺られたのか」
ピロロ姫が無表情に問う。俺は目を逸らした。
「私が潰す」
そう、呟くと部屋を出ていこうとする。
俺は全力で阻止した。と、言ってもピロロ姫に向かって倒れ込むのがやっとだった。ヒノハラ医師が慌てて支えてくれる。
「キュウ……」
博士から貰った喉まで潰しやがったのか。誰よりも一番、ピロロに声を聴かせたかったのに。俺はフツフツと怒りが込み上げてきた。それと同時に、体が紅く発光する。
「あっ、ありえん」
ヒノハラ医師が呟く。ピロロ姫も目を見開いている。色素が血肉となり、傷がたちまち良くなったのだ。
「人間ならば全治半年はかかる重症ですぞ」
俺の体に触れて細部を確かめながら、ヒノハラ医師がいった。
もう大丈夫だと目配せして、立ち上がる。
「何処に行くのだ」
「研究室」
姫の問いに、短く答えた。
「次負けることは、許さぬぞ」
それに、手を挙げて応えた。
博士の研究室は庭園の隅にある植物園と併設されていた。呼び鈴を鳴らすと、博士が出迎えてくれる。
応接室へと案内された。縦長の建物で、真ん中を廊下が通っており、左右に部屋が設けられていた。手前側に応接室と博士の居室、奥側に実験室が2つあるようだ。廊下には棚が設置されており、薬品がズラリと並んでいる。
「ドン・スネークに可愛がられたようだね。その割には、元気そうだけど」
俺にスペアの声帯を手渡しながら、探りを入れてくる。
今日の俺の目的は、博士から色素魔獣の生態とその戦い方を教わることだった。なにせ、時間がないのだ。レベル1から、一晩でレベル100になる方法を見つけないといけない。
それほどまでに、俺とドン・スネークには技量差があった。一晩でそれは埋められないだろう。ならば、奴にはない人間様の知性で対抗する他ないのだ。
まず、声帯を破壊してしまったことを謝った。そして、ドン・スネークとの戦闘と今朝の傷の治癒について掻い摘んで話した。それから、博士を訪ねた目的について説明した。興味深そうに、俺の話に聞き入っている。
「やはり、君は唯の色素魔獣では無さそうだね。知性の高い個体種はいるが、ここまで理路整然と目的遂行する奴は初めてだよ」
博士は半場呆れたように言った。
俺は、今後のことも考えて、前世の記憶について話した。博士は驚きつつ、合点がいったようだった。
その後数時間、博士と元理系のディスカッションは続いた。折角分かったことをメモできない、と博士にボヤくと、ゴム手袋を渡された。『化学者の手』なんだと。色素が馴染ませてあるようだ。
俺の丸い手にはめて見ると、あら不思議、五指が自由自在に動くではないか。なんでもありで、こっちが呆れる。お陰様で、分かったことを雑記できた。
明日の戦略を立てる。まず、俺のレベルアップが必要だ。キナクリドン種の取り込みをやってみる。博士に立会をお願いした。興奮してマッドサイエンティストの様になっている。
考えるのをやめた。どうしようも無いことを悩むのは性にあわない。
意を決して、博士が作ったというキナクリドンの前駆体を酸に溶かして、一息に飲んだ。体が熱くなる。そして、とてつもない睡魔に襲われ、意識を手放した。
──柊僚の備忘録──
ピロルついて
①「化学者の目」を習得?洗練されると色を見るだけで色素の種類がわかるようになる。
ドン・スネークとの戦いで結界の形が見えた。結界はそれぞれの色素に適した構造をとっているらしい。普通の奴には見えない。
②化学の知識を元に、ピロロピロール種以外の色素を俺に取り込むことが可能か。これは、やってみないと分からない。ただ、色素魔獣は本能で能力を使う。俺が本能で知識を取り込めれば、可能性あり。ただ、アナフィラキシー等も考えられるので、同じ赤であるキナクリドン種とかアントラキノン種から始めるよう助言された。
ドン・スネークについて
蛇系の色素魔獣は上顎に毒袋を持っている。放出範囲により噴射口径を調節。キナクリドン種の場合、主成分は100%硫酸で色素が溶解している。炭化と急激な色素析出による硬化が、主な攻撃方法。毒袋は攻撃時以外硬く閉ざされている。
色素魔獣一般
色素を体内の一部に局在化させ、耐性を上げることが可能。小さい傷等だったらこの能力により、自己修復可能。ただし、俺の回復は異常なようだ。
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