上 下
3 / 124
第一章 マゼンタ王国~皇女の守護魔獣に転生編~

遭遇

しおりを挟む
    再度言おう。俺は仮にも心は男子大学生である。宙ずりされる魂ではないのだ…。

    半場あきらめにも近い心境で、冷静に分析してみる。

    地面に紐で輪っかを作っておき、足を踏み入れると吊り上げられる仕組みのようだ。
何度かバウンドしてみるが、竿も紐もビクともしない。

    考えるのをやめた。どうしようもないことを悩むのは性にあわないのだ。

    だんだん、楽しくなってきた。

    ブラーン

    ブラーン、バイーン

    ブラバイーン、ブランブラーン……ブーーランバイーーーーン

    不味いと気付いた時には完全に制御できなくなっていた。下手くそなヨーヨーのように、自転しながら放射状に飛んでいく。
    急激に三半規管が刺激され、気持ち悪くなる。ホントの地獄はそこからだった。10年ぶりぐらいに、ブランコが急には止まれないことを思い出した。
    慣性を呪った。そして、ほんの少しだけ、考えなしの自分に反省した。

    体調が回復するまで、小一時間かかった。厳密には、回復ではなく順応、いや、諦めである。
    とにかく、揺れを克服すべく心頭を滅却する。目を閉じて、瞑想する。

「じーーーーーーっ」

    瞼の裏側につぶらな瞳が2つ浮かんだ。慌てて目を開ける。

    俺の精神世界に土足、いや、裸眼で踏み込むとは、いい度胸である。辺りを見回すが誰もいない。気のせいか。
    気を取り直し瞑想へと戻ろうとしたら、唐突に目が合った。

    水面に二つの目が浮かんでいた。(元)人間驚きすぎると声が出ない、とはよくいったものである。一人いや、一匹で自転放射運動を繰り返しただけだった。

    そうこうしているうちに、目の数は増えどんどん盛り上がってきた。複眼の海坊主みたいな存在なのかと思ったが、目を凝らすと一つ一つ別個体であった。そのうちの一体が陸へと上がってきた。

    頭の中で有名なゲームソングが流れる。

    ゼリー状のデローンとした体躯に、クリっとしたお目目。
    そのスライムもどきは、あまりにスライムだった。だだ、俺が知ってるソレとは、体の色が違った。半分赤色で、半分透明なのである。

    異色の存在に興味をもった俺は、話かけて見ることにした。

キュイこんにちは
    話せないのを忘れていた。まぁ、仮に話せたとしても、伝わらないだろうけど。

    スライムは首を傾げた。ように、見えた。かわいい。不覚にも見とれた瞬間、似つかわしくない速度で飛び掛かってきた。

    ペチャッ!

    顔面にへばりつく。

    苦しぃ……くない。

    その音を皮切りに、無数のスライムが待っていましたとばかりに、俺に飛んできた。赤いジェル状物質で包まれたとたん体が浮遊した。
まるで羊水に包まれた胎児のようだ。ゆっくりと向きを変え、見事、紐を掴むことが出来た。

    爪をたて、紐を切ろうと試みる。無数のつぶらな瞳が、俺の手元に集まってきた。
    痛いぐらいの視線を感じながら、頑張ること十数分。やっとの思いで紐がきれた。

    あれ、落ちない。スライムが紐と竿に絡んでいた。視線で合図を送ると、ゆっくり解く。

    ベチャッ!

   音はすごかったが、ほぼゼロ・グラビティで地面についた。ビッグスライムはまた、個々に分離し湖へと帰っていった。俺はそれを、手を振りながら見送った。

    これが、短かった俺の人生で初めて件の最弱モンスタースーパーヒーローと遭遇した瞬間だった。
    同時にそれは、俺と色素魔獣ピグメントモンスター(ピグモン)との初遭遇でもあった。

  そして、 俺はこの時まだ、知る由もなかった。
   後にこの色素魔獣ピグモンが世界を救い、ご神獣様として崇められるまでになろうとは。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】君にどうしようもない位に執着している僕です

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:21

ダラダラ異世界学校に行く

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

想い想われ恋い焦がれ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:21

欲貌のシンデレラ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

命の器の物語

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

蛙の神様

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

猟犬クリフ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:6

処理中です...