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決戦

帰還

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「何の真似だ?、カルザ」

ルダクノに戻った私を待っていたのは、武器を構えるカルザ達の姿だった。少し歩けば門まで着く程度の位置で空から降り、歩いて門まで行ったのだが、そこで鉢合わせしたのだ。
そして即座に武器を構えられた。何か勘違いしてるのだろうか?

「ローズはどこにいる?」
「今お前の目の前にいるぞ」
「嘘をつけ。お前の魔力はローズのものではない」

ヤヴォールの魔力感知は中々大したものだ。今の私ですら何かあると判断できるのか。……いや、これは別の、冒険者としての直感とかそういうものか。
それでも十分すごいと言えるものだ。人を辞めた身であるからこそ分かるものがある。

「説明してやってもいいが…そもそも唆したのはお前たちだろう」
「唆した…?」
「赤い羽根」
「……本物?」

ワードを出してようやく反応するなんてどれだけ警戒しているのやら。……ってそうか、こちらではまだ10日と少し程度しか経ってないのか。
なら災害に遭っていると知っているカルザ達が警戒するのは当然か。ましてやそこで乗っ取られたような魔力をした私。うん、むしろ当然とも言えるか。

「すまないな。いろいろとあってこんな魔力をしてこそいるが、ローズのままだ」
「そうか……、説明はしてくれるんだろうな?」
「ああ。前の店に行くとしよう」

問題なくルダクノの町へと入る。カルザ達がいれば門番も特に私に言うことはなかった。
行き先は以前赤い羽根についてカルザ達が話した宿屋。これまで何をしていたのかについて簡単に説明でもするつもりでいた。

足取りは遅かったが、夜になる前に着いたから問題ないとしよう。
……しかし気になるのはカルザ達の警戒は町の中に入ってもなお続いていたことだ。町の中で何か起きてるとでもいうのか?

「……よし、問題ないな」
「魔力感知も問題なし」
「気配も……問題ない」

宿屋の部屋に入ってようやく警戒を鈍らせた3人。何が彼らをそこまで警戒させるのか。

「話したいことはあるが……それ、何があったんだ」
「……ちと厄介なことになっていてな」

カルザは言いづらそうに首をかく。問題事に首を突っ込んでいるという風ではない。戦うような様子が全く見えないところから察するに、何かから逃げ続けているといったところか。

「おそらくだが……俺たちの記憶を奪った災害か、その手下あたりが暴れてる。ローズが抜けて10日程度だったが……一度街から逃げ出さなきゃ襲われそうな気がしたんでな」
「奴の手下?。まさか……ジルク?」

手下と言われて真っ先に思い浮かべるのはそれだ。奴が自分のトラウマであるドワーフやエルフまで手の中にあると分かっているが、切り札的なものだったら使わないはず。

「いや、多分だが気配からして一人じゃない。多分最初のやつと似たようなことがあったんだろう。俺たちの記憶からもところどころ明確な抜けが見えてきてるくらいに違和感があるんでな」

記憶から抜ける感覚、ということは奴はこの町の冒険者を眷属にしているのだろう。言うなればジルク……ではなくシアの量産だ。
奴の手駒がどんどん増えるのはこの町からすれば絶望という他ないが―

「―好都合だ」

とっ捕まえてジルクを引っ張り出す人質にするには最適だ。量産された眷属を全て捕まえて洞窟の目の前でマグマに放り投げるなりすれば出てくるだろう。
だがそこまで考えたところで好機に興奮してしまい、ほんの少しだけ魔力が漏れてしまった。

「あ」

何もかもを燃やし尽くすような魔力。一瞬未満の時間で抑え込んだが、宿屋のベッドは燃え尽きてしまった。
カルザにも当ててしまったが、魔力障壁を警戒していた時に張っていたらしい。瀕死の火傷で済んでいた。障壁すらなかったら骨すら残らなかっただろう。
魔力を回復魔術に使用し、カルザを一瞬で先ほどまでの姿に回復させる。

「「……」」
「……とんでもねぇ強さになったな」

瀕死から回復して真っ先にする表情が呆れの表情とは太い性格をしてるものだ。しかし魔力がほんの僅か漏れるだけでこれか。感情の制御についてはそこまで訓練してなかったからな……気を付けないといけない。
そんなことをローザリッサが考えていると、全裸のカルザがきょろきょろと周りを見回し、何かに気づく。

「……ヤヴォール。広域探知してくれないか?」
「分かった」

ヤヴォールの杖の先に魔術が展開される。ヤヴォールの広域探知は町一つ覆えるくらいにはできるはずだ。手下を探知しているのだろうが、逆探知される可能性も非常に高い。
カルザがやれと言った、ということは……やってしまったか。

「……気配は無くなってる」

ローザリッサはばつの悪そうな顔をする。自身のやらかしが明確に敵に悟られたというのは失態と言っていいだろう。

「あー…」

思わず顔を横に向ける。だがカルザ達は災害から逃れられたと安堵する顔を浮かべており、やらかしたとすら思っていなかった。
コホンと一つ息をつき、ローザリッサは自分に言い聞かせるように告げる。

「どうせ引っ張り出すのに変わりはない」

ローザリッサはカルザ達の方へと向き直る。その顔には明確な決意が込められていた。

「……行くのか」
「ああ。明日、決着をつける」
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