上 下
4 / 45
冒険者ジルク

冒険者ジルク-1

しおりを挟む
「なかなか面白いものを見せてくれましたね」
「黙れ。チャンスとやらをさっさと教えろ」

ヤギの言葉に喧嘩を売るように応える。
最初から分かっていたことだが、いつでもこいつは俺を殺せるだろう。なら挑発しようが何しようが問題ない。
どうせ俺の命はあるにはあるがすぐさま無くなるだけだ。それなら俺が好き勝手行動した方が得だってものだ。

「せっかちですね。どうせここに残ることになるのだから仲良くしていきたいものなのですが」
「どうせここに残ることになる?。帰す気はないということか」
「いいえ。あなたにチャンスをあげますけど、失敗することを期待しているというだけです」

その口ぶりに苛立ちが抑えきれない。チャンスを与えるだけ与えるが、到達させる気はないと。奴のいう言葉からするに奴のお遊びなのだろう。
ならせめてそのお遊びをぶち壊すことくらいはしてやる。そうして死ぬなら本望だ。

「ふざけやがって…!」
「ええ、ええ、いいですねぇ。その気概を持っていてください。そういった感情を壊すことが私の大好物なのですから」

どこか笑うような表情を浮かべる奴に反吐が出る。希望を与えて壊すことが好きなど災厄と言われる魔物よりも悪質という他ない。

「悪趣味もいいところだな」
「ふふふ…。それで、チャンスについて話しましょう」

ヤギに目線を集中させ、その言葉を一言一句聞き逃さないように耳を立てる。それに反する真似をしてやるのがこちらの目的になるため重要なところだ。

「…」
「内容は簡単です。あなたが「可愛くなりたい」と思ったら負けです」
「…は?」

余りにおかしな内容であったために目が点になる。ポカンとした表情はさぞ間抜けなことだろう。

「私は私の感性でいうところの可愛いものが欲しい。感性が同じでかつ、「可愛くなりたい」と思って行動する者がいればどんどん私の好みになっていくでしょう?。そういう存在が欲しいのですよ」

……なるほど。言わんとしようとしていることがなんとなくだが分かった。

「愛玩動物ってことか。クソが」
「少し違います。主人と所有物の方が近いですね。だから…あなたがそうなってくれれば非常に助かるのですよ」

ヤギはニタリと笑う。邪悪な笑みというのはこういう顔を言うのだろう。見たことがないほどに悪魔的なものだった。
しかし……そうなってくれる、か。それが意味するのは俺からすれば最悪なこと。

「人格を弄り回す気だな。そんなされて脱出しても意味ねぇな。その先にはあるのは自死だけだ」
「もちろんチャンスをつかめれば元の人格に戻しますよ。それくらいは簡単です」

奴は嘘はついていない。……いや、ずっと嘘はついていない。嘘をつく必要すらないのだから当然だろう。
何よりそれだけの力がある。どんな理不尽だろうが問題なく実行できるほどの力があり、その矛先が今俺に向かっているだけだ。

そして少しだが、奴のやろうとしていることが分かってきた。悪趣味を理解したくもないが、冒険者として危険を予想して動く以上、理解してしまうのだ。

「弄り回した感性と、元の俺の感性を戦わせたいってところか?」
「…ふふふ、いいですね!。ジルク!、あなた既に私の好みに近いですよ!。では是非是非私のモノになるのを期待していますよ!」
「なっ!?」

周囲の風景が歪み、ヤギの姿も消えていく。空間が捻じられるような視界と共に、魔力の光が周囲を満たした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】元・おっさんの異世界サバイバル~前世の記憶を頼りに、無人島から脱出を目指します~

コル
ファンタジー
 現実世界に生きていた山本聡は、会社帰りに居眠り運転の車に轢かれてしまい不幸にも死亡してしまう。  彼の魂は輪廻転生の女神の力によって新しい生命として生まれ変わる事になるが、生まれ変わった先は現実世界ではなくモンスターが存在する異世界、更に本来消えるはずの記憶も持ったまま貴族の娘として生まれてしまうのだった。  最初は動揺するも悩んでいても、この世界で生まれてしまったからには仕方ないと第二の人生アンとして生きていく事にする。  そして10年の月日が経ち、アンの誕生日に家族旅行で旅客船に乗船するが嵐に襲われ沈没してしまう。  アンが目を覚ますとそこは砂浜の上、人は獣人の侍女ケイトの姿しかなかった。  現在の場所を把握する為、目の前にある山へと登るが頂上につきアンは絶望してしてしまう。  辺りを見わたすと360度海に囲まれ人が住んでいる形跡も一切ない、アン達は無人島に流れ着いてしまっていたのだ。  その後ケイトの励ましによりアンは元気を取り戻し、現実世界で得たサバイバル知識を駆使して仲間と共に救助される事を信じ無人島で生活を始めるのだった。  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介
ファンタジー
汚れた格好の男の嗚咽に苛ついて外へ出ると、作家志望のカケルは広大な平原に立っていた。 いきなりの異世界に戸惑っていると女商人が通りかかり、村まで案内してもらうが身包みを剥がされる。 高値で売れたらしく、女商人は他にも私物を欲しがり、居候する村の子供に話が人気なことから、女商人に小説を書けと言われる。 王都で王女はその侍女、さらには英雄志望の貴族の子息と出会い、女商人も含めて交流を深めていくにつれ、カケルは様々な出来事に遭遇しては翻弄されていく。 政略結婚。 奇襲による戦争の勃発。 国王の亡命。 帝国でのクーデター。 めまぐるしく変わる展開の中、裏で物語を書いている作者は誰なのか。 これは、カケル自身が登場人物となって紡ぐ物語。

【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー

浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり…… ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ 第5章完結です。 是非、おすすめ登録を。 応援いただけると嬉しいです。

サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ
ファンタジー
───────魔法使いは人ではない、魔物である。 この世界で唯一『魔力』を扱うことができる少数民族ガナン人。 彼らは自身の『価値あるもの』を対価に『魔法』を行使する。しかし魔に近い彼らは、只の人よりも容易くその身を魔物へと堕としやすいという負の面を持っていた。 人はそんな彼らを『魔法使い』と呼び、そしてその性質から迫害した。 四千年前の大戦に敗北し、帝国に完全に支配された魔法使い達。 そんな帝国の辺境にて、ガナン人の少年、クレル・シェパードはひっそりと生きていた。 身寄りのないクレルは、領主の娘であるアリシア・スカーレットと出逢う。 領主の屋敷の下働きとして過ごすクレルと、そんな彼の魔法を綺麗なものとして受け入れるアリシア……共に語らい、遊び、学びながら友情を育む二人であったが、ある日二人を引き裂く『魔物災害』が起こり―― アリシアはクレルを助けるために片腕を犠牲にし、クレルもアリシアを助けるために『アリシアとの思い出』を対価に捧げた。 ――スカーレット家は没落。そして、事件の騒動が冷めやらぬうちにクレルは魔法使いの地下組織『奈落の底《アバドン》』に、アリシアは魔法使いを狩る皇帝直轄組織『特別対魔機関・バルバトス』に引きとられる。 記憶を失い、しかし想いだけが残ったクレル。 左腕を失い、再会の誓いを胸に抱くアリシア。 敵対し合う組織に身を置く事になった二人は、再び出逢い、笑い合う事が許されるのか……それはまだ誰にもわからない。 ========== この小説はダブル主人公であり序章では二人の幼少期を、それから一章ごとに視点を切り替えて話を進めます。 ==========

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...