3 / 45
プロローグ
プロローグ-3
しおりを挟む
飛ばされた俺たちは上から見たら円を描くように陣形を作り、全方位を警戒していた。
「転移、とでも言うべきですかね」
「別の場所に飛ばされたか。マトモに考えるなら階段下からさらに下りたところだろう。となれば上に上がる場所を探す」
周囲の様子を確認し、全員が無事であることと何かが襲ってくるような気配はないことを全員が確認した。
不測の事態であったが全員が無事でいられた。なら後は脱出すればそれで解決だ。
とはいえ転移なんてものがあった以上、まずはそんなものを起動させたやつがいるのは間違いない。その排除をするのが早道だ。
「…?」
最大に警戒していた横から震える振動が伝わってきた。背中を預けたこともあるから分かる。これは……恐怖で動けない状態になっている証拠だ。
「どうしたカルザ?」
横目でチラリとカルザの方を向く。それだけで何が起きていたか分かってしまった。
ガチガチと歯を鳴らし怯えに目を染めるカルザ。そしていつの間にかヤヴォールが四方を組む陣を崩し横に並んでいた。
そしてその視線の先には―
「あ…れ…は…」
「何て魔力…!」
―後光のような魔力を放つヤギが浮いていた。
どう見てもただのヤギではない。突き刺すような魔力はかつて何回も遭遇した災害と同等かそれ以上の力を示している。それが意味するのは一つ、ここは既に災害獣である奴が支配する空間であるという事実だ。
災害獣。文字通り災害そのものである獣の総称だ。魔物の最上位……エンシェントドラゴンや魔王と呼ばれる者たちですら一瞥するだけで死ぬとさえ言われ、彼らに敵と認識された時点で命はない。
「……おや」
背を向けていたファトスも気づいたのか、俺たち全員は横に並び立った。
言葉を話すということは交渉できる可能性がある。しかし相手は災害だ。良くて誰か生き残り、悪ければ全滅は確実だ。
「知性を持つタイプか。……どう出てくる」
ヤギは俺たちを一瞥し、その視線を俺に向けた。俺はその視線から放たれる突き刺す魔力に耐えたが、同時に頭が揺さぶられるような衝撃に膝をついた。
「あなた、名前はジルクというのですか。悪くないですね」
「……俺の名前をどうやって?。まさか……今ので記憶を読まれたか」
三人の驚く顔が見えるが身体の反応が鈍い。ふらふらと立ち上がるが、杖をつかないと歩くこともできないだろう。
「あなたがここに残れば他の三人は元の場所に帰しましょう。それにあなたにも帰るチャンスをあげます」
「なっ!?」
思考回路が驚愕に染まる。その内容があまりにも魅力的過ぎる故に頭の処理が追いつかない。
そんな俺を守るかのように三人は一歩前に出て武器を構えた。立ち上がる魔力が怒りを隠せていない。
「仲間をみ殺しにしろってか。ふざけた災害獣だな」
「一瞬で記憶を読むほどの災害なら俺たちは後から殺されるだけだ。それならここで抗っても変わりはないな」
「最期に戦う理由としては悪くないね。」
三者三葉に戦う理由を告げる。パーティーの絆を示すその行動に涙が俺の目に浮かぶ。
だが奴はその絆さえ嘲笑うかのように打ち砕いてきた。
(聞こえますね?。声を上げたら殺します)
「~っ!?」
背筋をなぞるような、意識への無理やりの介入。伝えられた言葉は脅迫以外のなにものでもなく、三人に気づかれずに俺だけへと言葉を伝えることなぞ簡単だと示していた。
(今からあなたに強化の魔術をかけます。そこから先は……分かりますね?、選ぶのはあなたです)
―その言葉の意味が、分かってしまった。
何という残酷な二択を選ばせるのか。しかもその選択をするのは俺であり、選択肢なんてない。何より俺は死から回避させるのがパーティーの役割だ。
……俺たちは冒険者だ。もし3人が生き残るために1人が犠牲になればいいというなら。
上を見上げ、泣きそうになる目に活を入れる。強化魔術はとんでもないレベルのものがかかっている。一撃で敵対者の全身の力だけを奪うような攻撃すら可能な、豪快かつ繊細な強化だ。
「ごめん」
「なっ!?」
油断しているカルザ、ファトス、ヤヴォールの首の後ろに手刀を打ち込む。一番反射神経が高いカルザだけは反応できたために、一撃で意識を刈り取ることはできなかった。
どうしてこうなったんだろう。俺は死なせないための冒険者だっていうのに。
「ごめんな皆。絶対生きて帰るから」
「ジルク!止め―」
カルザの悲痛な叫びと同時に、彼らは魔法陣の中に消えていった。
「転移、とでも言うべきですかね」
「別の場所に飛ばされたか。マトモに考えるなら階段下からさらに下りたところだろう。となれば上に上がる場所を探す」
周囲の様子を確認し、全員が無事であることと何かが襲ってくるような気配はないことを全員が確認した。
不測の事態であったが全員が無事でいられた。なら後は脱出すればそれで解決だ。
とはいえ転移なんてものがあった以上、まずはそんなものを起動させたやつがいるのは間違いない。その排除をするのが早道だ。
「…?」
最大に警戒していた横から震える振動が伝わってきた。背中を預けたこともあるから分かる。これは……恐怖で動けない状態になっている証拠だ。
「どうしたカルザ?」
横目でチラリとカルザの方を向く。それだけで何が起きていたか分かってしまった。
ガチガチと歯を鳴らし怯えに目を染めるカルザ。そしていつの間にかヤヴォールが四方を組む陣を崩し横に並んでいた。
そしてその視線の先には―
「あ…れ…は…」
「何て魔力…!」
―後光のような魔力を放つヤギが浮いていた。
どう見てもただのヤギではない。突き刺すような魔力はかつて何回も遭遇した災害と同等かそれ以上の力を示している。それが意味するのは一つ、ここは既に災害獣である奴が支配する空間であるという事実だ。
災害獣。文字通り災害そのものである獣の総称だ。魔物の最上位……エンシェントドラゴンや魔王と呼ばれる者たちですら一瞥するだけで死ぬとさえ言われ、彼らに敵と認識された時点で命はない。
「……おや」
背を向けていたファトスも気づいたのか、俺たち全員は横に並び立った。
言葉を話すということは交渉できる可能性がある。しかし相手は災害だ。良くて誰か生き残り、悪ければ全滅は確実だ。
「知性を持つタイプか。……どう出てくる」
ヤギは俺たちを一瞥し、その視線を俺に向けた。俺はその視線から放たれる突き刺す魔力に耐えたが、同時に頭が揺さぶられるような衝撃に膝をついた。
「あなた、名前はジルクというのですか。悪くないですね」
「……俺の名前をどうやって?。まさか……今ので記憶を読まれたか」
三人の驚く顔が見えるが身体の反応が鈍い。ふらふらと立ち上がるが、杖をつかないと歩くこともできないだろう。
「あなたがここに残れば他の三人は元の場所に帰しましょう。それにあなたにも帰るチャンスをあげます」
「なっ!?」
思考回路が驚愕に染まる。その内容があまりにも魅力的過ぎる故に頭の処理が追いつかない。
そんな俺を守るかのように三人は一歩前に出て武器を構えた。立ち上がる魔力が怒りを隠せていない。
「仲間をみ殺しにしろってか。ふざけた災害獣だな」
「一瞬で記憶を読むほどの災害なら俺たちは後から殺されるだけだ。それならここで抗っても変わりはないな」
「最期に戦う理由としては悪くないね。」
三者三葉に戦う理由を告げる。パーティーの絆を示すその行動に涙が俺の目に浮かぶ。
だが奴はその絆さえ嘲笑うかのように打ち砕いてきた。
(聞こえますね?。声を上げたら殺します)
「~っ!?」
背筋をなぞるような、意識への無理やりの介入。伝えられた言葉は脅迫以外のなにものでもなく、三人に気づかれずに俺だけへと言葉を伝えることなぞ簡単だと示していた。
(今からあなたに強化の魔術をかけます。そこから先は……分かりますね?、選ぶのはあなたです)
―その言葉の意味が、分かってしまった。
何という残酷な二択を選ばせるのか。しかもその選択をするのは俺であり、選択肢なんてない。何より俺は死から回避させるのがパーティーの役割だ。
……俺たちは冒険者だ。もし3人が生き残るために1人が犠牲になればいいというなら。
上を見上げ、泣きそうになる目に活を入れる。強化魔術はとんでもないレベルのものがかかっている。一撃で敵対者の全身の力だけを奪うような攻撃すら可能な、豪快かつ繊細な強化だ。
「ごめん」
「なっ!?」
油断しているカルザ、ファトス、ヤヴォールの首の後ろに手刀を打ち込む。一番反射神経が高いカルザだけは反応できたために、一撃で意識を刈り取ることはできなかった。
どうしてこうなったんだろう。俺は死なせないための冒険者だっていうのに。
「ごめんな皆。絶対生きて帰るから」
「ジルク!止め―」
カルザの悲痛な叫びと同時に、彼らは魔法陣の中に消えていった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる