千切られしモノ ~異世界で魔物となったJKは元の姿に世界に戻りたい~

火ノ鷹

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赤い羽根

災害が如き存在

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屋根をつたい、南側の大通りを行く。到着したのは休んだ時の宿、ローズの宿。その裏通りだ。通りには幸い人が少なく、道の端にいても違和感はない。

「ここでいいかな」

ローズの宿にほど近い場所で立ち、感覚を研ぎ澄ます。魔力感知の魔術は使えなくても、地面に魔力放出して地面に触れている者の魔力を感知するという方法はとれる。疑似的な方法であるなら逆探知は簡単には行われない。

だがただでさえ魔力放出は慣れてない上、応用的な使い方は慣れていない。今はそんな方法に頼らざるを得ないというのが辛いところだ。
集中して展開していると、聞いたことのある声が聞こえた。

「あれ?ルミナさん?」

目覚めて急いでいた時に出た声だ。可愛らしい声は今の集中の邪魔になるが、ガイードの危険視の一人だ。無視するわけにもいかない。

「あんたは…確かシアとか言ったっけ」
「はい。こんなところで何を?」

魔力操作に集中しつつ対話に応じる。とはいえ今やっていることをそのまま伝える訳にはいかない。ぼかして話す以外ない。私たちの行動で危険に晒す訳にはいかないのだから、そうせざるを得ないのだ。

「んー…、ちょーっと面倒ごとがあってね。いい感じの場所を探してたらここだった」
「はぁ…まぁ別に構いませんが、巡回している衛兵たちに何か言われても知りませんよ?」
「ははは、そんなことくらい分かってる。それにそこまで時間はかからないから大丈夫」

あの3人なら既に準備終わってるとかそういうレベルで行動しているはずだ。というかさっきから通信魔術がちょいちょい流れてくるから確実にそうだ。
ただ流れてくる内容が実力差を綺麗に示しているもんだから反応には困る。

(聞こえるか、こちらは問題なく準備完了だ)
(私も展開できるわ)
(流石に早い……!でもこちらも丁度今完了したところです!)

ディーエは近衛デルスや引退したカティナに比べれば新人もいいところ。そんな人材に同じ仕事をしろというのは無茶ぶり以外の何物でもない。

「……多分、時間かからないはず」

ディーエにはもう少し優しくしてあげよう。上司がデルスでつきっきり任務なんて地獄もいいとこだ。成長の機会としてはいいかもしれないが、きつすぎるのも度を越えるのはよろしくない。

「何かあったんですか?」
「ちょっとね」

シアに聞かれるくらいには心配そうな顔をしていたのだろう。本当のことは言えないので誤魔化すも、シアの顔は何か訝し気だ。
適当に誤魔化すのも限度というものがある。軽い知り合い程度の仲だからスルーしてもいいが、突っ込まれると話せないのはやましいことがあると言ってるのと同じだ。

(ディーエ、やるぞ?)
(はい!大丈夫です!)

二人の通信魔術が5人に広がる。もう一分もせずに実行されるはずだ。流石にこんな状況でシアとの会話にうつつを抜かす訳にはいかない。
少しだけ時間を貰うことにしよう。

「あ、ごめん。少しだけ向こう向いててくれない?集中しろって怒られてる気がしてきた」
「え、あ、はい」

通信魔術と探知に意識を集中する。ここから先の状況変化は一瞬で切り替わる。その状況に合わせて行動できるのか、自身の能力が問われるところだ。
こちらの準備も問題ないと通信魔術で送り、ミグアも同じ返事を皆に返す。それを受け取った数舜後、カティナからの通信が入った。

(3カウント,0で展開します。いいですね?)
(分かった)
(了解です)
(問題なし)
(うん)

カティナの指示に全員が返事の通信を行う。緊張感が最大まで高まり、周囲へいつでも飛び出せるように姿勢を整える。
身体強化はまだ行わない。0のタイミングで使うべき全ての魔術を展開するように綿密な魔力操作を行っていく。

(3……2……1……0)

0の言葉と共に身体強化、周囲の感知、五感強化といった魔術を展開する。さらに小槌サイズでゼルを展開し、臨戦態勢を敷く。
ルミナが臨戦態勢を取ったと同時に空に透明な魔法陣が展開される。魔力視をもってしても軍人クラスでなければ見えない程の色であり、道行く一般人には見えないものだ。
展開は一瞬であり、すぐさま終わるがその効果は分かりやすく目に見えていた。

「あ」

展開された魔法陣によりルミナの目に見えるものは魔力視だけではなくなっていた。建物を透明にし、魔力を持つ生命体だけが見える状態で、その潜在している魔力量がオーラのように見えるようになっていたのだ。
そんな状態で周囲を見渡せば災害獣のような存在はすぐに分かる。

「……あなた、だったのね」

例え、それが目の前にいる女性だったとしても。

「バレちゃいましたか。事を荒げたくなかったから隠れてたのに」

めんどくさそうな口調で視線を合わせてくるシア。だが視線を合わせるだけで感知が阻害されているようにも感じられる。
いや、実際に何か起きている。目を離せば危険が及ぶから離せられないのではない。惹きつけられるような蠱惑の視線をしていた。

「っ!」

視線を遮るように腕を上げるも、展開されている魔力視はシアの魔力量をそのまま目に見えるようにしてしまう。視線を遮る程度で見えなくなるものではなかった。
目の前にいるなら、目を瞑らないとどうしても視界に入る魔力量。だが視線を遮るという行為だけで既に死線にいるのだ。それ以上は不可能というものだ。

だが災害が如き存在は既にルミナがいる死線を蹴りつける。

「ローズが怒らないといいけど……話くらいは聞いてあげます。ただ、イラっとしたので一発くらいは許してくださいね?」

ルミナが遮っている視線ではシアの動きを見ることができない。ただ蹴りつけられるだけでも予測不可であり、威力もまたその魔力量に相応しいものだった。

「な」

魔力を纏わせ、攻撃に自身の持つ魔力特性を付与する。魔力放出の延長にあるその技能は未だルミナが持てないものだ。高位軍人でも使えるものは上位半分程度だろう。

そしてシアの持つ魔力は視線や魔力からも誘惑に近い能力を持っている。それは視線を遮るという愚策をとったルミナでも分かっていた。だがその技能を持っている予想はできなかった。

失神する誘惑を乗せられた一撃に、ルミナの意識は途絶えた。
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