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赤い羽根
ルーナの足跡を追う者
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夜、寝静まり音が無くなっていく時間帯。夜に行動する災害獣もいるが、ドワルガ王国には近づかない。それはかの王と王妃を恐れるが故に。
そのドワルガ王国の王の寝室。そこで国王ワグムと王妃シュディーアがベッドに横かけて座っていた。
「ワグム。それはいったいどういうことでしょうか?」
「ルミナがルーナであることは分かっている。だがルーナではないことも分かっている。故に……俺よりも詳しいやつに判断を任せる」
シュディーアが怪訝な顔をしてワグムの顔を見つめる。その意味が分かっているからこそ、警告しなければならないからだ。
「……あの方ですか。確かに私たちよりも詳しい、判断も下せるでしょう。ですが余りにも危険です」
「危険過ぎることは分かっている。下手を撃てばこちら案内させるだけの遣わす者でさえ死ぬ。ルミナやミグアも死ぬだろう」
ドワルガ王国はまだルミナやミグアには信頼を寄せていない。正確にはルミナの中のルーナには信頼を置いているが、ルミナや、かつてマイマイだったというミグアなんぞは爆弾よりも危険な存在だと認識されていた。
故に彼女らに対して貴重な人材である高位軍人でさえも会わせたくなかった。ましてや彼女らのために軍人に死人がでることなど考えるべくもなかった。
「それが分かっていて、何故?」
「信じられぬからだ」
腕を組み、首を傾げるワグム。そこには疑問が解けないという苦悩が見えていた。それには高位軍人から送られてきた、とある情報が端を発していた。
その情報が意味していたことはルミナがこの世界に生まれた者なのか分からない、それ以外なら虫以下の存在に奇跡でも起きたような存在であるかというもの。到底信じられるものではなかった。
「この世界の外から来た存在か、それとも魔力の持たない程の虫以下の存在。その二択では……もしかしてワグム、あなたはもう分かって?」
そこから出された判断がどちらでも突飛なものであるが故に彼らは苦悩する。ドワルガ王国の知識のほとんどを所有する知識の宝庫とすら呼ばれるシュディーアでさえもそうだった。
「いや分からん。だがどちらにしても、あのルーナが彼女を認めているという事実が信じられん。もちろんルーナが虫以下に喰われるということも、世界の外の存在を認めるというどちらかが起きたということも信じられんがな」
そして何よりもそんな存在をドワーフの英雄ルーナが認めているという事実が許せなかった。信頼している人材が、ワグムからは理解できない者を信頼するなど……かつて親しかった者からすれば当然のことだった。
「ルーナという存在を信じているからこそ彼女が分からないということですか。それならばまだ時期が早いでしょう」
「何?」
だからこそ、シュディーアはまだ結論には早いと判断を下していた。王妃という地位は武力で決まることも多い。が、王妃としての評価は武力だけではなく人材を見る目や知識、王の伴侶たる覚悟といったものがある。だからこそ彼女がどういった者なのかも既に分かっていた。
「まだ私たちは彼女を知ったばかり。ならば……いずれルーナのようになっていくやもしれませんよ?」
彼女にはルーナという道標がある。ならばそれ頼りに歩いていくのだろうと、期待を込め微笑みながらシュディーアは話す。
「……ふふふ、シュディーアには敵わんな。ルーナの足跡を追う者を、ルーナの先を知る者は俺は認めたくないということか。であればかの者へと送ったとしても生き残るであろうな」
ワグムもまた微笑みを返す。ワグム達を悩ませているのは苦悩ではなく嫉妬なのだと認め、その嫉妬から問題はないと判断を下す。結局はルーナから彼女への信頼とルーナが彼女のためにしいた道を信じるのが一番いいのだと自分に言い聞かせ、自身の感情は押し殺す。
ルーナが信頼して、似た道を歩む彼女ならルーナと同じように死なないと。
「ルーナの足跡を追う者ならば、死ぬわけがないですからね」
シュディーアが向ける視線にワグムも応える。そして共に頷き、微笑む。
「さて、我らの神はどういう判決を下すのか。祈るだけだな」
そしてドワーフの神へと祈りを捧げ、二人は眠りについた。
そのドワルガ王国の王の寝室。そこで国王ワグムと王妃シュディーアがベッドに横かけて座っていた。
「ワグム。それはいったいどういうことでしょうか?」
「ルミナがルーナであることは分かっている。だがルーナではないことも分かっている。故に……俺よりも詳しいやつに判断を任せる」
シュディーアが怪訝な顔をしてワグムの顔を見つめる。その意味が分かっているからこそ、警告しなければならないからだ。
「……あの方ですか。確かに私たちよりも詳しい、判断も下せるでしょう。ですが余りにも危険です」
「危険過ぎることは分かっている。下手を撃てばこちら案内させるだけの遣わす者でさえ死ぬ。ルミナやミグアも死ぬだろう」
ドワルガ王国はまだルミナやミグアには信頼を寄せていない。正確にはルミナの中のルーナには信頼を置いているが、ルミナや、かつてマイマイだったというミグアなんぞは爆弾よりも危険な存在だと認識されていた。
故に彼女らに対して貴重な人材である高位軍人でさえも会わせたくなかった。ましてや彼女らのために軍人に死人がでることなど考えるべくもなかった。
「それが分かっていて、何故?」
「信じられぬからだ」
腕を組み、首を傾げるワグム。そこには疑問が解けないという苦悩が見えていた。それには高位軍人から送られてきた、とある情報が端を発していた。
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そこから出された判断がどちらでも突飛なものであるが故に彼らは苦悩する。ドワルガ王国の知識のほとんどを所有する知識の宝庫とすら呼ばれるシュディーアでさえもそうだった。
「いや分からん。だがどちらにしても、あのルーナが彼女を認めているという事実が信じられん。もちろんルーナが虫以下に喰われるということも、世界の外の存在を認めるというどちらかが起きたということも信じられんがな」
そして何よりもそんな存在をドワーフの英雄ルーナが認めているという事実が許せなかった。信頼している人材が、ワグムからは理解できない者を信頼するなど……かつて親しかった者からすれば当然のことだった。
「ルーナという存在を信じているからこそ彼女が分からないということですか。それならばまだ時期が早いでしょう」
「何?」
だからこそ、シュディーアはまだ結論には早いと判断を下していた。王妃という地位は武力で決まることも多い。が、王妃としての評価は武力だけではなく人材を見る目や知識、王の伴侶たる覚悟といったものがある。だからこそ彼女がどういった者なのかも既に分かっていた。
「まだ私たちは彼女を知ったばかり。ならば……いずれルーナのようになっていくやもしれませんよ?」
彼女にはルーナという道標がある。ならばそれ頼りに歩いていくのだろうと、期待を込め微笑みながらシュディーアは話す。
「……ふふふ、シュディーアには敵わんな。ルーナの足跡を追う者を、ルーナの先を知る者は俺は認めたくないということか。であればかの者へと送ったとしても生き残るであろうな」
ワグムもまた微笑みを返す。ワグム達を悩ませているのは苦悩ではなく嫉妬なのだと認め、その嫉妬から問題はないと判断を下す。結局はルーナから彼女への信頼とルーナが彼女のためにしいた道を信じるのが一番いいのだと自分に言い聞かせ、自身の感情は押し殺す。
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「ルーナの足跡を追う者ならば、死ぬわけがないですからね」
シュディーアが向ける視線にワグムも応える。そして共に頷き、微笑む。
「さて、我らの神はどういう判決を下すのか。祈るだけだな」
そしてドワーフの神へと祈りを捧げ、二人は眠りについた。
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