79 / 133
災厄の化身
ドワルガ王国とルーナ
しおりを挟む
ふわりと翼を翻し難なく着地したルーナと、ルーナにお姫様されている気絶したミグア。そしてそこには大勢のドワーフ達の姿があった。
「……ルーナ、でいいのか?」
ワグムが黒い衣服をしたルーナに問い掛ける。魔力こそ同じではあるが、余りにも変わり過ぎている外見は本人であるかどうかの判断を誤らせかねないと思うには十分過ぎた。
「久しぶりねワグム。それにシュディーアも」
ミグアを地面にそっと降ろし、ルーナは二人に声を掛ける。かつて二人と共にドワルガ王国にいたルーナには郷愁に駆られる感覚があった。
「やはりあなたでしたか。いえまぁ……予言がありましたから知ってはいましたけど」
シュディーアがワグムの横に立つ。ルーナに今問い掛けるのは二人だけしかいてはいけないと言うような立ち位置だ。
「予言?。……誰から?」
ルーナのその反応にワグムとシュディーアは目を見開き、眉をひそませた。そんな反応をすること自体が理解できないと言うようだ。
それも当然。予言とは神様からの言葉を意味するものであり、ドワーフの王たるワグムや王妃シュディーアが言葉にする以上、ドワーフの神様からの言葉である以外にあり得ない。
「何?。ルーナお前……いや、そうか。シュディーア、これは我々に干渉するなということで間違いないな」
「ええ、特に私たち二人が干渉してはいけませんね」
ワグムとシュディーアはお互いの顔を見合わせ、意見の共有をする。そこに食い違いはなく、長年のパートナーたる信頼感を見せていた。
「随分と含みがあるようね、構わないけど。こちらは身体が既に限界に近いわ……捕まえるかしら?」
首を横に振るワグムとシュディーア。二人は目を閉じており、態度がそんなことはないと断言していた。
ルーナは災害の研究の果てに、かつてドワーフ国に大災害を引き起こした大罪人だ。だが行っていたことはそれだけではない。
「まさか、冗談はよせ。お前は大罪人でもあるが、幾度となく災害からドワーフを救った英雄でもある。それも複数の災害から、だ。それにお前……ルーナだが、違うな?」
一度ルーナは視線を地面に逸らし、溜息を一つつく。そしてワグムと再び目線を合わせた。
「……ええ。ルミナ、そう呼んで頂戴。この子はミグア、マイマイであってマイマイではない存在よ。敵ではないしマイマイを増殖もしないから安心しなさい」
ほう、とワグムは思わず口に出す。名前を変えたということは以前のルーナではないということ。ドワーフの中でルーナという名前がどれだけ影響力を持っているのか知っていれば、理解できないこともない。だがこれまでの繋がりを捨てるということも意味している。だからこそワグムは隠していたが驚愕もしていた。
さらにミグアという存在。マイマイは幼生体という生態を持つ種族からすれば皆殺しにしなければならない対象だ。当然ドワーフも幼児という段階を経るのでマイマイは殺意の対象となる。それを殺すなと言う。言葉にしたのがルーナでなければ理解の外だと言ってすぐに殺していたことだろう。
ワグムとシュディーアはコクリと頷く。それが理解できたと示すために。
「ルミナならルーナとは別人だな。キグンマイマイを倒してくれた恩人の一人、いや二人か。それ以上でも以下でもない。ミグアもお前がそう言うなら問題ないということだろう」
「助かるわ、一度身体を休めたかったところだし。それに……ルミナに少し教えてあげて」
ワグムはお前に教えることなどないだろうと呆れるも、その言い方がおかしいと気づく。それはまるでルーナ自身が別物になったのだというような言い方だ。
まさかと、あのルーナがと、あり得ないと、そう思いながらもワグムは疑問を口に出す。
「……その身体」
ワグムの言葉を遮り首を横にふるルーナ。その顔は悲壮感が混じっており、言いたくないと目で訴えていた。
「私はいい。この子はまだ生まれたてもいいところ。それでもキグンマイマイの中核と互角程の強さまですぐに到達したわ。これならあと少しの技術、方針さえあれば災害と遭遇しても成長の糧にできるでしょう」
「はぁ……自己犠牲は悪い癖だぞ」
溜息をつくワグムに何言ってるのかと呆れた顔をルーナは見せた。ルーナはワグムやシュディーアの出自を知っている。二人の存在がドワーフの種族にとっての自己犠牲みたいなものだと分かっているのだ。
「あら、悪いかしら?。というかあなたが言うの?。ドワーフの黒い歴史と輝かしい歴史の掛け算みたいなあなたが?」
「そこまでにしてもらえませんか?」
責められてうろたえかけていたワグムにシュディーアが助け舟を出した。話していたワグム同様にシュディーアも対等な言い方だ。
「シュディーア、あなたも変わらないわね」
「ええ。かく言うあなたも。私の尊敬する英雄ルーナ様の姿から変わってません。大罪人ルーナの姿からも、ですが」
ジッと見つめるシュディーアにルーナは困ったような顔をする。ルーナはルミナとして性格も身体も変わっており、姿も魔物を背中に携えているようなものになっており以前とは別物だ。変わっていないと言われても反応に困るのは当然だ。
「……身体は変わってるわよ?」
「本質は全く変わっていないでしょう?。知識、未知を欲し本能的に動く。その先に災害が見えたら道の邪魔だと蹴飛ばす。……変わりましたか?」
ジトっとした目をしたシュディーアに、サッと目を逸らすルーナ。素は変わっていないと言われ納得してしまったからの行為だった。
「とはいえ今のあなたは神様の予言で福音と呼ばれています。……あるのですよね?、ゼル」
「当然あるけど?」
指輪になっていたゼルを展開し、大槌形態にして肩に担ぐ。おおっという声がドワーフの軍人たちから上がった。それらは憧れの姿を目にした者たちの声だった。
「それを担いでる姿を見せれば十分です。それだけで民は誰が来たのか分かる」
「……こんな感じ?。記録に誰か撮ったかしら」
キリっとした顔をしたルーナをシュディーアがニコリとした顔をして見、その後くるりと後ろを見て後方でドワーフの一部隊が手を上げたのを視認する。
「はい、ありがとうございます」
「シュディーアもホントに変わらな……そろそろ限界。ああ、ガイードが起きるわね、後は任せたわ」
既に限界を迎えていたルーナはガクリと膝を折る。目を閉じて気絶したかのように見えたが、足に力が入っていない訳ではなかった。
そしてワグムたちドワーフはガイードという名前は初耳だった。真っ先にそれを疑問に出したのはワグムだった。
「ガイード?」
「我の名を呼んだか?」
ルーナの方から声が届くと同時に戦闘部隊が臨戦態勢に入る。だがワグムが軽く手を上げ、その必要はないと示す。
さらにはシュディーアの瞳が声の出所を察知していた。目を閉じたまま立ち上がるルミナの、左腕についているバングルへとその視線は向けられていた。
「止めろ」
「纏っている衣服、それに翼や尻尾ですね?。そして本体は……そこのバングル」
「如何にも。我は災竜黒鎧ガイード、ルミナと共に在るモノよ。身体を動かす程度の魔力しかないが、ルミナをどうするつもりだ?」
ガイードの自己紹介にシュディーアがゴクリと唾をのむ。
シュディーアはワグムより身体能力が低いが、魔力探知や索敵、大規模魔術といった方向はワグムより上だ。だからこそガイードの恐ろしいまでの魔力が理解できてしまう。
冷や汗を流すシュディーアを見ずに、どんな表情をしているのか察するワグムがガイードの疑問に回答する。
「何もしない」
「……そうか、話していたのはルーナだな?。ならば身体を休めるところまで案内を頼みたい」
ガイードの言葉からルーナとガイードは信頼関係が十分にある者同士だと認識するドワーフ。ワグムは対等の関係であると推測した。
だがその関係性よりも今視ている魔力が示している事実の方が彼らには重要だった。
「当然だ。ガイードとやら、あなたがキグンマイマイの討伐に最も貢献した者だろう?」
「ルーナのよるキグンマイマイの体内を削る魔法に、我らがやつを消滅させた攻撃を耐え切った。傷跡がそう言っていますね。ゼル並み……いえ、意志があることを考えるとそれ以上の性能と言ってもいいかもしれませんね」
二人の言葉にガイードはふんっと鼻を鳴らす。褒められたのは機嫌は悪くなかったが、自身と比較されているものが比較するに相応しくないモノだった。審美眼が間違えている、というのは見られる側からは侮辱に近しいのだ。
「ゼルと一緒にするな。あれは魔法は魔法でも別物だ。我の方が上でこそあるものの、本来の作り方を経ていたらその性能はひっくり返るであろう」
その言葉にコクリと頷くシュディーア。さっき見たゼルと、これまで見たことのあるゼルが見た目だけが同じだったのが気になっていたのだ。内包する魔力が桁違いであり、せいぜい災害を3体程度を相手取るくらいだと見抜いていた。
シュディーアの目算では、本来のゼルは10体は相手取れる性能を持っていた。
「本来のゼル。ドワルガ王国に封印されているモノですね。昔ルーナが使っているのを見たことありますが、先ほど見たゼルとは輝きがまるで違った。なるほど、それが原因ですか……」
目を閉じて納得するシュディーア。それを見てワグムはもしやとガイードへ疑問をぶつける。あり得ないことだと分かっていても、聞かずにはいられない。ドワーフの性だった。
「ガイードとやら、本来の作り方を知っているのか?」
「知らん。だがあれを作った時、我はルーナの目の前にいた。だから……その時既にルーナはルミナに近かったことは知っておる」
ガイードはどうでも良さそうに知っていることを話した。ガイードはルミナが無事でいることだけが信念と成っている。ゼルの作り方など知られたとしても、ルミナが危険に晒されるようなことはないという判断だった。
もしそれがルミナを危険に晒すなら話は変わるが、ゼルはそんな簡単に造れるような代物ではないということもガイードは知っている。だから話しても価値はないと踏んだのだ。
「純粋なルーナなら、ということか」
「さてな。……ところで案内はまだか?、走るのは不可能程度には消耗しておる。早く休ませてやりたいのだが」
「おおっと、すまなんだ。ジナガオ!、デルス!」
「「はっ」」
ワグムの後ろに控えていた二人が声を上げてワグムたちの前へと出る。ルミナの脇を支えるように持ち上げる。意識のないルミナを無断で移動させるならばガイードやゼルの超重量がかかるが、ルミナである誰かの意志さえあれば問題にはならない。
今回で言えばガイードがいるため問題にはならなかった。
「支えて連れて行ってやれ。場所は王城裏手にある小屋だ」
「……いいのですか?」
驚く二人にワグムはそれが当然だと態度で示す。
「元々ルーナの私室だ。魔力も満ち足りてるから回復も早かろうよ。全軍も帰還させよ。我とシュディーアは少しだけ話すことがある」
「「はっ」」
ドワーフの高位軍人が都市へと帰還していく。元々そう遠くはない距離だ、傷だらけで疲弊している彼らであっても十数分もあれば戻っていることだろう。
移動し始めた彼らを余所に、ワグムとシュディーアは動かずに佇む。まるで戦いの跡を見届けるかのように。
だが彼らの想いはそこにはなかった。
「神様と最も縁のあるドワーフが神様を忘れると思うか?」
「いいえ。つまりはこれも神様の思し召しというやつでしょう。我々が言うところでの、計画通りというものです」
神様と謁見したことさえある大英雄ルーナ。その存在が神を忘れるなどという事実をドワーフの頂点に君臨する二人は疑問に思ったのだった。
「……ルーナ、でいいのか?」
ワグムが黒い衣服をしたルーナに問い掛ける。魔力こそ同じではあるが、余りにも変わり過ぎている外見は本人であるかどうかの判断を誤らせかねないと思うには十分過ぎた。
「久しぶりねワグム。それにシュディーアも」
ミグアを地面にそっと降ろし、ルーナは二人に声を掛ける。かつて二人と共にドワルガ王国にいたルーナには郷愁に駆られる感覚があった。
「やはりあなたでしたか。いえまぁ……予言がありましたから知ってはいましたけど」
シュディーアがワグムの横に立つ。ルーナに今問い掛けるのは二人だけしかいてはいけないと言うような立ち位置だ。
「予言?。……誰から?」
ルーナのその反応にワグムとシュディーアは目を見開き、眉をひそませた。そんな反応をすること自体が理解できないと言うようだ。
それも当然。予言とは神様からの言葉を意味するものであり、ドワーフの王たるワグムや王妃シュディーアが言葉にする以上、ドワーフの神様からの言葉である以外にあり得ない。
「何?。ルーナお前……いや、そうか。シュディーア、これは我々に干渉するなということで間違いないな」
「ええ、特に私たち二人が干渉してはいけませんね」
ワグムとシュディーアはお互いの顔を見合わせ、意見の共有をする。そこに食い違いはなく、長年のパートナーたる信頼感を見せていた。
「随分と含みがあるようね、構わないけど。こちらは身体が既に限界に近いわ……捕まえるかしら?」
首を横に振るワグムとシュディーア。二人は目を閉じており、態度がそんなことはないと断言していた。
ルーナは災害の研究の果てに、かつてドワーフ国に大災害を引き起こした大罪人だ。だが行っていたことはそれだけではない。
「まさか、冗談はよせ。お前は大罪人でもあるが、幾度となく災害からドワーフを救った英雄でもある。それも複数の災害から、だ。それにお前……ルーナだが、違うな?」
一度ルーナは視線を地面に逸らし、溜息を一つつく。そしてワグムと再び目線を合わせた。
「……ええ。ルミナ、そう呼んで頂戴。この子はミグア、マイマイであってマイマイではない存在よ。敵ではないしマイマイを増殖もしないから安心しなさい」
ほう、とワグムは思わず口に出す。名前を変えたということは以前のルーナではないということ。ドワーフの中でルーナという名前がどれだけ影響力を持っているのか知っていれば、理解できないこともない。だがこれまでの繋がりを捨てるということも意味している。だからこそワグムは隠していたが驚愕もしていた。
さらにミグアという存在。マイマイは幼生体という生態を持つ種族からすれば皆殺しにしなければならない対象だ。当然ドワーフも幼児という段階を経るのでマイマイは殺意の対象となる。それを殺すなと言う。言葉にしたのがルーナでなければ理解の外だと言ってすぐに殺していたことだろう。
ワグムとシュディーアはコクリと頷く。それが理解できたと示すために。
「ルミナならルーナとは別人だな。キグンマイマイを倒してくれた恩人の一人、いや二人か。それ以上でも以下でもない。ミグアもお前がそう言うなら問題ないということだろう」
「助かるわ、一度身体を休めたかったところだし。それに……ルミナに少し教えてあげて」
ワグムはお前に教えることなどないだろうと呆れるも、その言い方がおかしいと気づく。それはまるでルーナ自身が別物になったのだというような言い方だ。
まさかと、あのルーナがと、あり得ないと、そう思いながらもワグムは疑問を口に出す。
「……その身体」
ワグムの言葉を遮り首を横にふるルーナ。その顔は悲壮感が混じっており、言いたくないと目で訴えていた。
「私はいい。この子はまだ生まれたてもいいところ。それでもキグンマイマイの中核と互角程の強さまですぐに到達したわ。これならあと少しの技術、方針さえあれば災害と遭遇しても成長の糧にできるでしょう」
「はぁ……自己犠牲は悪い癖だぞ」
溜息をつくワグムに何言ってるのかと呆れた顔をルーナは見せた。ルーナはワグムやシュディーアの出自を知っている。二人の存在がドワーフの種族にとっての自己犠牲みたいなものだと分かっているのだ。
「あら、悪いかしら?。というかあなたが言うの?。ドワーフの黒い歴史と輝かしい歴史の掛け算みたいなあなたが?」
「そこまでにしてもらえませんか?」
責められてうろたえかけていたワグムにシュディーアが助け舟を出した。話していたワグム同様にシュディーアも対等な言い方だ。
「シュディーア、あなたも変わらないわね」
「ええ。かく言うあなたも。私の尊敬する英雄ルーナ様の姿から変わってません。大罪人ルーナの姿からも、ですが」
ジッと見つめるシュディーアにルーナは困ったような顔をする。ルーナはルミナとして性格も身体も変わっており、姿も魔物を背中に携えているようなものになっており以前とは別物だ。変わっていないと言われても反応に困るのは当然だ。
「……身体は変わってるわよ?」
「本質は全く変わっていないでしょう?。知識、未知を欲し本能的に動く。その先に災害が見えたら道の邪魔だと蹴飛ばす。……変わりましたか?」
ジトっとした目をしたシュディーアに、サッと目を逸らすルーナ。素は変わっていないと言われ納得してしまったからの行為だった。
「とはいえ今のあなたは神様の予言で福音と呼ばれています。……あるのですよね?、ゼル」
「当然あるけど?」
指輪になっていたゼルを展開し、大槌形態にして肩に担ぐ。おおっという声がドワーフの軍人たちから上がった。それらは憧れの姿を目にした者たちの声だった。
「それを担いでる姿を見せれば十分です。それだけで民は誰が来たのか分かる」
「……こんな感じ?。記録に誰か撮ったかしら」
キリっとした顔をしたルーナをシュディーアがニコリとした顔をして見、その後くるりと後ろを見て後方でドワーフの一部隊が手を上げたのを視認する。
「はい、ありがとうございます」
「シュディーアもホントに変わらな……そろそろ限界。ああ、ガイードが起きるわね、後は任せたわ」
既に限界を迎えていたルーナはガクリと膝を折る。目を閉じて気絶したかのように見えたが、足に力が入っていない訳ではなかった。
そしてワグムたちドワーフはガイードという名前は初耳だった。真っ先にそれを疑問に出したのはワグムだった。
「ガイード?」
「我の名を呼んだか?」
ルーナの方から声が届くと同時に戦闘部隊が臨戦態勢に入る。だがワグムが軽く手を上げ、その必要はないと示す。
さらにはシュディーアの瞳が声の出所を察知していた。目を閉じたまま立ち上がるルミナの、左腕についているバングルへとその視線は向けられていた。
「止めろ」
「纏っている衣服、それに翼や尻尾ですね?。そして本体は……そこのバングル」
「如何にも。我は災竜黒鎧ガイード、ルミナと共に在るモノよ。身体を動かす程度の魔力しかないが、ルミナをどうするつもりだ?」
ガイードの自己紹介にシュディーアがゴクリと唾をのむ。
シュディーアはワグムより身体能力が低いが、魔力探知や索敵、大規模魔術といった方向はワグムより上だ。だからこそガイードの恐ろしいまでの魔力が理解できてしまう。
冷や汗を流すシュディーアを見ずに、どんな表情をしているのか察するワグムがガイードの疑問に回答する。
「何もしない」
「……そうか、話していたのはルーナだな?。ならば身体を休めるところまで案内を頼みたい」
ガイードの言葉からルーナとガイードは信頼関係が十分にある者同士だと認識するドワーフ。ワグムは対等の関係であると推測した。
だがその関係性よりも今視ている魔力が示している事実の方が彼らには重要だった。
「当然だ。ガイードとやら、あなたがキグンマイマイの討伐に最も貢献した者だろう?」
「ルーナのよるキグンマイマイの体内を削る魔法に、我らがやつを消滅させた攻撃を耐え切った。傷跡がそう言っていますね。ゼル並み……いえ、意志があることを考えるとそれ以上の性能と言ってもいいかもしれませんね」
二人の言葉にガイードはふんっと鼻を鳴らす。褒められたのは機嫌は悪くなかったが、自身と比較されているものが比較するに相応しくないモノだった。審美眼が間違えている、というのは見られる側からは侮辱に近しいのだ。
「ゼルと一緒にするな。あれは魔法は魔法でも別物だ。我の方が上でこそあるものの、本来の作り方を経ていたらその性能はひっくり返るであろう」
その言葉にコクリと頷くシュディーア。さっき見たゼルと、これまで見たことのあるゼルが見た目だけが同じだったのが気になっていたのだ。内包する魔力が桁違いであり、せいぜい災害を3体程度を相手取るくらいだと見抜いていた。
シュディーアの目算では、本来のゼルは10体は相手取れる性能を持っていた。
「本来のゼル。ドワルガ王国に封印されているモノですね。昔ルーナが使っているのを見たことありますが、先ほど見たゼルとは輝きがまるで違った。なるほど、それが原因ですか……」
目を閉じて納得するシュディーア。それを見てワグムはもしやとガイードへ疑問をぶつける。あり得ないことだと分かっていても、聞かずにはいられない。ドワーフの性だった。
「ガイードとやら、本来の作り方を知っているのか?」
「知らん。だがあれを作った時、我はルーナの目の前にいた。だから……その時既にルーナはルミナに近かったことは知っておる」
ガイードはどうでも良さそうに知っていることを話した。ガイードはルミナが無事でいることだけが信念と成っている。ゼルの作り方など知られたとしても、ルミナが危険に晒されるようなことはないという判断だった。
もしそれがルミナを危険に晒すなら話は変わるが、ゼルはそんな簡単に造れるような代物ではないということもガイードは知っている。だから話しても価値はないと踏んだのだ。
「純粋なルーナなら、ということか」
「さてな。……ところで案内はまだか?、走るのは不可能程度には消耗しておる。早く休ませてやりたいのだが」
「おおっと、すまなんだ。ジナガオ!、デルス!」
「「はっ」」
ワグムの後ろに控えていた二人が声を上げてワグムたちの前へと出る。ルミナの脇を支えるように持ち上げる。意識のないルミナを無断で移動させるならばガイードやゼルの超重量がかかるが、ルミナである誰かの意志さえあれば問題にはならない。
今回で言えばガイードがいるため問題にはならなかった。
「支えて連れて行ってやれ。場所は王城裏手にある小屋だ」
「……いいのですか?」
驚く二人にワグムはそれが当然だと態度で示す。
「元々ルーナの私室だ。魔力も満ち足りてるから回復も早かろうよ。全軍も帰還させよ。我とシュディーアは少しだけ話すことがある」
「「はっ」」
ドワーフの高位軍人が都市へと帰還していく。元々そう遠くはない距離だ、傷だらけで疲弊している彼らであっても十数分もあれば戻っていることだろう。
移動し始めた彼らを余所に、ワグムとシュディーアは動かずに佇む。まるで戦いの跡を見届けるかのように。
だが彼らの想いはそこにはなかった。
「神様と最も縁のあるドワーフが神様を忘れると思うか?」
「いいえ。つまりはこれも神様の思し召しというやつでしょう。我々が言うところでの、計画通りというものです」
神様と謁見したことさえある大英雄ルーナ。その存在が神を忘れるなどという事実をドワーフの頂点に君臨する二人は疑問に思ったのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる