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第十四章 王が住まう場所
決まった
しおりを挟む決まった。
というよりも埒が明かないので決めた。
母さんの動きがイレギュラーに感じるのは事情を知らないからだ。その点を鑑み初心貫徹、解術を優先にしよう。検討の結果をうむうむと自分に言い聞かせる。喜色満面で『即興で取り組むのもね。今なら練習用もいるよ』と呟く義兄に、慄いた。
・・・ある、ではなく、いるなんだ。
なんてこったい、公爵当主達を練習台に宛がう気だよ、この人。
ブレないよね。うん、頼もしいんだけど、だけどね・・・このままでいいのか? 我が家の情操教育。
平常運転の義兄を何とも微妙な気持ちで見やった。
先ず城内に散らばっていた護衛達を呼び戻し予定変更を告げる。
ライオネルは予想の範疇だったのか諦観の眼差しでただ頷く。義兄から行先を聞いたハイデさんとミリアは水を得た魚のような感じで了承した。哨戒メインで後を追ってもらう。彼らとは違い一人まごまごしていたダルに目が行く。顔に『折角侵入したのにまた出ていくのか?不満』と書いてあるよ? もちのろんろん。
でも・・・一つ大きな懸念が残った。
クレアが本当に王宮に巣食っていたら? 王族や貴族が洗脳されちゃってる可能性、ありありでしょ? その最悪を想像すると、かなりヤバい気がするなこの国。これって国の危機じゃね? ここは臣下としてお助けすべき? と心の中が、珍しく、騒めいた。
「もし王族がクレアに洗脳されていたらどうしましょう? お義兄様」
思わず口に出しちゃった。折角決めたのを覆しちゃいそうな発言だったと俺は項垂れる(心の中で)
その可能性がゼロでない限り、何某ら対策を講じなければならないのか。国家の一大事だと思うと頭が痛い。しかし正直な話、手が足りない今は関わりたくない。でも厄介ごとを見過ごすのは臣下としてどうだろう。なけなしの忠誠心・・・かどうかわからないが心が痛・・・まないな。・・・あれ?
「ふふ、どうもしないよ」
あっさり。ホント何のことはないって顔であっさりと切り捨てた。こっちが拍子抜けしたわ。
ちょっと謎の使命感に流されそうになっていたから、これには目から鱗がぽろぽろ。
え? いいの? 王族だよ? 未曽有の危機かも知れないのに・・・何もしなくていいんだ。ほっ。
「ふふ、彼らには優秀な専属や家臣もいるからね。私達が助け出す必要もないかな。それに・・・」
おお、ごもっとも。
だよね、だよね!
乗り気じゃなかった俺は義兄の意見に歓喜した。
俺達は今まで散々王族に仕えてきたんだ。あいつらは欲しがるばっかで碌なもんじゃなかった。それを思い出すとなけなしの忠誠心も痛まない。うん、元より痛くなかったけど。
我が護衛は狙ったかのように皆帝国人。当たり前だが反対意見は出ない。素晴らしきかな満場一致。
ただ、良い笑顔で言い切った義兄の、その視線の先にいたダルだけが青っ白い顔で固まってた。どうした? ライオネルは横目でちらちら盗み見。ジェフリーのニタァ~とダルを見つめる目は仄暗い。
え? 何この変な雰囲気。
皆の視線を一身に受けたダルは、圧に負けたかグググと強張った表情に笑みを張り付け「私で役に立てるのなら」と言っちゃった。そういえば洗脳を解く技術を持ってたっけ。
漢だ、漢だよ、ダルさんや。
惜しげもなく自分の能力を他国人相手に使えるとは。素晴らしい自己犠牲? 奉仕滅私? どっちでもいいや。うん、まあ頑張って。
成程。能力がバレるとこうやって搾取・・・ゴホン、いい様に便利あつか・・・有効活用されちゃうんだと真に理解した。ううむ。
またひとつ、賢くなったよ。
クレアの件は然るべき人に任せればいい。
だけど、母さんをこのまま放っておくのも何だかね、俺の勘を無視するのもね。ってことで一人お留守番を置くことにした。母さんの捜索はなしで様子見させるために。まだ探知くん二号が起動中ってこともあるけど、それよりも公爵側か帝国側か読めない母さんの所為だね。
公爵夫人とはいえずっと帝国で暮らしていた人だ。意外と王国が属国になるのに抵抗が無いかも知れない。いやむしろ、奨励しそう。魔力持ちに対して差別的で生き辛い国だもの。気持ちはわかる。
夫婦の問題に触れるのは気が引けるけど、二人はどうして別居してるの? 今回も一時的な滞在なのはわかっている。
幼いころ気がつけば帝国から戻って来なくなっていた。あの時は、哀愁漂う親父の背中を見たら気の毒すぎて問質すのが憚れた。幼心に枯れちゃわないか心配したのを覚えてる。
うん、まずは親父からよーく事情を聞くのが、妥当だな。
・・・思い出すとね、どっちだろうって疑問に思うわけ。
もし、王族の誰か若しくは協力者と手を組んでいたらと思うと迂闊な行動は避けたい。俺達死亡者扱いだもの、バレるのはねえ。先ずは事情を知っていそうな親父に確認してからだ。
積極的な捜索はせず、動向を伺い情報を得るのが目的となる。いざという時も隠密に適した能力を持つジェフリーであれば多少の不安は否めないがやってくれると信じたい。
当人は今にも死にそうな顔で『一人ぼっちぃ~、置いてかれるぅ~』と燥いでる。・・・楽しそうだな。
方向性が決まれば後は早い。
肝心な時に公爵家の私兵が使えないのは痛い。彼らは当主の許可なくしては動けないのだ。まあ、仕方ないね。
呪いの手紙と探知くん二号を押し付けられたジェフリーは、何時まで経ってもブチブチと煩い。一号くんは故障じゃないけど魔力切れで動かない。義兄にしてみれば一号くんの方が魔量は多かったと、めちゃくちゃ気になってる。未練たっぷりで一号を片付けていた姿が新鮮だった。
・・・二人似た者主従だよね?
護衛が少なくて、ちょっと心許ないなーって思ってたら、義兄がここぞとばかりに攻防用魔道具を持たせてくれた。おおー。
「レティ、痺れ、ではないが相手の動きを止める効果を期待できるよ」
「え? 指輪?」
白っぽい石が嵌った指輪を渡され中指に嵌めて魔力を流してごらんと言われた。
よくわからないが言われたように魔力を指輪の石に流れるように意識すれば、石の色が変わった。
うわお、これ魔石だ~。
「ふぉお! お義兄様! 色が変わりました! あ、光ってる!」
「ふふ、形状変化の魔道具だよ。もう少し魔力を流してみて。形が変わるから」
おおおおーーー! 豆電球ぽい! わはは、何これ。
形状変化できる魔石? ああ魔合石ね。
おおっ! これぞ魔女っ娘アイテム!
もうワクワクが止まらない。わはは。
・・・うふふ、試しに。
早速、魔石に魔力を流して形状変化を試す。形も魔力効果も付与済みなので単に魔力を流すだけでいいそうだ。めちゃくちゃ楽ちん。
「お嬢様~、間違っても魔力吸っちゃわないでくださいね~」
揶揄われた。でもやっちゃいそうなので言い返さない。
「念じると杖の先から魔力が出るよ。相手に当たれば状態異常を引き起こす。と言っても魔力酔いに似た状態になるだけで殺傷性は低いよ。ああ、でも出力を上げれば殺やれなくはないかな?」
な、なんと、魔力酔い!
・・・いや、今何か怖いこと言った? ま、まあいいや。
これ、泥酔したかのようにグデングデンになる。立つことも喋ることもできずにぶっ倒れる。痺れはないが動きを封じるに充分だって。確かにスタンガンとは違うけれど、十二分に効果は足りる代物ではなかろうか。ひゃほー!
調子に乗ってぶんぶん杖を振り回すと先から出る魔力が淡い光を浴びて、幻想的。うむ、エフェクト効果ばっちし!
・・・ふおー、魔女っ娘! のほほほー。
ただ一つ気になるのは、ちょっと鞭を振り回す危ない少女に見えなくないってことかな?
ーーーーーーーーーーーー
時を同じくして。
王族の一人に呼び出されたカレンシアと、その彼女に付き従うマリアの前によく知る相手が現れた。呼び出し人とは違う。その人物に動向を請われたが、当然強制だ。
カレンシア達も秘密裏に動く身の上。従うのが得策と判断した。
彼女にしてみれば思いがけない相手で戸惑いが強い。それにまるで人が変わったような雰囲気に押されもしていた。
「このまま貴方について行けばいいのかしら」
「ああ、そうだよカレンシア。君のお付きも一緒にね」
「・・・貴方少し見ない間にすっかり変わったわね。一体どうしたのかしら?」
「僕の母上が君に会うのを楽しみにしているよ。君も久しくお会いしていないだろ?」
「・・・・何を言っているの? 貴方のお母様は、もう何年も前に儚くなられたわ」
「はは、可笑しなことを言うねカレンシア。母上はご健在だよ。僕の前だから笑い話にできるけれど他の人の前では言わないように。不敬と罰せられるよ」
「・・・貴方・・・」
「カレンシア様・・・」
「マリア、黙って」
「さあ、母上が君を待っている。急ごう」
「どこに連れて行く気なの、ジオルド?」
「王が住まう神殿だ」
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