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第十四章 王が住まう場所
二人?
しおりを挟む「当主様と奥様は他三家の公爵ご夫婦と共に使節団の皆さまをお連れし、第二王子殿下の研究施設をご視察なさっておいでです。勿論、オルレアン様もご一緒です。ただしルベルシュターヘン公爵家は当主ではなくご子息夫妻がその役を担っていらっしゃいました」
探知くんの素晴らしさをドヤる前にダルとライオネルが掴んだ情報を報告してきた。何となくドヤァされた気がする。くぅ。
この場にダルがいるのは、昨日連絡が入った時に義兄が何か打診したみたい。内容を聞かされてない俺はまたもやハブられたわけだけど。合流が決まった以上好きに…大いに活躍してもらう予定なので、存分にタダ働きをしてもらおう。
ふふ、ダルのお陰で難航していた情報収集が捗ったから、昨日ハブられた件は根に持たないであげる。
成程、偽お祖父ちゃんも普通に参加してんだ。ライムフォードにバレてない?
・・・・・
・・・・
・・・ん?
あれれ、今の報告、おかしくね?
もしや、これはあかんやつでは?
内容に食い違いがある。ガセネタ掴まされた疑惑浮上しちゃったよぉ~。
これ、スパイにあるまじき・・・だよね? 場合によっては首ちょんぱだよ? 職場を首じゃなくて物理だからね? 義兄は何でもすっぱり斬れるくんを躊躇なく振りかざしてくるよ? カクシ刀だよ。かっこいいよ。
でも、ちょっと知り合いの首ちょんぱは軽くトラウマになるよ? 俺が。
ここは安寧のために。勿論、俺の。助け船?だそうか。
「あら、お母様は当日に急遽予定を変えられた可能性もございますわよ? 変更を知らされる宮仕えではなく貴人と会う機会のない下女辺りから得た情報でしたら齟齬があってもおかしくありませんわ。ねぇ、お義兄様もそう思いません?」
無論、デスる。
ドヤァされた仕返しじゃないよ? 探知くんの性能を信じてだよ?
貴人の予定を知らされるのは上級の宮仕え。中級は上級の指示があれば知りうる。下級以下は聞かされない。まぁ精々噂? ぐらいよ。情報収集に下級以下の噂話も偶には役に立つかもだけどねぇ。稀だよ稀。
「・・・・はぁ」
これ見よがしだよね、その溜息。
ほらほら、義兄がそんな溜息吐くから二人が身を強張らせちゃったじゃない。多分、いろんなところが縮み上がったんじゃないかな。かわいそー。
情報の齟齬を指摘されたら、そりゃ、緊張するよね。ひやひやだよね。ごめんよ。
一号の動きを知らない二人からしてみれば、クレーマな義兄にドッキドキだよね。心臓にナイフをぐっさり刺しにきた感じだもの。
「お嬢様? ・・・若君、一体お嬢様は何を」
事情を知らない彼らは俺達を交互に見比べる。戸惑う二人は困惑を隠せていない。
わかるよーわかる。俺達が何を持って確信してるかわかんないもんねー。でも、ごめんよー。ダルに探知くんの存在が知れるの、ますいわけ。あれってモロ軍好みでしょ? だから警戒してんの。
だって探知くん、伸びしろまだまだある子だからね。今はかくれんぼの鬼的な機能だけだけど、頑張れば潜伏した人を軽くキルぐらいはできそうでしょ? 親機も今はスノードームやってるけど、立体マップって需要多そう。
うん、まずいわ。
今更だけど義兄の才能、軍に取られるといろいろ(俺が)まずい。今でさえ目を付けられてるってのに。これは絶対回避しなきゃと心のメモに太字で大きく書き込んだ。
・・・ダメ、義兄はうちの子です。よそ様にはあげません。
ダルに気付かれないように注意しなきゃ。うん、机の上の親機はインテリア。スノードームだ。そういうことにしておこう。
「・・・・・レティ」
「はい。お義兄様何か?」
ふー、ダルに気付かれてないな。よしよし。
俺に声を掛けた義兄、頭を振る様は、何だろう。いろんなものを呑み込んだ感じだ。軽く息を吐いて二人を問う。
「行先は?」
「王都郊外に設えた第二王子殿下の研究施設だと伺っております。皆さま馬車に乗り込まれるお姿を確認いたしました」
んんん?!
「お母様もいらしたの? それは間違いなくて?」
「はい。奥方様をエスコートなさる当主様をしかと見届けました」
うーむ。ドッペルゲンガー的な?
王宮内を喝破してあろう母さんは、何者?
てんとう虫くんの足取りを未だスノードームは示してる・・・よね?
俺達の意を解したジェフリーがこそっと親機を確認し、顎を引いた。
・・・やっぱ王家の居住区に向かってる?
少し考える素振りを見せた義兄は一瞬きした後、「ああ」と腑に落ちた声で。
「成程、彼女でしたか。そういえば義母上預かりでした。ふふ、これは、貴方たちも騙されたとみると余程優秀なのでしょう。処分を免れたのも一理ありますね」
「え? 彼女って?」
誰だか見当もつかない俺と違って該当者に思い当たってるのは俺以外。
えー、また除け者・・・・ちえっ。
ライムフォードの帰国後、大がかりな人事異動があったという。可及的速やかに粛清が行われた。陛下が中心となって側妃の実家が加担したかと思ってたけど。どうも様子がおかしい。
今や王宮内を牛耳るのは第一側妃とよからぬ仲間達。国王派や中立派を左遷や閑職に追い込む勢いで、宮仕えの殆どが息の掛かった貴族だと言われている。特に王宮と貴族用の居住区は縁故採用。見かけない者が不用意に近づくと罰を与える徹底さ。
ちょーこわっ!
第一側妃ってこんなにも権力あったっけ?
それに手際が良すぎる。
恐らく侯爵と手を組んだ貴族がやり手なのだろう。
・・・・。
貴族用の居住区を利用する人って、他国の来賓だけじゃなく国内貴族もで。陛下に招待された貴族とか、寝る間も惜しんで働かされる貴族とか、ちょ、お城に泊まっちゃう?みたいな貴族とか。許可制だからね。お金を払えばセレブ体験できるの。
そんな居住区を手駒で占めたってことは、『寝首いつでも搔きますよ? うふふ』『いつでも毒を飲ませますよ? うふふ』なわけでしょ? 気にくわない奴はキルっちゃうぞって。わかる人にはビビる人事をやってのけたのだ。
職権乱用だよねー、酷くよねー?
親父達はお仕事枠で宿泊を強要されちゃってた。もう身柄を抑えられた気がして、探知くん意外に二人にも探らせていた。
とまあこんな状況でダルの精神干渉を駆使してゲットした情報を、正しいと思い込むのも無理はない。
・・・でも彼女って誰?
ダルは天井を凝視してて、ライオネルは胃を抑えてる。
え? ホントに二人どうしたの?
「あ~」
気まずい空気を間抜けな声が緩和させた。ナイスだ、ジェフリー。クッキーあげる。
でも皆の意識を向けさせのに何も言わない。ただギョロっと目を動かすだけ。クッキー返せよ。
・・・何したいの、こいつ? スルーしていいよね。
「レティ、他に何か聞きたいことはない? 例えば、城内で囁かれる噂・・・そうだね、王弟の話はどう?」
唐突に話題を振る義兄の行動も、黙ったまま目をパチクるジェフリーの奇行も、困る。
一体何を求められてるのだろうか。
うん、考えてもわかんないや。よし、ここは義兄に乗っかるのが一番正しい。そう、空気の読める俺はいつだって正しい。
当の義兄は話題を振っただけでそそくさと親機の置いてある机へと向かう。その姿を見てやはり自分の目で確認したかったのかと納得した。
ジェフリーに任せられない感じ?
ふふ、仕方ないな~お喋りはお嬢様の得意技だからね。ここは、数多のお茶会で鳴らしたお嬢様トークで場を持たせてあげる。
「そうねぇ~、何でもいいわ。知っていることがあれば聞かせて」
「またお嬢様勘違いしてますよ~」
あ~耳鳴りかな?
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