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第十四章 王が住まう場所
魔力探知くん一号・二号
しおりを挟む手元にある魔力探知機は二つ。
二つとも城内で起動させた。
魔力探知くん一号と二号。勝手に命名しちゃった。
えーネーミングセンスについての不評は一切受け付けません。
二号くんの役目はジオルド探索。
城内のどこかにあるといわれている王家専用の神殿。
城内を隈なく探った我が家の諜報員も。元第一王子ですら場所を知らない。ちょくちょく登城していたレティエルだって初めて聞いた。
王子も知らない王家専用って専属の看板掲げる意味ある? 誰得よ。
これはもう、あるある詐欺だよね?
そもそも祭事は中央神殿(本神殿ともいう)で執り行うのが決まりなわけで、国王と王妃の婚儀だって本神殿だ。だから、敢えて王家専用の神殿を設ける意義は何だろうって疑問を抱いちゃう。
・・・もしかして隠れ蓑的な?
そうだ、神殿って考えるから間違うのだ。そうじゃなくて…
ある一つの可能性に気が付いて義兄に聞いてもらおうと口を開く。
「お義兄様、本当に神殿なのかしら?」
「レティ? 何か気が付いたの?」
「はい。わたくしたち神殿と聞けば祈りの場を想像しますわ。でもそうではなくて、王家、いえ陛下がご使用になられる場所のことを神聖視したのではと、ふとそう思いましたの」
「ああ、成程。守護神の代理統治権を与えられたお方が人知れず利用する場所…それを王家専用の神殿と謳えばおいそれと無関係な者は近寄りはしない、か。ふふ、余程の秘密でもあるのかな?」
キラリンって怪しく義兄の瞳が怪しく光った?!
まあ、神殿の真偽はこの際おいておいて。
お城のどこかに閉じ込められてるってことで、先ずは居場所の特定だよね!
ふふ、さっそく二号くんの出動だー!
凄いね、一号のみならず二号も。これは大活躍の予感が! うははは。
それもこれも義兄の悪癖のお陰だよね!
何食わぬ顔で、ジオルドの魔力が籠った魔石をシレ~と二号に嵌め込む義兄に引いた。
当然の顔で人様の魔石をゴロゴロ所持してんだもん。一体どこで手に入れたのか。正当な方法でないことだけはわかる。
まー、その悪癖でジオルドの居場所がわかるのなら、良しとしよう。うん、結果良ければってやつだ。
でも、涼しい顔で二号をふぁっと飛ばした義兄の顔に、何の迷いも感じられないのは、最初からジオルドの捜索も視野に入れて魔道具を作ったんだろうね。今になって気付いたけど、完成品が魔力探知機だってのも納得できちゃう。
捕らわれのジオルドをすっかりうっかり脳内から消し去ってた俺とは違うね。
思えば偵察機の制作は現状無理なのは義兄にしてみれば明白なこと。でも事情を知らない俺を頭ごなしに否定することなく、うまい具合に指向を誘導してくれた。それもこれも義兄の頭の中にダルとの契約があったから、だと思う。
探知くんの活躍を期待して朗報を待つことにした。果報は寝て待てな気持ちでてんとう虫に見えなくもない子機を見送った。
健闘を祈る!
ーーーーー
「お義兄様、魔道具はどうです? 何か反応しています?」
ティーカップ片手に親機を真剣に眺める義兄に声を掛けた。
お嬢様はどこにいたって優雅にお茶を嗜む生き物だからね? 適宜にお茶しないといけない生き物だよってことで心を落ち着かせるハーブティーを頂いてます。温かさで身も心もほっとするね~。
そうそう、何事も余裕が大事。
おっ、本日のお茶請けクッキーは甘さ控えめな義兄好みのやつだ。
ここは文官が働く執務棟(陛下の住む主塔や王家の居住区からかなり離れた位置にある)の一室。
我が家と所縁のある貴族に用意してもらった潜伏用の部屋。普段は使われておらす、時折、宮仕えが息抜きに使う小部屋。まあ、仮眠とか密談だとか。人によってはこそっと逢瀬に使ったり。多目的。所謂、さぼり部屋だ。
本日貸し切り。覗いちゃダメだよ? いい、ちゃんと誤魔化してよね?
宮仕えのさぼり・・・多目的ルームは、今や俺達が占拠した。わはは。
了承を得て義兄の手にしていた親機をのぞき込む。さっきからじいーと眺めていたのが気になったのだ。
お~、スノードーム。
何度見てもスノードーム。
親機の形状が透明の円形、まんまスノードーム。ほらサンタさんや雪だるまが入ってる、あれ。
これ土台のついたガラス容器にしか見えない。でも、魔力を流して起動させれば魔力が中で泳いだように動き回る。
ドーム中で満ちた魔力が子機の経路を浮かび上がらせる。
それがまるで粉雪が舞う風景のようで、くるくる舞い散る白い輝きの粒に淡い朱の粒が軌道を描くが如し。とても幻想的だ。
・・・マップ機能がロマンチックすぎる件。
子機がテントウムシ型なのに親機がスノードームって。細かいことは気にしてはいけない。
見た目がガラス容器でショボくても。義兄が手に持つと何かのゲートを開きそうでも。
ひとたび作動すればロマンチック。エフェクト効果バッチシ。
つい、魅入っちゃう。
「・・・義母上は移動を続けているね。・・・これは誰かと一緒かな?」
「お父様とご一緒では? それにしてもどこに向かっているのかしら? 行先はわかります?」
「同行人は不明だけれど、そう…方向は王家の居住区? まさかねえ」
「お母様、王家のどなたかに呼ばれたのかしら?」
「どうかな・・・まだ歩行中だね。もう少し様子を見てみようか」
義兄は安心させるように微笑み、そして「そうだ」と二号の動きを確認した。
「ふむ、これは・・・」
「どうなさったのですか?」
こっちはエメラルドグリーンの粒がドームの中をぐるぐるしてる。ちなみに色が違うのは魔力の違い。火系統の母さんは朱色に。風と他の魔力を持つ複合型のジオルドはエメラルドグリーンに輝きをもつ。
「周回? ・・・これは感知できず彷徨っているのでしょうか・・・」
独り言のようみ呟く義兄もわからないのか。
「それって城内にいないってことかしら? でも、身柄は王族専用の神殿に預けられたのでしょ?」
やっぱ、あるある詐欺じゃ・・・
「これは恐らく、結界か隠ぺいの魔法術が施されていると考えれば感知できないのも頷けるかな」
「結界や隠ぺい? 隠ぺいしなければならない場所があるのですね」
どうやら詐欺じゃなかったみたい。でも隠ぺいって・・・怪しすぎ。
「こうなると魔法術を見破れる者でなければ見つけるのは難しいね」
「ですよね・・・」
手にしてた親機をテーブルの上に置き、二人して何とはなしに動きを見続ける。護衛として付いているジェフリーの、何か言いたげな視線がうざい。
意外なことに二号が向かった先は母さんと同じ。
そう、王家の居住区。
ドームが示す場所はこの部屋からは遠い。
これ、移動に根性いるかも。
遠くに移動する時こそ、あの、踏めば飛ぶ魔道具の出番だよね?
でも、あれ、反射神経が優れてないと使えない。身体強化と合わせ技をすればかなりの時短が可能なんだけどねえ。生粋のお嬢様であるレティエルには、ちいとハードルが高いな。
よし、封印だ封印。秘密の特訓してから解放ね。
無理はしない主義の俺は早々に諦めた。
それより母さんの動き、教えて。
まだ移動中。一体どこ目指してんの?
「王家の居住区だね」
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