転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
上 下
324 / 345
第十三章

ライムフォードー④

しおりを挟む

この男、喰えませんね。
腹の内を読ませないためか、こちらを王族と認識していないのか、中々失礼な態度です。
私の早合点? ですが叔父上を飼殺すとあれば、これはこれで困るのです。叔父上は何かと都合が良い人でしたので連れ去られると困ります。

「質問を言い換えます。陛下は却下されました。一度決した言葉をそう易々と覆すことはなさいません。ソアラード殿、貴方の目には臣下の説得に簡単に応じる陛下として映っておいでか」

「おお、これはこれは、殿下のお心を害してしまいましたか。申し訳ございません。言葉が足らず誤解を生じさせました。殿下、皇帝陛下は同国民が売られる事に大層お心を痛めていらっしゃます。帝国民を侮辱した行為と激怒なさって、帝国を仇名す国家の存在を見過ごすと? まさか。皇帝陛下は、先代王の血を引く王弟であらせられるの方の身柄一つ差し出せば、責任追及はしないと。勿論、の方のですので、くれぐれもご処置なさらぬようお願い致します。‥‥これほどのご温情を無下になどなさいませんね、殿下」

くっ、先程から私を若造だの甘いだのと見下してますね。


彼の話を聞いた母上、白粉のお顔が真っ青ですよ。それはそうでしょうね。
言外に叔父上に子を作らせると言ってるのです。それは将来的に脅威となり得ると母上達は思うでしょう。それはいつの未来か、王位継承を求め争いの種になると危惧なさっておいです。


「密使殿、それはジオルドを差し出さねば戦火の幕を切ると仰せか? まさかそのような暴挙がまかり通るとでも?」

辛うじて平静さを装った母上。多分、頭の中で怨嗟を吐き罵っておられますね。息子にはわかりますよ。

「いえ、我が皇帝陛下もそれはお望みではございません。聡明な側妃様でしたら、何が一番得策かお判りでいらっしゃる。私が今日この場に赴きましたのも賢明なご判断を下されるにお会いしとうございまして、公爵方々にご無理を通したのです。たったお一人の身で済む話ではございませんか。考えるまでもございません。弟君を守るために国難を招くのは愚策。貴族達の賛同も得られないでしょう。ですが、我等の望みを帝国人の売買に関して咎めは致しません。宜しでしょうか。拉致被害に対して責任追及はしないと譲歩しているのです。説得に応じた方が王国の利になるかと思いますが如何でしょう」

公爵達は母上を持ち上げて‥‥嫌な予感がします。

未来の火種の素を差し出すのか‥‥単なる先送りでしかない平穏を甘受するか、恩情を無下にし国に賠償問題を背負わせた挙げ句、戦に持ち込むと脅された。

恐らく、公爵と帝国は繋がっています。彼が帝国に良い顔をしたいのも頷けます。
はあ、皇帝は私だけではなく王国の重鎮にまで触手を伸ばしましたか。
あの手この手と、嫌らしい執着を感じます。なのに、表立って動かないのは帝国も内政に手を焼いているからでしょう。一番の脅威は、王国が国境線と面する四国のうち、どれと手を結ばれても困るからでしょうか。壁は壁役のままで終わらせたいはずです。

さて、ザックバイヤーグラヤスはこの裏切りを知っておいでか。







母上も落ち着いたのか顔色も戻り私達の遣り取りに耳を傾けていましたが、表情を見るからに引き渡しに賛成なのですね。責任追及なしと聞けば、特におじい様は心を擽られたのでしょう。

「話はわかりました。ですが、ジオルドは陛下ただお一人の弟君。そうそう気持ちが追い付かないのでしょう。密使殿、できましたら暫しご猶予を頂けないでしょうか。必ずや陛下をご説得致します故。それと使節団の方々にもこの件は取り上げなさらぬよう密使殿にご説明をお願いできませぬか」

幽閉された叔父上の下に父上が足を運ぶことはないとみて、手を打とうとお考えなのでしょうか。

「ご説得頂けるのなら少々の猶予、容易いことです。使節団には私から説明致しますのでご安心下さい」
「流石は側妃様。頼りになりますな。では我等も陛下のご説得に尽力致しましょうぞ」


ああ、まったくの茶番です。

清廉な空気を求め、ローデリアと美味しい焼き菓子を口にしたいですね。








陛下が母上の言葉に耳を傾けるとは思えません。
父上が叔父上を引き渡さない理由は、肉親だからではないのです。父上に情があるとは思えません。仲もお世辞にも良いとはいえませんし。他の理由でしょう。そう言われた方がしっくりします。

そうなるとその理由ですね。帝国は魔力欲しさ、まあ妥当な話です。叔父上ほどの魔量なら種馬としても、王位継承を要求させる道具にも、充分魅力的に見えたのでしょう。ですが、犯罪者なら充填用が妥当か。
アガサフォードでは使えない使い道を叔父上に見出しましたか。はあ、面倒この上ありません。

それにしても叔父上、母上やおじい様ならまだわかりますがルベルシュターヘン公爵にまで見捨てられたのですか。ああ、いえ違いますね。同じ公爵位にも拘らず叔父上は爪弾きにされていました。

帝国に狙われている現状を父上はどうお考えなのでしょう。
この面会も私の口から父上に漏れることはないと踏んだのですね。私も彼等の手の上だと思われているのでしょう。

好都合です。

しおりを挟む

処理中です...