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第十三章

親子三人・第一側妃視点ー1

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時期的に親子三人のお茶会は帝国使節団の入国前になります。

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「ふふ、二人とももう直ぐです。陛下も漸くお認めになられました」
母上第一側妃。おめでとうございます」
お母様第一側妃、おめでとうございます」

人払いを済ませた自室に招いた息子と娘。他人の邪魔なく耳目も気にせず語り合えると思うと自然と気が緩む。長きに渡り待ちわびた吉報。ゆるゆると口角が上がるのを止められないでいた。



屈辱を与えられ苦しかった。
長かった。辛かった。
想いを馳せるは汚辱に身を浸らせながらも歯を食いしばり耐え忍んだ過去。約束された輝ける栄光への道を歩んでいると夢見た少女の頃。

且つて側妃は、王太子現陛下の婚約内定者であった。そこには確約された未来があった。数多の女性から羨望の眼差しを受け、次代の王妃として王の隣に侍る自分の姿が確かにあった。あった…はずなのに。欲した栄光を手にする前に格下の女王妃に搔っ攫われた。



二人からの祝いの言葉。

「母は嬉しく思います。陛下はわたくしが相応しいとお選びになりました。主幹家臣も賛同を得ています。ふふ、漸く正しい道に戻るのです。本来あるべき姿に王国は戻るのです」



夢破られて、惨めだった。
侯爵家の娘と生まれたことで将来の王妃への道が示された。他はないと。
王子現陛下と年の近い異性で上位者が侯爵家第一側妃。筆頭婚約者候補に定められた。王妃と成るべくして生まれたと。誕生とともに与えられた義務。
そこに当事者の意志はない。

苦しめられた且つての記憶。
未だに『そうあらねばならないと』縛りつける。
皆の期待が呪縛となり苦しめる。


我が子には日の当たる道を歩んで欲しい。

「次は貴方ですよライムフォード。王太子の指名は必ずやされるでしょう」




正妃の子は、次代の王。そうあらねばならない。
側妃の子はただのスペア。
どれだけ有能であっても所詮は正妃の子の補佐役。
我が子より落ちる愚の王子。
生まれが正妃胎だからだと、そうあらねばならないと。
我が子は誰よりも優れているのに。
立場が邪魔をする。立場が後押しをする。
だから邪魔をした。



「はい、母上。王太子となれば皆の期待に応えたいと思います」
「お兄様。おめでとうございます」
「ああ、ありがとうローデリア第一王女お前も婚約おめでとう」
「ありがとうございます。お兄様」
「まさかエリックとの婚約を承諾するとは思わず、耳にした時は驚きました」

根回しもなく急遽、決まったのが気に食わないのか。笑顔の瞳が笑っていない。

「‥‥もう、後がございませんもの。それにヴァンダイグフ家は陞爵しますわ。他国に嫁いで慣れない生活を強いられるよりもお母様やお兄様の下で、お役に立ちたいと思いましたの。ふふ、わたくしはお役に立ちましたかしら」

クスリと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、自分の存在価値を仄めかす娘の姿に過去の自分が重なった。


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