転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
上 下
292 / 361
第十二章 分水嶺

⑫・エリックー1

しおりを挟む

「ねえ、先王の子で生き残った人がいたわ。エリックよ!」

忘れてない? ねぇねぇ? ねぇねぇ?
自分はすっかり忘れていたのを棚に上げて思い出せてない義兄に対しドヤァした。
お節介な背後から「お嬢様~絶対今の今まで忘れてたでしょ?」と人の心を読むんじゃありません。


それまで魔法術談義に花を咲かせてた二人は虚を突かれたからか揃いも揃ってキョトン顔で、俺を見る。目が合ったお祖父ちゃんは、にんまり。そりゃもう満面の笑み…強面だからとっても怖い、を浮かべ。

「ティや、皇帝陛下の外戚である儂の孫を利用しようとした悪党を、じいじがしっかり成敗してやるで安心せい。きっちりタマ取ったるで。待っておれ」
「は?!」

ちょっ、ちょっ、ザクワン爺ちゃん! 何で氷の刃をシャーシャー研いでんの?!








‥‥はぁ‥‥思ってたんと何か違う。

でもまあ、俺を監禁した奴だし、いっか。物理でお祖父ちゃんの正義の鉄槌が下されるわけだ。うむ、天誅でござる。

お祖父ちゃんの言い方だと、エリックのギルティは深い。俺の予想に反して深かった。今まで奴を野放しにしていたのはクレアと‥‥その背後を調べるために泳がせていたそうだ。
忘れてたわけじゃなかった。
それに対し義兄は「エリックの処遇は主君である義父上が決めること」声色に滲ませた諦念が耳に残る。てっきり義兄のことだから、幸せの絶頂から奈落に叩き落とす絶妙なタイミングを狙って今は静観しているのかと思ってた。意外と真面目な理由だったね。

親父の部下だけどレティエルに存在を明かされることなく仕えていたエリック。邸に使える侍従でも騎士の誓いを立てた正式な騎士団の者とも違う。それは日陰に生きることを余儀なくされた者の証でもある。公爵家のために生死を賭けると強いられた男に表舞台に立つ夢を、誰が見せたのだろうか。

‥‥何を夢見た?

奴は忌み子というハンデを乗り越え伯爵家の養子となり王女の結婚相手に選ばれた。公爵家を裏切りのうのうと‥‥ちょっと思い出すと腹が立つ。

そう、これからあの男は甘い甘い至福の一時を思う存分堪能できる新婚さんへの道を歩むのだ。くうぅ羨ましくないぞ、ないけど‥‥。
ふん、そのうち地獄に‥‥蟻地獄に足を取られたみたいにズルズル引き摺り込まれて赤鬼さん青鬼さんに、新婚さん、いらっしゃぁ~い、って歓迎されればいいと思います。


「っ、確か第一王女はまだ十四歳のはずよ。エリックっていい大人でしょ? 少女を娶ろうだなんてサイテーな奴ね。今頃鼻の下伸ばしちゃってデヘデロって顔してるのよ。ロリコンかよ」
「‥‥でへでろ? ろり…こん?」
「ぬおぉう、ティは年の差が嫌なんか?」
「‥‥ぷ。鼻の下って。確かに十も離れた少女とだなんて性癖疑いますよね~」

あ、心の声が駄々洩れでした。てへっ。

あと、どうでもいいけどジェフリーに向ってひゅんひゅん飛んでいく氷のつぶてがめっちゃ気になる。どこに隠し持ってたのザクワン爺ちゃん。







「エリックのように人知れず養育された者は他にもいるかも知れませんね。公式記録も、好い様に改竄しているのでしょう」

‥‥スゴイよね二人とも。ザクワン爺ちゃんをものともしてないわ。
慣れ? 慣れなのソレ?
何事もない感じで義兄はヴォルグフの契約書を取り出し、契約主の名を指差す。

「ランチェスター・グスターファルバ―グ」

記載された名は王族を表しているとお祖父ちゃんが断定した理由に驚かされた。
帝国もだが王国も出生時に名と共に血判を押して登録する。これは大体どこの国でも同じだそうだ。
原理は知らないけど生体認証?的な識別方法を利用することで身元偽証を防ぐってわけ。

血判で個人認定って、ちょっとDNA鑑定っぽいよね? 

特に王族や公爵位は傍系婚姻を繰り返し血が濃い。
中でも王国は特殊で王族や公爵の血統を重視し、純血を尊ぶ思想が根強い。過去には直系婚姻を繰り返した王朝王家があったほどだ。

「それはのう、特殊魔力を囲う目的もあったと思うぞ? とはいえ王国の場合はどちらかというと神の御使いに選ばれた者の血を尊んだ、宗教色が強いかのう? 異文化はようわからん」

とちょっと投げやり。

要は王族の名は王族の血が流れていないと使えないってこと。紐づきなわけ。これは帝国も同じ。ご落胤や末裔を語る不届き者を選定するに適したシステムとして利用されてる。
わぉ、DNA鑑定も真っ青。

何と、この世界では血中に含まれる魔力で個人を識別。誤差率0%、完全一致だって。ビックリ。科学が進んでなくても魔法術が可能にした。驚嘆だよ。

『血は媒体だから』と謎な発言の義兄。めっちゃ意味深でブキミです。ああ、そういえば魔道具作製に血液使うとか、マッドなサイエンティスト様でしたわ。



ちょっと横道に逸れちゃった。

お祖父ちゃん達の見解は、国際社会で禁止されている禁術を王国は使用で一致。(血の盟約や隷属などの契約魔法)それには神殿も噛んでいる。

義兄はこれだけで現国王陛下を退陣に追い込めるとほくそ笑む。よっぽど嫌いなのか嬉々として「確実な証拠を揃えましょうか」と追撃の構えを俺達に見せた。

おお~めっちゃ頼もしい。頭の中でパチパチ拍手喝采しちゃう。そんなにやる気に満ち溢れてるのならお任せします。邪魔しません。

背後の何かが、また人の心を読みやがった「はぁ人事じゃありませんって。お嬢様のご協力が必要ですからね」何かほざいておる。うむ、悪霊よ退散したまえ。


お祖父ちゃんも義兄も禁術の多用を示唆する。大きなものでは得体の知れない防衛システムではないかと睨んでる。手の者を送り込みいろいろ探らせてはいるが全く手掛かりが掴めないと歯痒さを滲ませている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...