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第十二章 分水嶺
⑨・語るじいじー1
しおりを挟む―――レティに、いいえ、ザックバイヤーグラヤス公爵家に恥を雪ぐ機会をお与えください
キリッと決め顔の義兄。うん、不覚にもカッコいいと思っちゃいました。
でもね、そこに何で俺を入れるかな? 納得いかないんですけど。
めっちゃいい感じにいいましたって雰囲気の中、何の話とかやだとか言っちゃてぶち壊せないでしょ?
取り敢えず納得いかなくても相変わらず事前の相談も説明もない扱いに不満を覚えても、話を進めることを優先しよう。決して義兄にビビったんじゃないよ? ほら、物事を円滑にするために敢て、あ・え・て、口を噤んだんだよ?
ピンと張り詰めた緊張感に居心地の悪さを覚える俺に、探るような目を向けられて一層身の置き所のなさを感じる。どういう手段で恥を雪ぐ気なのか知らないけど話の流れ的に、元軍人のお祖父ちゃんに宣言かますのだ、当たって欲しくないけど血生臭い方法で、なことぐらい察しが付く。
‥‥でも、恥を雪ぐ許可を得ないといけないって、我が家は何をやらかしたの?!
「そうか‥‥」
硬質な声色の義兄に対し答えたお祖父ちゃんの声は、意外にも張り詰めた糸が切れた力のないものだった。
「あの時に儂が‥‥落し前を着けておくべきじゃった」
そう呟いたお祖父ちゃんの顔には後悔の念がありありと浮かぶ、初めて見せる顔だ。
遠い目で思い出してるのだろうか。
‥‥ん? 落とし前? 変なこと言いだしたよ?
「儂らだけでも乗り込んで先王の首を盗るべきじゃった」
は?! サラッと物騒な発言?!
ちょ、ごめん。マジで話が見えない。
先王って今の王様の父親のことだよね? どうしてそんな人が恥を雪ぐことに関係あるの? 話が見えなくて座り心地が悪い。カッコつけた義兄も、以下同文。
「この話はシアもアドルフも知らぬ。前公爵当主と儂らの取り決めで伝えなんだ。じゃが儂の判断は間違えておったのかもなぁ」
シュンと意気消沈してる。
何か知らないけど後悔の気持ちは伝わってるよ? ゆっくりとした語り口調で当時の出来事をとつとつと。誤魔化さないで俺達に向き合ってくれるのがわかる。そういう姿勢に好感が持てる。それに貴族っぽくなくてお腹ん中で笑っちゃう。お祖父ちゃん基本イイ人だもの。怒ると大魔神だけど。
「まだ先王が存命でのう。シアとアドルフの婚約の許可を得るための謁見で王がシアを見初めたんじゃ。見目麗しい高魔力持ち、皇族の血が流れる高貴な出自のシアに目をつけた審美眼は褒めてやろうが、それ以外がいかん。好色爺が自分の愛妾にと望みよった」
「うわ‥‥キモ!」
鳥肌もんの気色悪さに素で答えてしまった。
でも誰も気に留めてない、セーフ!
両腕をサスサスしながら続きを待つ。
「大国の皇族が親族だというに幾ら王とて国力が下の小国風情がトチ狂いおって。まぁ非公式の場で王が前当主、ティの祖父に耳打ちしただけじゃが‥‥。どこぞの馬鹿が聞きつけたのか王が請うたのか、それは終ぞわからぬままじゃが、意を汲もうとした家臣がいたらしい。じゃが渦中の王が急死したもんで有耶無耶になったがのう。シア達も王の訃報じゃ、直ぐに婚約の許可が下りなんだのを怪しまんかったわい。前当主も隠しておったしのう。まあ、儂が知ったのは偶々じゃがな。前当主に詰め寄れば謝罪しよった。腹立たしかったが正式な打診もなくホンの一部の者しか知らんよって儂も口を噤んだ」
それにと浮かない顔で。
「手練手管かは知らんが交易をファーレン家の有利にしよった。それにアドルフの優秀さも知っておったし。儂は貴族の矜持よりも利益を選んだんじゃ」
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