転生先は小説の‥…。

kei

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第十二章 分水嶺

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公爵当主達の契約魔法は生死に関わるから当主は陛下を裏切れないと伝えるに留めた。実際それしか判らないし。『レティエルであれば解術可能』は臥せた。

‥‥球体みたいな変異魔力じゃなければ簡単に解けると思う。球体は時間を掛ければいけるはず。ヴォルグフ達で練習する前に回収されちゃったのは惜しかったなぁ。貴重な実験体だったのに。あ~あ。

思考がすっかり義兄に染まった自覚のない俺は手放した被検体を惜しんでいた。術を解いた後の影響が不明なため今回は手放したが、挑戦したい気持ちは捨ててない。
‥‥はぁ、貴重なサンプル、勿体なかったなぁ。

「道連れとは!」

忌々しいと吐き捨てられた言葉にハッとした。
あ、話の途中!

「レティ? 疲れたのかい?」

あ、やっべ、違うこと考えてた。
ぼへーと余計な事を考えてたせいで義兄に疲れたからと勘違いされた。

「もう眠いのなら続きは明日にしようか?」


本日終了と宣言されそうになって、慌てて「お父様のことを思っただけですの」およよよとハンカチで涙を拭うフリで俯いた。二人+爺様のしんみり感が、ちょっとだけ居た堪れない。およよよ。
後ろに立つジェフリーが、ハンッと鼻で笑ったのを聞き逃さない。よし、後で横腹を突こう。





お祖父ちゃんも公爵達が反対派に回ると協力者の計画は、破綻か良くて大きく後退、最悪は戦争になると気付いたのだろう。今更‥‥いや違う。今知れたからこそ計画を見直す時間が設けられたのだ。そうは言ってもお祖父ちゃんの複雑な心境は変わらないか。
公爵達が先頭に立ち一丸となれば貴族達は抗戦を強いられる。そうなれば国土は焦土と化す。嫌な予想が脳裏に過る。



はぁ、と幸せが走って逃げだしそうな溜息を吐くお祖父ちゃん。表情に浮かぶ疲労は予想される展開を憂いてか。

「儂の話を聞けばもう逃げることは許されんぞ? 良いのか?」

あ、違った。

対峙したお祖父ちゃんの顔からは疲労は消え勇ましい。まさに武人の顔だ。強い視線に晒された俺は自然と背筋が伸びた。

あ、これマジなやつ。おふざけはダメなやつだ。

お尻を引き締め姿勢を正した俺に、もう一度、静かだが重みのある言葉で、

「儂は密命を受けておる。軍部の作戦とは別もんじゃ。お主らがそれを知るともう逃げ出すことは叶わん。儂の手下として動いてもらわんとお主らを処罰せんといかぬのじゃ。どうだ、手を引くなら今じゃぞ?」

どこまでも優しさを含んだ言葉。孫を危険な目に合わせたくない切なさが伝わってくる。

「…お祖父様‥‥」
「‥‥お義祖父様、もう夜が更けてきたことですし、続きは明日にしませんか?」

能面みたいに表情を失くした義兄が就寝を促してきた。そりゃもうあからさまに。
あ、これ俺をハブる気だな。勘が良いからね、ピンときたわ。

「おお、そうじゃのう。夜更かしはお肌に悪いと、ばあばがよう言うておったわい。ティよ、今宵はゆっくりと休むが良いぞ」

白々しい。このままお休みなさいに持って行く気だ。
ムム、そうはさせない。恐らく今夜を逃すと密命の話はしないよね。間違いなく。



無理強いしないのは、きっと試してるのだと思う。
強いられるのと自発的とではパフォーマンスが違ってくる。精神論云々以前にやる気はないよりあった方がいい。自己満足って大事だよ? それに言われたからやるのと率先してやるのとでは受ける印象が全く違う。

本当に本気で属国に動くのであれば、わざわざ俺達に明かしたりしない。内緒にしたまま俺達を帝国に連れて行き、その後計画を実行するでしょ? こんなメンドウクサイ手を使う必要はないもの。

なのに面倒でも手を回して。
それを思えば、何らかの意図があると考えた方がいい。
やってることは遠回しだけど。
何かをさせたいんだよね? 
まさかこんな夜更けにうんうんと頭を捻る羽目になるとは。

‥‥あー、お祖父ちゃんは受け身姿勢って嫌いだったわ。

実力誇示派が占めるファーレン家。あの家と養子を組むのなら避けて通れないイニシエーションを侮ってたかも。
うん、わかるよニブチンの俺でもね、今が国盗りの好機だってことぐらい。
率先して、結果を示せってことでしょ? 
義兄は知ってたから話を中断させようとしたの?

黙って俺の様子を見守るお祖父ちゃん達の視線。
その視線、問題を解く子供に向けるソレだよ?

えっ? まさかの俺待ち?!



じぃ~と、そりゃもう、恨みがましく、じぃ~と。
話を切り上げようとした義兄をじいーと見つめれば、軽く髪を掻き『はぁ~』と艶のある溜息を吐く。一々仕草に色気を魅せないで欲しい。目に毒だ。


「レティ、本当に話を続けるの? 無理してない? 眠いの我慢してない?」



オカンかよ。

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