転生先は小説の‥…。

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第十二章 分水嶺

①・どうでもいい報告

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一同を介した会合は大まかな来訪の説明の後、何故か護衛達は報告と称しながらお祖父ちゃんの強さの秘訣講義に目を輝かせ、気が付けば胸熱な筋肉談義に変貌していた。皆の暑苦しい熱意で室内の温度が五℃は上がったよ。ヤレヤレと眺めていると、当然の流れなの? 話だけでは物足りないと誰も異を唱えることなく一連の筋肉愛好者たちは肩を並べ訓練場へと、意気揚々で駆けて行った。こら、護衛対象を置いて行くなー。

彼等が喜ぶのも無理はない、お祖父ちゃんは武神と誉れ高い帝国の英雄の一人だからね。まあ好きなだけのされたらいいんじゃない? 好んで痛い目に遭いたい特殊性癖の彼等の邪魔をする気はないよ? 数少ない娯楽だもん精々存分に痛めつけて貰い給え。俺は御免だけど。

生暖かい目で彼等を送り出せば室内の温度が一気に10℃は下がったかな? ヒンヤリしてきたなぁ~と思えば今度はダルとギルガが、鶏を追いかける勢いのザクワン爺ちゃんに追い立てられどこかへ消えた。余りの勢いに呆気にとらたが静寂が訪れたのだ、良しとしよう。

伯父さん、氷らせるの得意なんです~の言葉が宙に舞う。



「時間がありませんね。レティは私の手伝いをお願いできるかな? お前は調合に適した部屋を準備しなさい。リー坊。ククク」
「ぷふぁっ」


お祖父ちゃんの孫会いたさでやって来た…は無理のある言い訳だ。まあ、あの性格ならありありかな? と思わなくもないが義兄は鵜呑みにしない、必ず疑う性質たちの人だ。お茶を嗜む合間にちょいちょいザクワン爺ちゃんと腹の探り合いをしてたっけ。
あっ、因みにリー坊はお祖父ちゃんの姿を見た瞬間、元の姿に戻り『死にたくないです』と本音を漏らしていた。いつもの飄々さが消え青褪めた顔に新鮮さを覚えたわ。あれ、トラウマだよね?



‥‥まぁ、クリスフォードの顔だもんねー。お祖父ちゃんまだ怒ってると思うから元の顔にして正解だわ。

グッジョブ! リー坊。この部屋が殺人現場にならず、マジで良かった!




『お義祖父様がこの邸にいらっしゃるうちに』これ幸いと調合を始めた義兄。案の定、説明のないまま『後で必ず必要になる』と嗜虐的な笑みで魔石を溶かし始めてる。
おー、魔石って溶けるんだ! 初めて見た調合の不思議さに目を輝かせ前のめりで手順の説明を聞いた。うむ、満足じゃ。

爺ちゃん二人に翻弄されたけど、皆それなりに満足したから好しとするか。気持ちを切り替えた俺達はお祖父ちゃんの目的が何か推察を始めた。

中途半端で終わったどうでもいい報告ジオルドの近況悪い報告公爵領の今の話がお祖父ちゃんの突撃お宅訪問の目的に関わるだろうと、不穏な物言いで俺の好奇心を煽りに懸かった義兄。薄ら浮かべた嗜虐的な笑みは‥‥誰に対してだろうか。ちょっと肝が冷えたわ。


ジオルドに関してはホンの僅だが恩義を感じている。事情はどうあれ公爵家の部下であるライラを保護してくれたし、その縁でダルが協力してくれている。うん、ジオルドのためって言うよりダルのため。彼が助けを求めたからかな? 帝国人のダルがジオルドを助けたいのって実姉を救ってもらった恩義からでしょ? 姉想い‥‥一瞬『シスコン』のワードが脳裏を霞めたが、慌てて打ち消す。家族思いの人かとほっこりな気持ちで、誰に聞かすとはなく呟いた。‥‥ら何とも言えない微笑を返された。えっ何?


「お嬢様、ご存じない?」
「自然の流れに任せましょう。美談は一部の現実を隠すからこそ美談です」

二人の小声は俺の耳にまで届かなかった。



王城に秘密の神殿って初耳。王族専用らしい。そんな場所が王城のどこにあるのか。候補としては複数ある離宮の敷地内と城内の立ち入り禁止区域。どちらかだろう。

「レティは聞いたことある?」
「…‥噂程度よ。場所は知らないの」


何度も訪れたお城。そんな場所あったっけ? 記憶を探るうちに不意に思い浮かんだ過去の出来事。あれはいつだっけ? 拗ねたクリスフォードをからかって…もとい、慰めた時だった。
『父上と母上しか入れない部屋に僕は入っちゃダメって。子供でもダメだって母上に叱られた』
その時は寝室の話かと碌に取り合わなかった。でも、子供と言えど寝室の区別ぐらいはついたわ。もしかして、その部屋が?


「お義兄様、彼、クリスフォードの野郎が知っているかもですわ! 覚えていたらの話ですが」
「それは本当かいレティ?」
「うわー、まさかこんなところお嬢様に手掛かりが?」


物言いの失礼なリー坊は、躾直しをされた。ピシッピシッって。あーいいねそれ。腕輪から放電したみたいに鞭がピシッピシッしなってるの。俺も欲しい。



それにしてもジオルドの収監先、おかしくない? 

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