248 / 361
第十一章 帝国(お祖父ちゃん)の逆襲
お祖父ちゃんの部下ー①
しおりを挟む強張った表情が、張り詰めた空気が、義兄の緊張を教えてくれる。
いつもの嘘くさい笑みも、感情を読み取らせない彫刻のような微笑みも、対峙した相手が震撼する悪魔の笑みも、今は鳴りを潜め大人しい。それほど言い難い話なのか。聞かされる俺も身構えて余計に力が籠る。
『この事件の背景は未だ調査中』と俺に断りを入れるも、話を切り出す前にジェフリーがガザと共に戻って来た。ここで義兄の話は終わりらしい。
ここから先の報告はガザが請け負う。聞けば、義兄も知らされていない内容。ガザは二人同時に伝えるようお祖父ちゃんから命令されたそうだ。あっ、この時点でジェフリーはお払い箱ね。ごくろーさん。
その前にお茶を入れ直し(もち、義兄が)ガザにもお茶を進める。
これから、話の主導権はガザに移るのだ、お茶ぐらい飲ませてあげるよ? だって、喉乾くでしょ?
コクリとお茶を味わうガザは、昨夜までの影の薄さが嘘のように今は存在感を全面に出している。どうみても下働きの男に見えない。威厳のある風情は一介の武人だ。今までの姿は偽装なわけね。
…‥凄いな、まるっきし別人だよね? ここまで変わるのか。
俺は諜報員の演技力を舐めてた。これじゃあ、騙されても仕方ないよね…。
ガザはお祖父ちゃんの文書を俺達に見せる。この書がガザの証明となるらしい。食い入るように見つめる義兄の様子で、本物だと実感できた。
『私の話の後でギルガを召喚なされば話に深みがでますよ?』サラリとバラされたギルガの立場。こいつも寄越された側だったか。
まぁね、ギルガとヴォグルフは兄弟と聞かされた時点で薄々気づいてたよ?
だけど、一言ぐらい教えてくれても良かったんじゃない? 事情が事情でもね。
ちょっと複雑な心境‥‥。
「軍部にリークされた情報がオルレアン様の逆鱗に触れたことで事態が‥‥」
‥‥うわぁぁぁぁぁぁ、聞きたくない話きたーーーーー!!
衝動的に耳を塞ぎたくなる。やると怒られそうだからしないけど。取り合ず神妙な面持ちで誤魔化せばいいか。あ~ヤッカイゴトな匂いしかしない。
激オコなお祖父ちゃんが間抜けな軍部に任せられるかと、捜査は儂がやるから主導権を寄越せと暴れたらしい。
だが、如何せん容疑者の縁戚。表立っての介入は叶わず荒れ狂う。それをどう交渉したのか不明だけど、皇帝から許可を捥ぎ取ったそうだ。
‥‥えぇぇ?! 皇帝、何許可出してんの?! 国のトップの緩さに驚愕だ。
だがそこは狡猾な皇帝、裏がある。義兄は警戒心露に呟く。
「若君の仰る通り、オルレアン様は皇帝陛下より課題を出されたと聞き及んでおります」
ガザの表情に変化はない。が、どことなく楽しんでいるのがわかる。性根が悪いからなのか、肝心の課題を教えない気だ。
義兄はグッと口をへの字に曲げ憤懣やるかたない様子。だが、敵対心を抱けない相手だ、多分精一杯の意志表示? 珍しい。
はぁ、そこはかとなくお祖父ちゃんの…皇帝の罠に嵌った気が。
脳裏に沸いた嫌な予感を追い払うように、俺は頭を軽く左右に振る。嫌な予感ほど当たり易い‥‥とまた不吉な予想をしてしまった。
…‥何となくだけど、詰んでない? 俺達。
義兄は仏頂面全開。一方ガザは領主の身内相手に気にした様子もない。それが俺達に一線を引いた態度なのだろう。不躾に向けられる鋭い視線が、俺達は自分の主ではないと言外に語っている。
対峙した今ならわかる。これがこの男のあるべき姿なのだと。
幾ら義兄が部下の采配を許された立場であっても、こいつは違う。主はお祖父ちゃんであってそれ以外はない。外されない視線からこいつの強い意志を感じる。
…‥ああ、監視対象は‥‥俺達だったのか。そう悟った。
俺は鉛を吞まされた(飲んだことないよ?)ような重苦しさを誤魔化すために美味しいマカロンを口に入れ咀嚼するも、口内で淡く蕩ける旨味がまったくしない。パサつきもたつく喉を潤すため紅茶を一口含む。…‥うえぇ、味がしない。
どうやら緊張で喉が渇いてたのか。口ん中、カラッカラ。
義兄が空いたお皿に追加のマカロンを乗せてくれた。でもね、でもね、気分はマカロンじゃないよ? 違うお菓子がいいかな? 俺の欲するものを読み間違えた義兄も、意外と緊張してたっぽい。おお珍し。
ふぅぅぅーーーーーー、よし! 切り替え切り替え!
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる