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第十一章 帝国(お祖父ちゃん)の逆襲
ここだけの話は、ここだけで済まない。
しおりを挟む義兄はジェフリーに目配せで何か指示をしたらしい。
軽く頷いたジェフリーが魔道具の作動を止めハイデさんとライオネルを連れて退室して行った。えっ? どうした?
この場に取り残された俺は今から何が始まるのかと背筋を伸ばす。
ちょっと空気が重いかな‥‥。俺の居心地の悪さがそう思わせるのか。
何も無かったように魔道具を作動させた義兄の咳払いが一つ。俺達の間に落とされた。
「…‥と、表向きはここまででね」
「へっ?!」
不意の言葉に、つい、素で答えちゃったよ。えっ? 何て?
‥‥悠長にお菓子を頬張ってる場合じゃなかったか。
表向きは…と言うことは裏があるわけね?
うぅ~とっても嫌な予感がする。正直聞きたくない。でも聞かないともっとヤバいことが起きそうな予感もする。あ~とか、う~とか、脳内で悶えた。
「これはここだけの話だからね? 本人確認が出来ないだけで身元はギルガが保障したよ。件の彼はヴォグルフ・グリンジャ・タッカーソン。数か月前に行方知れずとなったタッカーソン侯爵家の五男で、ギルガの同母弟だよ」
うわぁ‥‥ここだけの話って、こうやって広がるんだ。
「あの方、侯爵家の五男? えー、めっちゃ子だくさ…んじゃなくて。ギルガの弟なの?」
ギルガの弟に驚いたが、五男にもっと驚いた。お父ちゃんとお母ちゃん、頑張ったんだ‥‥‥。何か感慨深い。
「子だくさん? ああ、彼等は第三夫人の子だよ? 確か子息子女が八人だったかな? ふふ、言われてみれば子だくさんだね」
そうだった帝国は一夫多妻(特例で多夫一妻もあり)制採用だった。確か、魔力持ちの出生率を上げるためとか? 寡婦救済のためとか? よく知らないけどそんな感じ。
「ギルガの素性は確かだから彼が弟と認めた以上、そうだね。それにガザも認めている。ふっ、これでお義祖父様の関与がはっきりしたでしょ?」
うわあ~、聞きたくない話、きたーーー!!
ここだけの話は容赦なく続く。この時の俺はムンクの叫びの顔してたね。
ヴォグルフ本人は事情を語ることができない。
だがそこはギルガ情報で補完された。事件の全貌は不明だけれど、当時の状況ならと聞き出したそうだ。
姿が見えなくなった当初は研究室に籠っていると思われていたらしい。集中すると寝食を忘れ、作業に没頭もしょっちゅう。あれか、研究者あるある。この悪癖が初動捜査の遅れの原因だそうだ。
えー、誰も研究室覗かなかったの? 侯爵家の息子でしょ? 誰も様子を見に行かなかった?! 使用人よ、お世話(成人男性だけど)杜撰じゃなかろうか。
疑問を口にすれば義兄がそっと目を逸らした。思い当たることがあるのだろう。研究馬鹿め。
この人物、偶に魔素を帯びた植物の調査で現場に行くこともあるらしく、失踪前もフィールドワークの計画が上がっていたそうだ。
単独で行動するはずもない高位貴族の子息、成人済みであっても護衛や侍従が付くのだ。厳重な守りの侯爵邸で人攫いが行われると誰が思うか。
誘拐と断定できなかったのはこの点である。
失踪も疑われたが、契約魔法で縛られた彼には行動制限もあってその可能性は消えたらしい。
嘆かわしいと義兄は零す。
その後の捜査情報で『希少薬草』『研究』『外国の貴族』『依頼』『出国許可』と国外を示唆されるものが。国外捜査も検討したが、肝心の出国記録がない。これは組織的誘拐犯の線が濃厚と自領の騎士団では限界を感じた当主が皇帝に縋ったらしい。‥‥手を打つのが遅すぎ。
治療系家門の当主が囲う研究者の失踪。事件か事故か。侯爵家に恩を売りたい軍部は湧いた。あくまで隠密、秘密裏に捜査を行う条件で軍部の介入の許可が下りたそうだ。
捜査は進み、何らかの理由でおびき出されたと上層部は判断。『グスターファルバ―グ王国で魔素含有量の多い薬草の生息地を発見』と新たな情報を得て軍部が動き出す予定であった。
‥‥そう、予定。
俺の疑問の答えがここに集約された気がするね。嫌だけど。これを説明する義兄の顔色が悪くなった気がする。ああ、めっちゃ聞きたくない。でも聞かなきゃ。
ちょいジレンマに陥る。
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