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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領
取り敢えず、解術
しおりを挟む見上げる先に視線を釘付けにされた。
室内灯に反射して、初めてそこに何か物体があるのだと認識できる。
目を凝らせば辛うじて見える透明度の高い箱? 箱なの?
でも目線をずらせば平板に見える。
‥‥ええとぉ、何これ? ちょっと宙に浮かだ水槽っぽいんだけど?
『これを見せたかった』と嬉しそうに微笑んでくれる義兄に対し『ああそう?』と素っ気ない返事になりそう。だってこれが何かわからない以上仕方ないよね?
『ほら見てご覧』といつの間にか手にしたボードを作動させている。
ん? その手にしたボードは何なの? 仕草がタッチ操作だよ?
淡い光を発すれば、いよいよ画面っぽく見えてしまう。そこに映し出された魔法陣‥‥既視感あるあるである。何だかディスプレイのアイコンみたいだ。
「ふふ、では始めようか?」
「はぁ…い…‥」
‥‥ツッコミたい。でも義兄のにこやかな圧に負けた。
さっさと始めたいって顔してるよね?
ファンタジックさに心魅かれるのだが、擬態の解除が生体認証だなんて厳重すぎない? この用心深さは中身が義兄の趣味満載なヤバモンであると推測できる。
これ、深入りはダメなやつじゃない? あなたの知らない世界並みに知りたい欲求はあるよ? あるけど‥‥興味より知った後の恐怖が勝った。俺の危機回避能力は日々進歩しているのだ。
‥‥うん、気にしちゃダメだね。魔法陣に集中しよう。
「あら? これ…?」
幾つか見せられた魔法陣に、類似というかそっくりというか。あっさり該当した物を見つけた。簡単に見つかるとは何とラッキーなことか。
…‥違うね。これ、義兄は知ってたな? この確信犯め。
「あ~若、ドンピシャ~。ねぇねぇ若~、引っ掛かっちゃいました?」
「…‥自ら嵌ったのです。ジェフ、間違えてはいけません」
「は~い。それで、どうします? これ」
「まぁ予想通りなので問題ありません。ですが、騙されたままは癪に障りますね。少し意趣返ししてみようかと」
「あ~若~、楽しそうですね! 何やるんですか?」
「…‥お義兄様? 説明してくださる?」
「‥‥‥‥勿論だよレティ。だが今夜はこの男の処置を終わらすのを優先で。説明は後日時間を取るからね? 先ずは障壁の吸引、球体は明日以降、様子を見ながら進めようか?」
‥‥何その間? また時間を空けて誤魔化す気?
「…‥‥‥‥‥むぅ」
「レ、レティ? どうしたの疲れたの? もう休む?」
「…‥‥‥‥‥むむぅ」
「レティ‥‥‥事実確認してから説明じゃ駄目?」
「‥‥‥‥だめ」
「若~、お嬢様って当事者でしたよね~」
「ジェフ、煩いね。はぁ、明日の午後説明の時間を設けようか‥‥」
「お義兄様、明日の午後ですね! 約束しましたからね!」
ふふふ、今回はレティエルの粘り勝ちだ! ジェフリー、ナイスアシスト!
気を良くした俺は、この後、実験を何度か繰り返した。快くね!
レティエルの再現能力は吸引した魔力が僅かに残っていれば可能だと立証された。面白い能力だよね? 形状を記憶するのか、魔力に情報があるってこと?
よくわからんが、出来ることが増えるっていいよね? 嬉しくなる。
調子に乗った俺はついつい聞いちゃった。
調合器具を見せてくれたのは、レティエルが喜ぶだろうと思ってのこと。何でも以前話した『ステイタス画面』を参考に作成した魔道具なのだと。
‥‥え?
俺はそんな過去を綺麗さっぱり忘れていたのだが、義兄は違った。いつか作ろうと考えていたそうだ。帝国留学時代、鑑定魔道具を作製する際、どうせならと宙に浮かんだディスプレイ型に拘ったそうだ。
…へっ? 拘るとこ、そこ?! 何で?!
俺は一体何を義兄に吹き込んだのか。今となっては恥ずかしい謎だ。
この世界、個人的な能力に『鑑定』は存在せず魔道具で行うのが当たり前。そうなると鑑定師頼りとなり、人知れずこっそりいろいろ知りたがりの義兄的には問題が生じるのだと。
‥‥いや何の問題よ? 義兄の思考が問題だよね?!
そこで無駄に頭のいい義兄は自らこさえた。こっそり人様の魔力系統も鑑定できて、秘匿された魔法陣や術式も。興味の赴くまま調べ、その情報をこの魔道具に取り込んだのだと。序でに調合もできるよう改良した優れ物だって。
…‥やっぱ、ヤバモンじゃん!! 聞きたくないよ!
禁術に触れなかったのは単に触れる機会が無かったからだと。あればするのね。義兄らしい。
多分、レティエルの魔力系統を知ったのはコレでだね。
この人、どこまで暴くのが好きなのだろう。その悪趣味さに引いた。
はぁ‥‥でもまぁ、今更だよね。気にしては負けなやつだ。
で? それよりこの魔法陣は何なの? それを教えてよね?
誤魔化そうとしてもダメだからねっ!
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