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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領
既製品かぁー②
しおりを挟む『術式なら無詠唱で時短。その点も軍配が上がりますよ~』だと?!
はっ? 詠唱って?
思いつくのはファンタジー世界の魔法使い。詠唱で魔法をぶっ放すあれ。声に出さなきゃ魔法が使えないとはどんな羞恥プレイかって。妄想して見事に撃沈。
‥‥恥ずかしすぎる。
俺の羞恥心を余所に、思考の海から帰還した義兄が何を思い付いたのか宿屋で出来心で吸収したギルガの手の紋章。あれは再現可能かと尋ねられた。
え、知らないよ? どうして?
「レティ、試してもいいかい? ジェフの手の甲に再現出来る? それとも元となるギルガの紋章を吸収しないと無理かな?」
「‥‥お義兄様? えっとぉ無理だと思いますわ。わたくし紋章を覚えていませんもの」
「…‥そうか。それでも試してみない?」
「無駄だと思います…‥ですが、やってみますわ」
考えあっての提案だよね? だったら従うよ。
結果は無理でした。再現能力が備わっていないためか、紋章の形を忘れたせいか、両方か。どちらにしろ出来ない事実に変わりはない。
過程を見ていた義兄はできないことに安堵し、そして残念そうでもあった。
どうやら膜に刻印された魔法陣を再現させたかったみたい。自分の目で確かめたかったのだろう。こんな機会巡り逢うことは滅多にないもの。好奇心を擽られては仕方ないか。
「レティ、ありがとう。これで禁術を吸収したとしても、その魔力を移してしまえばレティに再現はできない。それが判明して良かった。あとは魔石を幾つか用意させよう」
「あ~残念でしたね、お嬢様。再現できれば禁術使い放題でしたのに~」
「‥‥‥」
‥‥良かった。禁術遣いへのジョブチェンジは避けられたわ。
義兄、ジェフリーへ向ける視線がゴミムシを見る目になってるよ?
まぁそうなるよね。
「レティ、何か気になることはない? 思い出したことでも何でもいいよ」
「お義兄様。次は多目に魔力を流したいのですが、彼に悪影響を与えないか心配ですの。大丈夫でしょうか」
「魔力量を増やすのかい? それをしてレティの体調は大丈夫なの? レティに影響ないのであれば試みても構わないよ」
「…‥そうですね。やってみないとわかりませんもの」
…‥実験体って言ってたよね? 本当に大丈夫かなぁ。一抹の不安が拭えないまま一縷の望みに賭けるしかないと開き直る。
今夜、俺達は再び地下室に向かう
‥‥次こそは術を解いてやろう。
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