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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領
違和感
しおりを挟む「…‥クク、そんな怖い顔しないで。可愛い顔が台無しだよ。それにしてもレティはどうしてそう思ったのかな?」
‥‥茶化したいの?
楽し気な義兄をねめつけたものの、ぷくっと拗ねた可愛いお顔になっただけで全然締まらない。単に義兄を喜ばせただけだ。俺達を見守る護衛達の視線が、によによと生暖かい。何でだよ。
「だって、お義兄様って‥‥わたくしに危険がないよう守って下さるでしょう? なのに禁術に触れさすのはいつものお義兄様らしくありませんもの」
そう。いつもは過保護な義兄なのに、こんなヤバめな事案をレティエルに任せたのだ。一見、浅慮と見做される提案である。らしくない。
裏のない行動であれば義兄の脳が深刻な病に侵されたと心配するレベルの事柄である。普段の言動と違い過ぎて違和感を抱くのは当たり前だ。
‥‥禁術に触れさせるなど正気の沙汰ではないよね? 普通は避けるよね?
無謀にも引き受けたのは俺だけど‥‥でも俺にも考えがあった。
義兄の言葉の巧みさにうっかり乗せられた感は否めない。レティエルに迫る危険を匂わせ、来たるべき危機に備えて回避手段を身に着けろと仄めかされたのだ。俺の性格をよく知った上で。まんまと乗せられたわ。
「お義兄様は知っていらしたのね? わたくしの魔力はどういう系統ですの?」
確信犯だよね、義兄って。
知ってたでしょ? だから危険物処理を俺にさせたでしょ? どうよ? 当たってたでしょ? 俺は騙されないからね!
ちょっと扱いに異を唱えたいところだけど、返答次第では勘弁してあげても良いよ?
「レティの能力であれば解術は問題ないと判断して任せた‥‥でもね、一番の理由は君に隷属魔法が施される危険を考えてのことだよ。身を守る術を一つでも多く持たせたかったからね」
義兄の言葉に同意したジェフリーやハイデさん達がコクコクと頷いている。
うん、不安要素を除外したくなる気持ち、良く判る。俺も同意見だし。
無駄に整ったお顔で憂いられても。皆も‥‥ちょっと心配させてごめん?
でもさ、身に迫る危機はレティエルだけじゃないよ? 義兄だって狙われる要素ありありじゃん。自分は大丈夫って言えないよね?
これ、術の全貌を解明して予防策考えないと。あっ、防止用の魔道具作るとか?
ちょっと意識がずれちゃったけど、いい考えでは? 無論、作るのは義兄だよ。だって魔法陣の一つも描けない俺では魔道具制作は無理。技術者として名を馳せた義兄の腕の見せ処だよね!
…‥面倒だからって義兄に押し付けるわけじゃないよ? 出来る人がやればいい話なのだ。
「レティ、話を続ける前に聞かせてくれないか? 術は解けるのかい?」
俺が明後日の方向を見ながら『ナイスな案』でほくそ笑んでいるとガラリと雰囲気を変えた義兄が真顔で問うてくる。
「えっ…‥それは‥‥」
切り返す言葉に詰まったのは、質問が『解けるか?』だからだ。自信の無さからじゃない。レティエルの能力では『術は解けない』になる。
正確に言えば『解く』よりも『無くす』が正しいのだ。
多分、義兄の質問の意図は『無効化』が『解術』から成されるのか、はたまた『個人の能力』でなのかを知りたいのだろう。
結果的に同じ無効化だとしても手段が大きく異なるのだ。義兄が慎重に成らざる負えない理由がここにある。
‥‥魔力を吸い取れば術自体が無くなるから解術と言えなくはないけど、それは義兄の聞きたい話じゃないよね。
俺は答えを先送りにする。
「お義兄様、様子見で流す魔力量を少なめにしたの…‥」
出来るか出来ないかで答えれば『出来る』と思う。僅かな感触で決めるのは早計かもだけど。
…‥取っ掛りを見つければ綻ぶはず。まぁ予想でしかないけどね。
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