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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領
無効化ー①
しおりを挟む「お義兄様、確認ですが、この方達の了承を得ていらっしゃいますよね?」
大事な事だからね! 確認するよ。
だって万が一ってあるし。後々恨まれるのはやだ。不必要な恨みを買う気はないのだ。そこんとこどうなの?
「ふっ、彼等を心配して‥‥レティは何て優しい子だろう」
感極まった感じでこっちを見ないで欲しい。保身のためだもん、褒められるとチクチクと何かが刺さる。
「‥‥‥承諾‥‥ああ、問題ないから心配はいらないよ」
ちらりと二人に視線を落とした義兄と目が合った彼等がビクついたのは…触れてはいけないやつだ。まぁ了承したのは義兄だ。恨むならこやつで。
「レティ、出来なくても構わないからね。無理だけはしないで」
俺の諦めモードを納得と捉えた義兄は、殊更、穏やかな口調だ。手を当てた背中に温もりが伝わり触れた暖かさが知らずと力んでいた俺の緊張を和らげた。
最悪なパターンを想定してちょっと緊張してたんだ。ああそうだよ、魔力操作は力んでするもんじゃないよね。義兄の話を思い出し、気を引き締める。
‥‥今まで勢いで相手の魔力を吸い取っていたけど、そのやり方では、特殊な術である『隷属』には通用しないかも。解術も正規の手順じゃないのだ妙な反発が生じる可能性だって大いにある。
不安に駆られる俺に安心させようと『過去に解術を試みた者が失敗しても無害だったと聞く。レティは失敗しても大丈夫だから気負わずにね』いやいやいや、その言い方だと契約者は無事じゃないよね。余計不安になるわ。
‥‥義兄よ、ハードル上げないで。
ふぅーと軽く息を吐き、肩の力を抜く。
隷属の契約は完全支配だ。
正規の契約魔法は相互理解・合意の上でなければ締結できない。詐欺契約も命を奪うほどの拘束力はない。だが、これは違う。人間の尊厳を奪うものだ。
顔には出さないが義兄の焦りは良く判る。人攫い組織に狙われているレティエルが、この術の餌食にならないと誰が言える。高確率で施されるだろう。それが分かるだけに俺も義兄も無茶な解術を試すのだ。
人助けじゃない、我が身可愛さだから俺も大概だね。
こうして被害者を目の当たりにすると現実味が帯びて他人事とは思えない。そう、明日は我が身ってやつ。
だから予想される危機に対し対抗手段を講じるのは正解だ。俺だって安心できる手段が欲しい。
一番は狙われないことだが、そうも言ってられないのが辛い。
兎に角、今はレティエルのイマイチ何か分からん能力の有効性を証明するのが先決。役立つものを増やすに越したことは無いからね。
それにレティエルだけじゃない。
義兄は、この隷属の契約を無効化すれば、親父の契約魔法も無効化が可能と見ている。魔法術関連を熟知した義兄の言葉だ。信じよう。
知らされた親父に科せられた契約魔法血の盟約。ふざけた国王だと憤ったが、いつか無効化にしてやると心に誓った。絶対やってやる。
気持ちを切り替えるために、ふぅ、っと、再び息を吐く。
義兄とハイデさんにガザの三人が見守る中、男性の心臓部目掛けて俺の魔力を流し込む。
やり方は至ってシンプル。
レティエルの魔力を一旦流し込み、俺と繋がりをもたせる。そこから魔力を操作して吸い取る。それだけ。
言ってしまえば何じゃこりゃ? な、レティエルのよくわからない能力。
ホント意味不明だよね。でも、義兄は魔力の浸透性が、とか、飽和がどうとか再来うんぬんと独り言ちてた。何か心当たりがあるのだと思う。予想立ててるっぽい。教えてくれないけど。
‥‥うわっ
レティエルの魔力を使って相手の魔力を吸い取るはずが、めちゃくちゃ抵抗してくる。
えええ、なにこれ? めっちゃ抗ってない?!
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