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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領
一夜明けて‥‥
しおりを挟む「よく休めたかいレティ」
「お義兄様、良く休めましたわ」
「ふふ、それは良かった。さぁこちらに座りなさい」
え~と、俺達はまだクリスフォードの邸にいる。そう、まだ居座っているのだ。で、どんな状況かと言うと…‥
応接室に呼ばれたのでハイデさんに連れられ来てみれば、義兄にジェフリーとライオネルが既に話し合っていたのか席に着いていた。
へっ、ライオネル何時の間に? 母さんの護衛じゃなかったの?
意外な顔を見て、キョトンと抜けた顔をしたら、ライオネルがくすりと思わず笑ったのだろう、慌てて口を閉じたのが目についた。
「あ、お嬢様、奥様のご命令です。私以外にも何人か同行していますので、後ほどご挨拶させて頂きます」
「まぁ、お母様が? そう、ご苦労だったわね」
酷使されてるのがわかる。目の下にくまちゃんが‥‥悪いね。
昨夜、俺とジェフリーのいた部屋に義兄が疲れた顔で戻って来たと思えば、今夜はこの邸で休むようにと客間に押し込められた。勿論、不寝番はハイデさん。おまけに身支度まで手伝ってくれた。徹夜だよね‥‥お肌に悪いよ…ごめんね。
よく見ると義兄達もお疲れっぽい。もしかして寝てないの?
休めと言われた俺はお言葉に甘えて、敵陣だと言うのにぐっすり熟睡しちゃった。レティエルは枕が変わっても寝れる子なのだ。うん、寝具が良かったのもあるね。
執事にお茶と軽食を用意させ、人払いをする。(これはクリスフォードに化けたジェフリーが当主とその客の態で用意させたのだ)お話し合いモードなわけね。盗聴防止に魔道具を使うとは、念の入ったことで。
「では、説明を始めようか」
「お義兄様お願いします」
…‥いやねぇ、どうしてこうなったのか俺も不可解すぎて、兎に角説明が欲しい。そりゃ切実にね!
急遽調べることが増えたと言った義兄が、この邸に滞在を決めたので皆揃って居座ったのだ。
先ず、クリスフォードが犯罪に手を出したか、巻き込まれたか事実は不明だが、何らかの問題を抱えているのが判明した。その調査目的で奴の身柄を一時拘束していると言う。要は尋問のため何処かに隔離したのだ。
そしてクリスフォードにジェフリーが化け、家令には当主の『友人達』が昨夜遅くに訪問したと説明し、当面滞在するから世話をしなさいと言い付けていた。
…‥義兄よ、無遠慮だね。
何もクリスフォードの邸を乗っ取らなくても‥‥と思うのは俺だけ? 皆はそれでいいの? はっ? ジェフリーなんて宿屋よりも綺麗でいいですね~と呑気な返事だ。他の者も捜査が途中なのでこれでいいそうだ。あっそうなの。皆が納得しているのなら、それで良いよ。
俺も納得したと判断した義兄が漸く本題に入る。
邸に滞在を決めたのは調査もだが、レティの能力を借りたいからだと硬い表情で打ち明けだした。
少し言い淀む義兄が珍しい。それほど躊躇う内容なのかと気が引き締まる。
「この邸に囚われている魔力保持者の隷属の契約を解いてもらいたい。レティにはその能力を使わないでと言ったが、すまないね、約束を破らせてしまうことになって」
「えっ? 隷属?」
ジェフリーに聞いたばかりの犯罪魔法! まさか早速、隷属の契約魔法を知ることになろうとは! あまりのタイムリーさに正直身震いがする。最初から知ってたの?
「ああ、レティ、術が解けなくても気にしないで。本来なら術者以外解術は出来ないのだからね。これは、実験だから気にせず取り組んで欲しい」
「えっ、実験ですの? それって‥‥」
義兄の思惑は、この実験でレティエルの能力が命に係わる契約魔法の解術が出来るかどうか判明させたい。実力を測る上で良い検体が手に入ったので試したいのだと。成功すれば仮にレティエルが隷属の契約を結ばされたとしても無効化すれば最悪は免れる。とそれを見越しての確認なのだろう。
そうだよね。散々ジェフリーに犯罪魔法の非道さや怖さを聞いた後だから四の五の言ってられない心境になるね。俺は二つ返事で義兄を見た。
説明は続く。
今回、クレア絡みで始まった不法侵入。だが蓋を開けて見ればガザの偽情報で誘導された。今のところ彼女との関連性は不明。現時点で無関係だと捨て置けないのも事実だと義兄は苦い顔だ。それ以外にも不可解な点がいくつも露見したのが義兄的には見逃せないでいる。
推測だが、と断りを入れつつ義兄はレティエルと公爵家を狙った人物、それとジオルドを嵌めた人物、両方かそれともどちらか。運が良ければ接点が見つかるかもしれないと考えている。どこでどう関わっているのか、それを今回解明するのが目的だそうだ。この領地がただの犯罪の温床なのか、それ以外の目的があるのか、突き止めたい。
義兄の考えはわかった…‥でも正義感からじゃないよね?
何か他にあるんだよね?
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