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第九章 王国の異変
目的って何だっけ?
しおりを挟む「若様、投薬完了です」
ハイデさんの飛伝が意味不明(俺だけ)。
「漸くですね。では行きましょう」
意味不明なやり取りを聞いて、ジェフリーの面白能力に浮かれた気分がシュと萎む。疎外感が頭を擡げた俺の表情はきっと不満を滲ませていたのだろう。義兄がそれとなく気を遣ってくれる
「ああ、レティ、ハイデは安全面を考慮して邸の者に眠り薬を投与しただけで、薬は身体に無害だからね、そう心配しないで。朝になれば彼等は爽快に目が覚めるよ。大丈夫」
優しく微笑む義兄はジェントルマンだ。言っている言葉はアレだけど。
「若、私室に向かいますか?」
「そうですね、標的は後でいいでしょう。では行きますよ」
分かり合った二人に促され執務室を後にして、ハイデさん達と合流もせず、明かりの消えた廊下を月明りの淡い光を頼りに俺達は3階の私室に向かって歩く。
計画を聞かされていない俺が一々問うのは時間の無駄だ、そう判断して義兄の意に沿うことを決めた。
俺の頭には気になる点が幾つか浮かんでは消えを繰り返し気が散る。無言だと意識がそっちに向い無駄に足掻くのを止められない。
どう考えても、義兄の動きは初めて訪れた者の動きじゃない。例えガザに教わったとしても動きに躊躇いが一切ないのが気になる。
それにクレアの存在を視野に入れず、ガザの動向も気に留めていない。最初からガザを疑い、クレア情報が虚偽だと決めていたとしても、肝心のガザを放置している点が引っ掛かる。ハイデさんは問題が生じたとしか言っていないが、恐らくガザが何かして義兄とギルガで対処したのでは? と、俺はそう推測している。
‥‥のだが
俺の浮かない顔に気が付いた義兄は心配顔で宥めてくる。
「レティ、どうしたのかな、気難しい顔をして。君にそのような表情は似合わないよ。もしかして何か気に障ることが? それなら、お願いだから一人で抱え込まないで私に話して欲しい。それとも気掛かりな事があるのかな? ねぇレティ、君は思い詰めると持ち前の行動力をあらぬ方向で発揮させるから少し心配かな‥‥出来れば君の心を憂させるものを教えてはくれないだろうか」
然りげ無く言動を窘められた気がしなくもないが、心配からだろう…そう言う事にしておこう。
確かに、一人で悶々と頭を悩ませても正解に辿り着けるかどうかだ。珍しく義兄から耳を傾けると示してくれた。だったら話した方が断然良い。モヤる気持ちが解消するかも‥‥。
「お義兄様、お気遣いありがとうございます。ではお聞きしますが、どうしてお義兄様はクレアとガザを気に掛けないのでしょうか。クリスフォード様のお邸に忍び込んだ理由がクレアの確認でしたのに。全くその事に触れないのはおかしくありませんか? お義兄様、何を隠していらっしゃるの? わたくしにもお教え下さい」
義兄は『おや?』と言う顔で俺を見てニコリと微笑む。窓から差し込む月明りが義兄の端正な顔に反射して、まるで彫刻の様な、血の通っていないと思わせる容貌にヒヤリと薄ら寒さを感じた。
‥‥うわっ、企んでいる顔だよね!
これは聞いても教えてくれないな‥‥ふと諦めの気持ちが頭を擡げてくる。蚊帳の外に置きたいのだから簡単に口を割らないだろう。
「レティ、結果から言えばクレアはここにはいない。領主とクレアの関りの証拠がない今、判断が付きかねない状況だと理解してくれたら良いかな。それと、ガザの事は心配しなくていい。彼にはお咎めも処罰もないよ」
「えっ? それは‥‥」
「ガザはクレアの干渉を受けてはいないよ。だが真実も語ってはいないからね。ふっ、私達の親世代はどうも干渉がしたいみたいだ。困ったね」
困ったと言うも声色はどこか嬉し気な、楽しさを滲ませている。
義兄の言葉は額面通りではないね。楽しむ余裕を見せてくれるが、この状況下で何を楽しむのか、楽しんでいるのか理解に困る。結局、義兄と俺の考え方は違うのだ。でも、義兄が楽しいのならそれでいい‥‥くわばらくわばら。である。
‥‥でも
「私達の‥‥親世代ですか? それは‥‥お父様達でしょうか」
「ふふ、帝国側もね。私達に期待した高貴な方々が色々と試練を与えてくれたらしくてね。ふっ、困った方々だね」
はっ?! 何それ? それよか、義兄、全然困ってない顔で言われても俺が困るわー! 説明はきちんとお願いします!
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