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第九章 王国の異変
主従関係
しおりを挟む音もなく忍び寄る義兄って何者?! この人って公爵令息だよね?!
いつもの公爵令息然とした姿しか知らない俺は、最近の義兄の良いとこのお坊ちゃまでない姿に驚かされる。我が家の跡取り教育って、一体何を教育してるんだ? そして、義兄よ、どこに向かっているのだ‥…不可解すぎる。お貴族のお坊ちゃまらしからぬ義兄への疑問は、この際いいや。取り敢えずジェフリーの話が先だ。
「お義兄様お戻りになられたのね。‥‥あら? 他の者は?」
「レティ、遅くなってすまないね。ああ、別行動をさせてはいるが後で合流するよ、心配しないで」
「そ、そうですか‥…、お義兄様、わたくし達の話を聞いていらしたのなら教えて下さい。お二人の間柄は‥…」
俺の質問が予想外だったのか義兄はキョトンとしてこちらを見る。少し間があったが主従関係しかないのに何故当たり前の事を聞くのかと不思議がられた。
あっ、そうか俺達の話を後半しか聞いていなければ経緯が判らなくて当然だ。
ではちゃんと説明しなきゃね。俺達のやり取りを余すことなくチクった。ジェフリーへの不信感も。そりゃもうねちっこく。
話を聞いた義兄は、へにょんと喜びか苦笑かよくわからない表情で俺を見る。
‥‥その顔はどういう心情なのかわからない。滅多に見せない表情だが相変わらず本心を悟らせないだけに俺は戸惑った。
「‥‥すまなかったねレティ、君に猜疑心を抱かせたのは私の落ち度だ。だが不審な男を易々と信じなかったことは褒めるに値するよ。ふふ、身内以外の男は疑うに越したことはないね。ふっ、レティ、いい子だ」
嬉しさを隠すことなく表した義兄に頭を撫でられ褒められた。あっ、嬉しかったのね、良かった怒られなくてホッとしたよ。でも、俺、義兄の部下を疑ってますよ発言したのに、喜ぶの? いいの?
「えー、酷いです~若~! 俺、お嬢様に疑われるようなことしてませーん~、だってお嬢様って大人しく待とうとしないんですよ~、この部屋を荒らす気満々で、侵入の痕跡が残れば困るじゃないですか~、だから俺、お嬢様の気を削ごうとしたのに~、ひど~いですぅ。あっ、若、お嬢様、妙なやる気を滾らせてたのでちゃんとした情報をお伝えした方が無難ですよ~、あっ」
勿論、義兄が凍てつく視線でジェフリーを射殺そうとしたのでこの男は口を閉じたが、その『てへっ』って顔は止めろ。
さて、ジェフリーの間の抜けた口調が場の雰囲気を和ませた?ところで話を続けようか。そんな俺の意を読んだ義兄は溜息交じりにジェフリーをひと睨み。あっ、やっぱ睨むんだね。
「レティ、この馬鹿者は口が過ぎたが、確かに、事情を教えないのは君の身になれば辛いことだね。ちゃんと説明をしようか。だが話は場所を変えてからにしよう。今はまだやるべきことが残っているからね。レティ、それでいいかな?」
何だか誤魔化された気もしなくはないが確かにこの場で呑気に話すわけにはいかないよね。だってここ余所のお家だし。忘れそうになるけど俺達不法侵入中。
こりゃ不味いよね。
「レティ、ジェフは私と君の影武者だよ。今は私付きだから多少の情報は共有していてね。それで知り得る情報は他の者よりも多いかな」
不意に告げられた内容に理解が追い付かない。
は? 今何て?
「ふふ、その顔、予想外だったかな。コレは特殊能力を持つ身で私達の影武者の役目を担っているよ。像幻視術と違って完全に対象人物に化ける、記憶以外複写する能力を持つからね。」
「えっ、複写ですか?」
はっ? それはコピーロボ‥‥んんん、どこぞの忍者?
ええー、何それ何それー! 見たい見たい見たい!
俺の眼がギラギラぎらつく。勿論、ジェフリーに向けて。
「若~俺の所為じゃないです~、お嬢様が食い付いちゃったじゃないですか~、どうします?」
「これは…‥迂闊でしたね」
不法侵入中になにやってんだと非難されても、それは潔く受け止めよう。こんな面白能力滅多にお目に掛かることはないのだ。いや普通はないね。ジェフリーの能力は幻影術だけではなくて固有能力もあって意外に実力者らしい。考えて見ればそうか、義兄が重宝するほどだし並みの能力じゃ仕えられないか。興味津々でジェフリーに視線が向くのは仕方ないよね!
でもその能力ってアリバイ工作バッチシじゃね?
義兄がバンバン使ってそう‥‥暗躍大好きな義兄には重宝するよねジェフリーって。
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