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第九章 王国の異変
先輩を差し置いて後輩が
しおりを挟む「若様、問題が生じました」
不穏なメッセージに不測の事態が脳裏に浮かび、ドキリと心臓が脈打ち握った指先に力が籠る。俺の動揺を見逃さなかった義兄は安心させるように優しく微笑み言葉をくれた。
「レティ、不安にさせてごめんね。これは想定内だから心配しないで。ハイデには警戒を怠らないよう注意を喚起した、だから些末な事でも報告してくるんだよ」
「若君、見て参りましょうか」
「私が行こう。レティ、心細い思いをさせてしまうが許して欲しい。ここで大人しくジェフと隠れていなさい。‥‥ジェフ、お前は死んでいいのでレティに傷一つ…指一本も触れさせないように守りなさい。いいね」
「えっ、お義兄様? はっ? え? ちょ、ちょっと待ってぇ‥‥」
待ってー!
不安と心細さで縋った右手は空を切り、掛けた声は閉じる扉で掻き消えた。
えっ? マジで置いてかれた、うそぉ‥‥
呆然と扉を眺める俺の胸中は穏やかでいられない。
‥‥二手に分かれて大丈夫なの?
足手まといな俺の所為で、義兄達は敵陣の中ジェフリーの能力に頼れず、ハイデさんの元に向わねばならなくなった。
‥‥幻覚術があれば安全に向えたのに。
でも‥…
戦力外な俺の所為だよなぁ。
はぁ~、憂鬱な気持ちを隠す溜息を内心吐いて。
そんな事を思いながら肝心のジェフリーに目を向ければ‥‥
えっ‥‥と、どうしたのかな?
この男、肩を落とし、しょんぼり凹んでいる。
シュンと落ち込む様は置いて行かれた犬っぽく‥‥でも可愛くはない。
まぁ、実際、置いてかれたけど。
「…‥‥‥」
これ、どうしたら?
明らかに落ち込んだ人と二人きりって。
えっ‥‥と、これ、俺が慰める? べきなの?
この状況に早々音を上げたのは俺の方だ。気落ちした姿が見るに堪えない。
取り敢えず談話で場を取り繕おう。
「行ってしまったわ‥‥ハイデ達は大丈夫かしら」
「…お嬢様、ハイデは大丈夫ですよ。不意な出来毎があったかもですが、若への報告は絶対で、若も指示する側で現場確認しなきゃです。それに若から調合薬の使用許可が下りた時点でハイデの警戒心は最大限。向かうところ敵なし状態で、ヒャハー! だったでしょうね‥…」
「はっ?」
驚いた! 普通に喋ってる!
あ、話す内容も驚いたけど、部分的に微妙な言葉遣いだけど、いつもと違うトーンで話されると違和感が。でもこの落ち着いた口調が彼の落ち込み具合を強調させている。
‥‥これってやっぱ、ハイデさん達が心配で?
不適切な言葉が聞こえたのは、可哀想だからスルーにしてやろう。
そうだよね‥‥仲間だもんね。ううっ、俺の方が気を遣うわ‥…
「そ、そう言えば確かにお義兄様って調合薬の使用をお認めなさってたわね、でもそれが、警戒心を強めたの?
俺には理解できないけれど、仲間同士の暗黙の了解ってやつ?
「ハイデ印の調合薬は、流石ぶっ飛び女が作る薬なだけに、仲間もろとも巻き込むヤバ物なんです‥‥勿論、普段は使用禁止ですよ。今回、許可が下りたから有頂天に劇薬散布でもしちゃったんでしょう。拷も…ん、尋問用のお薬は個人用なので散布汚染の危険性は無いと保証されてますが。それよりも若が心配です。あー若、大丈夫かな~」
え‥‥ジェフリー辛辣過ぎない?
言葉が真面目に聞こえないぞ。悪ふざけかとがっくりする。
「ハイデの生じた問題って、問題を起こしたのが自分の可能性が高いです。あ、歩く薬物汚染の異名を持つ彼女の心配は無用ですよ~」
ジェフリーよ。お前、真剣に話す気なくね?
「‥…はぁ~先輩を差し置いて後輩が若の同行って‥‥‥」
しょぼくれ理由は、そっちか!
仲間の安否が気掛かりで、ではなく、めちゃくちゃどうでもいい理由だった。お前ねー、俺の気遣い返せよ!
「ジェフリー、わたくしは、お前(の頭の中)が心配ですわ」
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