転生先は小説の‥…。

kei

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第九章 王国の異変

目に入るものは

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乗馬で村を走り過ぎた。
家が少ない村は朝だと言うのに煙突から煙が上がらない。無人の証拠だ。
道横の畑は荒れ放題。乾燥した大地が捨てられた村だと知らしめている。
この村が捨てられた経緯は伺い知れないが、土地に根付く農民が自分の土地を捨てるとは余程の事情だと偲ばれ、何とも痛ましい。

この村を俺に見せたギルガの意図は、本当に通り道が理由なのか。

今は尋ねる人選を間違えたと腑に落ちない気持ちでギルガの背を見るしかない。

廃村で休憩? 仲間来たし。理由があったんでしょ?
聞いても、しれっと「通り道だったんで!」だと。
何その、コンビニ行ってきます。みたいなノリ。

軽い、そして、嘘っぽい。これで信じる人、いるの? もう、煙に巻いたぞってありありだよ。でも、ここで追及しても埒が明かないと思う。現にフード三人衆は無言だ。ギルガを見るハイデさんの目は害虫を見る目だよ。俺だったら女性からそんな眼差し向けられたら立ち直れないわ~。




「帝国へは迂回ルートを利用します。少し遠回りになりますが頑張って付いて来て下さい。馬での移動に慣れず大変でしょうが途中休憩を挟み、宿で宿泊もしますから。もし体調が優れなくなれば直ぐに教えて下さい」

気遣かう彼に文句は言えない。俺達は彼の部隊と合流し帝国に入ることが決まったのだから。

「わかりました。でも、よかったのかしらわたくし達がご一緒して」

同行はお互い予想外の筈、それを簡単に受け入れた理由は何だろう。不思議に思い聞いてみたのだが‥‥

「あ~全然問題ないです。ないです。寧ろご一緒出来て都合が良いのは私ですから。気兼ねなく頼って下さい」

やっぱ軽い。
物言いに引っ掛かりを覚えても母さんが許可した以上黙って付いて行くしかないのか。




俺達は馬で合流地点に向かうことにした、のだがここでちょっともめた。
お馬ちゃんが人数分いないのが理由だけど、レティエルを誰の馬に乗せるかでもめちゃった。ちょっとだけね。
レティエルは淑女にあるまじき乗馬が得意。独り乗りもOK、だけど服装がねぇ。シンプルな装いだよ。でも馬にガッツリ乗れる服じゃないから横座り決定よ。

初めはフードの男が俺を乗せようとしたんだが、俺がめっちゃ嫌がった。
それは駄々っ子のように。だって、こいつ喋んないだもん。母さんとは会話してたのに俺だけに口を聞かない。そんな奴とタンデム出来るか! いやじゃ。
そんな俺の様子を微笑ましく? 生暖かい? 視線で見るもんだから気恥ずかしさが勝って余計に拒否ったのだ。見兼ねたハイデさんが「女性は女性同士が宜しいでしょう」といい笑顔で掻っ攫ってくれて今に至る。
ありがとう、お姉様。





…長閑な田園風景…ではなくて。目下広がるのは殺伐とした町の雰囲気。

休憩の為に立ち寄った町では人は要るのだけど、覇気が見受けられない。往来には草臥れた男がチラホラ。俺達を見る目は不穏な感じだ。ちょっと身の危険を感じる。

町の男衆の視線を余所にギルガが目指した建物は小さいが宿を提供する食事処。
ここで休憩は有難い。俺も馬に乗り続けるの、疲れちゃったしね。

俺達は簡単な食事と飲み物を注文し、室内を窺う。
殆ど人が居ない。まあ、外食だなんて商人や余所者しかしないか。

ギルガは店の亭主に小袋とお金を手渡し会話をしている。そこにフードの男も加わった。
何だろう? 気になる。話も気になるがフードの男の素性がめちゃくちゃ気になる。ハイデさんはにっこり微笑むだけで教える気が無い。もう一人のフードは勘弁して下さい。死にたくないです! と弱腰。

母さん、何故この胡散臭い面子に俺を放り込んだの? 謎過ぎて泣けてくるわ。

俺がひっそり項垂れていると二人が料理と共に帰って来た。

「悪いな。これしか用意できねぇ。食料不足なんだわ」

そう言って亭主が差し出したのはカチカチな黒パンと具の無いスープに水。食べたらお腹壊しそうな代物だった。食料不足と聞いて驚きと疑問が一遍に沸いて食事どころではない。

廃村だけではなく、この町でも。

公爵領と比べて、余りの違いに絶句した。
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