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第八章 出揃った駒
帝国人のダル
しおりを挟むダルもアッシア語を難なく使っている。これって‥‥俺の訝しむ表情に気が付いたのか苦笑いのまま応えてくれた。
『私もギルガも帝国軍人です。今から証明紋をお見せ致します。どうぞお検め下さい』
身分証明出来る代物を所持していたのか。自ら提示すると申し出てくれて助かったよ。これで揉めることなく敵か味方かわかるのだと俺は一先ず安心が欲しかったから内心かなり嬉しい。
先ずは胡乱な二人の証明紋の検証を護衛に託す。
「お二人は近付かないで下さい」って釘を刺されたよ。まだ護衛はピリついている。でもでもね、君達支配系のダルに近付いて大丈夫? 操られないかなぁと頼りないと思ったわけじゃないよ、ドキドキ心配しちゃったの。
『確認取れました。二人とも帝国軍の諜報員で間違いありません。奥様これ以上関わるのは宜しくないと…‥』
『もう既に巻き込まれています。少しぐらい秘密が増えても何とかなるわ。肝心の説明もまだ聞いていないし‥‥』
『奥様、軍の規則に抵触致しませんか』
『あら、わたくし達は軍人ではありませんわよ。いやだわオホホ』
護衛を見る母さんの目に強い圧を感じた。目力強っ! 護衛、その身震いはトイレ? いや武者震いにしておこうか、男のプライドを傷つけちゃうもんね。
どうも一般人である俺達に軍法が適用されないと言いたいのだろう。ちょっと大丈夫かなと思わなくもないが‥‥知りたがりの俺と母さんの好奇心を抑えられる奴はこの場に居ない。運が悪いね護衛くん。
ふふふ。だってだって、スパイ、スパイだよ! 生スパイだよ?! うわ~マジモンだよ~やっべ、俺のテンション上がるわ~
『先ずは貴方達にお礼を言わなければなりませんわね。助けてくれてありがとう』
『勿体ないお言葉です。お役に立てて光栄でございます』
控え目なダルさん。良かった裏切られたんじゃなくて。マジ落ち込んだからね。
『ふふ、そう畏まらないで。貴方達には後で褒賞を渡しましょう。何が良いか考えておきなさいな。と言ってもわたくし達が無事に帰れたらのお話ですわよ』
母さんの綺麗な微笑。数多の男を惚気させるその笑み。知ってる、俺知ってる。それ疑いの目だよね。めっちゃ怪しいと睨んだ相手に向ける極上の笑みだよね。
ええーーー何で? この二人疑ってんの? 助けてもらったのに?
母さん、恩を仇で返す気? ちょっとヤキモキしちゃう。
『二人は潜入捜査の任務中ですわね? 規則違反を犯したと軍法会議に懸けられてもおかしくありません。何故そのような行動を? 貴方たちの正体を明かした理由と目的を述べてもらいます』
護衛も頷く、それな。
『はい。緊急事態だと判断致しました。その上で公爵家に恩を売ろうかと』
意外に明け透けな物言いのダルさんに驚かされる。その言い方でいいの?
ねぇねぇこの緊急事態って俺達を指してる? それともジオルド?
待てよ、ジオルドはダルの正体知ってるの? 知ってて仕えさせてたの? 頭の中を『?』で一杯にした俺を無情にも置いてけぼりで皆は話を続ける。
『私の持つ情報を買って頂きたい』
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