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第七章 それぞれの思惑

ご老人との密談・ジオルド

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ジオルド回想です。

ご老人ことヴァンダイグフ前伯爵、王妃の実父でエリックの祖父です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

のご老人から内密の相談があると声を掛けられたのは何時だったか。
面倒な臭いしかしないご老人の話など拒否したい。内なる思いとは裏腹に『王家に関わる重大な秘密』とまで言われれば受け入れるしかあるまい。

…‥それ僕が聞かなきゃいけないの? もう僕、王族籍から抜けたぞ?

陛下や王妃ではなく僕に声を掛ける時点で悪巧みの匂いがプンプンする。ヒシヒシと迫るキナ臭い密談に反吐が出そうだ。

これ、話を聞く僕の身も危うくなるのでは? ご老人、僕を陥れる腹積もりか。




我が領地を訪れたご老人に付き添う形で現れたのがエリックだった。
僕らは初対面の筈だ、それにも拘らず僕は青年の面影に見覚えが。
残念ながらどこで見たのか思い出せない。

やはり。
‥‥とんでもなく面倒事を寄越してくれたなご老人よ。
老後の娯楽に今の内政を乱したいようだ。爺は大人しく領地で隠居でもしていろと内心で悪態を吐いたがそれだけでは物足りぬ。何か趣向返し出来ないものか。


同伴の青年は亡き父上の、先代国王のご落胤と称し僕の異母弟と言うではないか。厄介な騒動への幕開けか‥…

年の離れた異母弟の存在は母上から知らされていたがこの男がその人物か?
しかし僕には確かめるすべはないぞ。如何にご老人の口利きだとしても俄には信じられぬ。ご老人が後見人を買って出たのは孫だからか。どちらにしろ担ぎ出すのは決定なのだな。

はあ正直、父上の子だと自称する者の相手をするのは疲れるので嫌だ。
公にされていない父上の子など、吐いて捨てる程居たわ。産まれた男児は正妃の子以外後顧の憂いで処分済みと聞く。生死問わず王族から離されたのだ。その子供が今目の前に立つ青年だと?

…‥本物か?

今後予想される厄介事を思い浮かべるだけでこのご老人と青年を闇に葬りたい心境に駆られた。
…‥意外に物騒な思考を有する自身に多少呆れはしたが案外良案かも知れない。

面倒な。と忌避感を持ちつつ争いの種となるこの青年を僕に引き合わせたこのご老人の捻り出す戦局に興味も持ったのもこれまた事実。

20数年ぶりに先代王のご落胤が発見されたと公言するのは悪手、どうするご老人。下手を打てば重犯罪人で処刑だぞ。
当の本人も名乗りを上げる気でいるようだが、ご老人も知っての通り王族に連なるのは生半可な事では許されないのだ。甘くはない。それが分からぬご老人ではないだろう。

あれか、孫のクリスフォードが失脚した今、返り咲くに丁度良い駒を見つけたか。ご老人は相変わらず権力を掴むチャンスを見逃さぬ人だ。



青年と会話をしてみれば中々優秀な男だと分かる。教養は高位貴族のモノ。動作も優美ではないか。見目も良く美丈夫だ。社交場に出れば引く手数多だろうに。だが僕は公の場でこの青年を見たことが無い。貴族ではないのか

‥‥一体どこに潜んでいたのやら。

どうやらご老人はエリックの身分が欲しい様子。それだと彼は貴族ではなくて平民か。
‥‥平民出身のご落胤が王族に連なる条件は、王位継承権を持つ者が全て亡くなった場合に救済処置としてだ。ご老人まさか…‥王子達を?


ご老人も老いた弊害か。ご自分の野望の為には国を荒らしても善しとする危険思考の持ち主だとは思わなんだ。あれでも国と陛下に仕える模範的な臣下であったと聞く。忠臣が今や逆臣とは。陛下の罪は重い。
自称ご落胤を担ぎ出す輩は歴史を振り返れば、内政が荒れれば現れる。権力の誘惑に抗えなんだ野心家が幾度も現れ消えて行く。この青年もご老人の欲に呑まれ身を亡ぼすか。痛ましいな。‥…僕は苦い思いを噛み締めて胸を痛ませた。


‥‥これは好機。僕の耳に囁く声は誰?
僕にご老人への加担を勧める声が聞こえるのは幻聴か?
本心とも戯言とも判別の付かぬ声に従うように僕はご老人の企みに耳を傾けた。

僕の計画に役立てばそれでいい。それに尽きる。


この青年の手を使えば僕の望む結果が手に入るとご老人は暗に彼を使えば良いと。手駒は多い方が良いでしょうと見返りは何を求めてくるのやら。

僕は問うた。ご老人は元より青年にも『何を望む』と。


『望みは閣下と同じでございますよ』
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