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第七章 それぞれの思惑

グレインを忍んで・カレンシア

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カレンシア視点です。

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ジオルド様の口からライムフォード第二王子殿下の名が。

わたくしも常々殿下の言動には苛つかされていました。まさかここでも。

わたくし、不思議に思っていましたの。ティに価値を見出し必要にちょっかいかける人って‥…何故、正面から来ないのかしらねって。然るべき手順を踏まえ正攻法で来ればと思ってしまうの。なのに法外手段でしょう? 余程身分が釣り合わない方か、表に出ることのない方か既にお断りした方なのかと勘ぐってしまうの。それに一々策を講じるやり方、何か他に目論見があるのかしら。我が公爵家は国に忠誠を誓っておりますが、陛下を支持していますでしょ? 一番の後ろ盾だと自負してますのよ。その我が公爵家に混沌と災いを齎す人物って‥‥一体どのようなご身分のお方かしら…‥‥

後ろ暗い人物が暗躍していると思っていましたの。その目的まではわかりませんでしたがティを良からぬ事に利用するためかしらって。
許すまじ愚弄者めが! 見つけたら消炭にしてやるわ!
…‥‥‥‥ゴホン、消炭は止めておきましょう、ね。旦那様が勿体ないと思われますし。ちょこっと焦げ付かせる程度でいいかしらねぇ、ふふふ。


わたくしが今こうして愛する旦那様と離れ、悲しくも別行動していますのは何もティの為だけではないの。

グレイン‥‥‥彼女の為よ。
彼女はずっとわたくしの側にいてくれた姉のような存在‥‥可哀想に異国で帰らぬ人となるなんて。これ程の悲劇はないわ。
旦那様はわたくしの悲しみをよくご存じなの。グレインの無念さもね。
こうやってわたくしが危険を顧みず行動してしまう気持ちも汲んでくださるのは旦那様も同じ気持ちだからかしら。
勿論、旦那様も義息子のラムも犯人を追っているわ‥…その捜査線上にジオルドが浮かんだ時は驚きましたけど。その名を耳にした時思わず『チッ!』と舌打ちしちゃった。誰も聞いていないからセーフよセーフ。

わたくしは相手が誰であろうとも彼女を死に追いやった人物は許さない。わたくしそう彼女の魔石に誓ったの。ラムが手を回して回収してくれた彼女の遺石。あの子はわたくしを慮って‥…本当にいい子。お父様も気に入って欲しがっているのよね。うふふ。

この魔石はわたくしと共に帝国に。でも、今はティの安全が最優先…‥きっと彼女も許してくれるわね。

それに『グレインの敵討ちは忘れていない。それは君の好きなようにすればいい』アドルフはわたくしにそう約束したの。ふふ素敵な旦那様を持つわたくしは幸せ者ね。

グレインの死を帝国側にはまだ知らせていないの。と言ってもお父様はご存じよ。今は静観して欲しいとお願いしたから何もされていないだけ。そう今はね。
グレインも帝国貴族の侯爵家の娘。訳があってわたくしの侍女となった人よ。
そんな彼女に手を出したのってお父様に喧嘩を売ったと同義。お父様も責任追及をこの国になさることでしょう。まあ、それは追々ね。


グレイン、貴女にもう会えないのでしたらわたくし貴女に伝えたいことが沢山ありましたのよ。

貴女には感謝してもしきれないの…‥なのにわたくしの気持ちを伝える前にお別れになるだなんて。あの日、交わした会話が最期になるなど思いもよらなかった‥‥‥
そう、あれは、わたくしが王都に向かう日の朝のこと。
領地内に怪しげな商人風情が目立ち始めたと報告を受け、ティの守備の強化を頼んだの。万が一を考慮してグレインがティを逃がしライラが身代わりになると。グレインはそう言って医療術用の魔術具の使用許可を求めたのよね。
あれは重症な患者を眠らせた状態で移動させる魔道具。確か数日眠らせることが出来る優れ物の軍用品。それをお父様から譲り受けたの。

ティの誘拐に使用されたと知って驚いたわ。あれの所在はグレインしか教えていないもの。それを使用してティを拐した‥‥この時には既にクレアとか言うふざけた女の手に落ちていたのかしら。真実はあの女を捕まえないと分からない、今ある証拠はグレインの裏切りを示すだけ。許せないわ。
あの女はわたくしの不遇天の仇。グレインを利用した報いをその身に受けさすのよ。


ティがあの女を覚えていて良かった…‥ラムの撮った写真も役に立って。まさかあの女が写っていたとは‥‥これは僥倖よ。
お父様の猟犬どもを連れて来て正解ね。グレインがお父様に掛け合ってくれたのは何の因果かしら。
アドルフもラムも捜査しているでしょ? これでは競争になるわね。
誰がいち早く捕まえるのか楽しみだわ。ふふふ、狩猟の時間の始まりよ。


殿方の崇高なご趣味ですもの邪魔はいたしません。粛々と待ちますわ。
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