目が覚めたら奇妙な同居生活が始まりました。気にしたら負けなのでこのまま生きます。

kei

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事件の後

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後半、別視点です。

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 ドサクサ紛れで領主の宅に転がり込んだ、とんだ棚ぼたを甘受する幼女は、与えられた部屋の清潔さに歓喜した。湿り気や、すえた臭いのしない布団。サラッサラな肌触りで黄ばみやシミの無い真っ白ケッケなシーツ。そしてお上品に香る花の匂い。感激のあまり嗚咽が出るほど咽び泣いて、その場にぶっ倒れた。

 「ひぃっ!!」

 その場に居合わせた侍女は、幼女の壊れっぷりとぶっ倒れっぷりに度肝を抜かれた。ただ部屋に案内しただけなのに。怖すぎた。慌てて起こしてみれば鼻からボタボタと赤い血が。倒れた拍子に床で鼻を打ったと思われた。

 幼女は意識がない。頭を打ったかも、と心配する侍女だが、笑った顔で鼻から下が赤く染まる幼女に心底怯えた。多分、侍女の見る角度の問題、不敵に見えるアングルだったのだ。そんなことは知らないとばかり、侍女はただただ恐怖する。もう今夜の夢は、笑いながら鼻血を出す幼女に決定。頭の中でそんな声が聞こえた気がした。

 笑って、泣いて、倒れて、鼻血ぶーの目撃者である侍女の混乱は続く。



 「おい、クソガキ。お前、一体何をやったんだ? このくそ忙しい時に、まったく」

 目を開ければ、そこに髭オジが。何かこのシチュ、デジャブるんですけど?

 「あれ? 私、どうして寝てるんでしょうか‥‥」
 「お前なぁ‥‥、笑ったかと思えば急に泣き出して、挙げ句、ぶっ倒れた拍子に鼻を打って、鼻血出したんだよ。なんで倒れたのかはしらねーけど、ほら、まだ鼻、冷やしとけって」
 「あっ! そういわれてみれば? あー、ご迷惑をおかけします?」

 (ひぇー、冷静に説明されると、はっ、恥ずかしーーー)

 花も恥じらう乙女が鼻血って‥‥恥ずかしさの余り穴があったら入りたいと頭を抱え込んだ。













 「可哀想に。怖い目にあったのが忘れられないのだね、ここは私達が守ってあげるとしよう」

 軽くトラウマになった侍女は、幼女の情緒の壊れっぷりを、盛に盛って話を盛り上げる。恐怖に怯え、頼る親の居ない哀れな子。大人達の心を揺さぶる揺さぶる。話を耳にした大人達は、辛さで顔を歪ませた。もう心が痛くて痛くて堪らないのだ。

 「滞在中は、出来るだけのことをしてあげましょう」

 胸の前で両手を組み、祈るように囁く。心を痛めた大人達は共感した。


 彼等は善良である。


 アイナが、雇われ魔導士の復讐の駒に使われたと使用人や騎士達は知っている。彼等は犯人と無関係の彼女は被害者だと聞かされているが、人の心情は、様々だ。

 被害者と憐憫の情を向ける者と、領主夫人が悲惨な目に遭ったのはアイナの所為だと責任を転換する者、単にどこの馬の骨かわからぬ不吉な子と忌避する者。邸は静かに荒れた。

 「あの子供がラウル魔導士に使われなければ、奥様はご無事でしたのよ! そんな子を預かるだなんて旦那様は何をお考えなの!」

 「孤児院の子だろ? どこの生まれかわからない子を。しかも、記憶がない? 不吉だ、そんな子供を邸に入れて大丈夫か? 関わって面倒事に巻き込まれてもなぁ、俺達は関係ない」

 彼等は未知なるモノを恐怖する。


 加速して過保護になる者、憎しみを抱く者、忌み嫌う者。過去の災厄を乗り越えた彼等が再び味わった恐怖。大きく揺れた感情は弱き者へと注がれた。

 この邸で暮らすアイナは、まだ自分に向けられるであろう他人の善意、悪意、嫌悪を知らない。


 全ては、思い込みと誤解である。

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