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呪夢ー目覚めの前ー②
しおりを挟むベールを被る私の表情が周囲に見えなくてホッとするよ。見れたもんじゃないからね。たぶん、鬼の形相? ぷっ、花嫁の顔じゃないわ。
バージンロードを花嫁の父親に手を引かれて‥‥は勘弁してよ。
もたもた歩いているうちに暴徒騒ぎが起っちゃう。
大聖堂の扉は閉じられ、私は中に入れず彷徨い、刺殺まっしぐら。刺客は死角からやってくるのだ‥‥なんてね。
何度も味わったのだ、きっと回避できる。と言ってもフローレンスちゃんの死は免れないよ。ただ、死に場所を変えたくて抗うのだ。
馬車から降りた今が肝心。
内心ドキドキしながらドレスの中でヒールを脱ぎ捨てる。ドレスの裾をたくし上げる格好は淑女にあるまじき姿‥‥。
あっ、そこの人、はしたないって顔をしないで。
あなた達も、みっともないって言わないで。
四の五の言ってられない状況だと自分に言い聞かせ、私はダッシュをかます。
「あっ! これっ、フローレンス!」
「お、お待ちを!」
突如、花嫁が介添えの父親の手を振り解いて走り出したのだ。周囲の戸惑いと驚きが、ざわざわと騒めく声が波のように広がり行く。「ヒュー」と口笛で茶化す人にどよめく人、なぜか黄色い悲鳴まで。
…‥あっ、あれだ。結婚式が待ちきれなくて走り出したと誤解されたか~
ちょっとどころじゃない恥ずかしさに心の中で悶絶だよ。グッと堪えてひたすら走る。兎に角、『大聖堂の中に入る』それだけを目標に走り切る。
間もなく扉に‥‥突如、鳴り響く爆音と悲鳴。
ああ、始まった、死へのカウントダウンだ。
今生最後のイベント。
目下の目標はフローレンスちゃんの最期に王子様と別れの言葉を交わす事である。
扉が閉まる前に辿り着いた私は、身体を滑り込ませて中に入る。堂内は外の騒ぎに気付いた皆が騒然とする中、警備の者達が機敏に動く。
王子様がフローレンスちゃんに気が付いて、ホッと安堵の表情が離れていてもよくわかった。私も王子様の顔を見たせいで、ちょっと気が緩んじゃった。
ドスッ!
「グゲッ!」
‥‥ああ‥‥刺されちゃった‥‥
気力を振り絞って私は耐える。まだ最後の言葉を言えてない。
喧騒の中、取り押さえられた女の泣き叫ぶ声が、どうしてか遠くに聞こえる。
とうとう立っていられなくなって身体が崩れ落ち‥‥る前に誰かが受け止めてくれた。しっかりと抱え込まれたのがわかる。
「フローレンス! 大丈夫か! しっかりしろ、今医者を呼んだ、大丈夫だ助かるぞ、おい、しっかりしろ! わ、私を見るんだ!」
ああ、王子様が受け止めてくれたんだ。
私の意識は、辛うじて…まだある。
「お、おうじ さ ま なかな いで きい て おうじ さま わたし のこと わすれて おねが い しあわせ になって ね…‥」
「な、何を言う! 忘れろだと…馬鹿なことを言うな、其方は助かる…のだぞ‥‥おい、幸せになるのは一緒になって…だ‥‥聞いているか‥‥なぁ」
「あ なた を ゆる し ます どう か しあわ せに」
もう、何も聞こえないし見えない‥‥‥
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