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呪夢ー⑤
しおりを挟む今日は学期末テストの結果発表の日…の場面に切り替わった。
そう。今はテスト結果の順位が張り出されたボードの前に一人…語弊があるな。フローレンスの周囲だけ人がいないのだ。
(うへー、私が来たからって露骨に避けなくてもいいのに。でもまあ、見やすくていいか)
掲示板に群がる人垣がフローレンスの登場でざっと左右に別れたのだ。この態度は忌避か嫌悪か警戒心からか。彼等の言動に興味のないアイナは気にしない。
(さてさて成績の良いフローレンスちゃんの順位は‥‥うえっ!?)
まさかの総合1位。びっくりだ。選択科目の結果もあるが、これも1位。またまたビックリ。
…フローレンスちゃんは才女で間違いないね。
好成績を叩き出したフローレンスだが中身のアイナは微妙な気持ちだ。
(1位か~素直に喜べないんだよね。出来レースな気分だし)
「‥‥また1位だ」「お勉強だけ出来てもねぇ…」「見てよ、鼻に懸けて嫌味な女ね」「頭でっかちは殿方に嫌われるわ」「どうせ金に任せて家庭教師雇ったんだろ、出来て当然だ」‥‥言いたい放題の外野の野次。やはりフローレンスへの当たりは不自然に強い。
「ちっ! くそぉ、またお前が!」下品な言葉遣い、間違いなくあいつだ。
悔しさをフローレンスにぶつけるのはお門違いでなかろうか。成績が振るわないのは自己責任。他人に八つ当たりしてどうなるのだ。そう思うアイナはこの後の面倒事が邪魔くさくて仕方がない。
(まぁ最悪、秘密兵器を出せばいいか)
「******様、総合2位とは流石です!」
「ほ、本当です、本当です! 素晴らしいですね!」
取り巻きが王子を褒める。取って付けた褒め方は気にしては駄目なやつだ。
王子の上位にフローレンスちゃんが。ひと悶着が起る気配に好奇の目を隠さず寄せるのは完全ギャラリー化した生徒達。他人事だから楽しいのだろう、本当に禄でもない人間の集りに溜息が出る。
「う、嘘です! この結果、絶対おかしいです!」
下卑た好奇の視線の中、甲高い女性徒の声が響き渡る。聞き覚えのある非難めいた声が舞台は整ったと暗に示す。
「お義姉様! 恥ずかしくないのですか! 不正してまで成績を上げるだなんて! 我が家の落ち零れのお義姉様が******様を差し置いて1位を取れるわけがないわ。お願いですからもうこれ以上、公爵家の家名に泥を塗るのは止めて下さい!」
(出たな、ヴィラン!)
「そうだ! フローレンス様が1位? 一体どんな不正を行ったんだ!」
「******様の気を惹きたいからと。公爵家の娘として恥ずかしくないのか!」
(‥…君達、乗っかるの止めなさい。どうしようもないね、この子達)
「! やはりそうだったか! 私が次位などおかしいと思ったのだ! 何をしたか知らぬがそこまでして私に気に入られたいとは。浅ましい女め」
再び始まった謎の茶番劇。
(はぁ~、これに強制参加させられる私って可哀想だよね~)
面倒事はさくっと終わらせるに限る。労力と時間の無駄を思えば彼等の相手は割が合わない。どうせフローレンスちゃんの言葉に耳を貸さない奴等だ。問答無用でいいだろう。自分の犯した行動だ、責任取れよ。
フローレンスの最終手段であるリーサルウェポンの投入だ。悪く思うなヴィラン共と無自覚に楽しむアイナに容赦の言葉は見当たらない。
(うふふ~出でよ、リーサルウェポン! ポチッとな)
「‥‥ボソボソヒロイン召喚…」
めちゃくちゃ小声で唱えたソレは作動音声のセリフ。ちょっと恥ずかしい。
装飾品の腕輪に連絡用魔法陣と魔石を組み込んだお兄姉さんの匠の品。その魔石部分を軽く押し当てれば、あら不思議。
「ここで何を騒いでいる」
お兄姉さんが登場するのだ!
――実は報連相で訪れた時に先生が思い出したと、テスト結果発表の日に起る出来事を教えてくれたのだ。全貌はまだ思い出せなくて難儀なのは変わらないのだが小出しでも何かが起ると思い出してくれるだけでも助かる。
(でもね、聞いてみるとヘイトイベントっぽいんだよね)
私達はお互い提案しあって打開策‥‥便利グッズを作ったのだ。
と言っても私は前世の記憶にある便利な物を『これがあったらいいのに~』と先生に言っただけ。後は先生が試行錯誤で魔道具を作製した。
魔道具とか魔法陣とか魔石とかファンタジー用語を語る先生の目がキラキラしてたから突っ込めなかった。美形はオタクでも美形だよ。
で、匠の一点モノ。『呼び出しグッズ』
緊急時の連絡手段にスマホがあればいいのにと私の呟きを拾った先生が試行錯誤で作った簡易的呼び出し魔法陣。スマホの説明が面倒だった。
これは特定の人物を呼び出す際に登録した相手の魔力と識別文言で相手側の魔道具に連絡が入る優れモノ。病院のナースコールスイッチに近いかな。
上手く作動して良かった。後はリーサルウェポンがこの場を締め上げるだろう
因みに、セリフは先生が決めた。モンクは言えない。
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