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領主と導師ー③
しおりを挟む「そうか。すまぬ。教えてくれ。呪術具が人だとして災いの規模は? それを予測して未然に防ぐことは可能か?」
「‥…わからん。言えることは確実に災害級の災いを振り撒く目的で施術するのだ。予測出来ないが正答か」
(呪術具と化した者の負の念の種類による。遺恨、憤怒、悲壮、何を以て最後絶望に至るのか。発動条件は絶望し他人を呪った時だと言う説があるがこれも定かではない。今だ解明されていない術式の全容、未知の部分が多すぎて研究者も手を拱いている。負の念、魔力量の多さ、術者の思惑、絡む要素が幾つもあり災害規模が判明しない。特級と言われる所以か)
「な、ならどうやって防ぐのだ?!」
‥…『手段がない』これが呪術研究者の共通の見識。だから発見時に殺処分するのが最善の処置だ。出来ればこいつには教えたくない‥‥どうしたものか。
「‥…答えを知らないのか、言えないのか、言わないのか。まあよい。お前は知らないのだと判断しておこう」
「‥…すまねえな、恩に着るぜ」
「ふっ、お前と私の仲だ。気にするな」
友の気配りが素直に嬉しい。酒が美味く感じるのは気の所為か。
(‥‥こいつを巻き込んで正解だったな)
飲んでいた酒瓶が空だ。俺は手にあるグラスを未練たらしく眺め、まだまだ飲むぞアピールを止めない。新しい酒を出すまでグラスを揺らす。
友は俺の心情を知っていて知らんぷりだ。酒、持って来いや。
「それで‥‥あの幼子の呪いとは?」
本当に知りたい事はこれか…今の様に手元に置いて大丈夫かと目が語る。
「ああ‥‥正直、イマイチよくわからねぇって、言えばお前はどうする?」
一瞬で俺達の間に緊張が走った。
質問を質問で返す。嫌な聞き方をして悪いが俺もお前の本音が知りたい。
あのガキの呪いが解呪出来ない可能性だってある。その時お前は領主としてどんな判断を下すのか。返答次第ではガキを連れてこの地を離れるしかない。
「‥…はぁ‥…やめ、止めよ。今ここで腹の探り合いをしても解決しないではないか。私としてはお前が責任を持ってくれるのであれば許容するぞ? で、どうなのだ?」
「‥…ああ。責任を持って対処する」
「ふっ、なら問題ない」
お互い欲しい言葉が聞けたのだ。緊張も解ける。
(あー酒。酒酒酒ー)
「しかし幼子に呪いを施すなど、術者は尋常ではないな」
「間違いなく異常者だ。なぁ、杳として行方不明の孤児院長はどんな奴だ?」
「それだが、調査書には三年前、災厄の起こる直前にこの地に赴任した教会従事者とある。元は他領の孤児院出身者だ。その教区の神官が身元引受人となり教会従事者となった‥‥とあるのだが他にも一つ気になる事件が明記されている。お前の意見を聞きたい」
「何だ?」
「師事していた引受人の神官が五年前に不慮の死を遂げている。迷宮入りだ。この女は神官の死後、教会を二度異動し三年前にこの地に赴任となった」
「そう…か」
「不審死と女の関係、そして今回の事件。お前はどう捉える」
「‥…わからねえよ。だが今回に関しては姿を晦ませている以上、限りなく黒に近い黒だ。ガキと二人でいた時間もある。後は‥‥動機か」
そうだ依然不明な動機。おっとりした鈍い女で孤児院内でおかしな動きは今までなかったと言う。今回クソガキに対し見せた行動が不可解なだけだ。
「調査は続けさせる。手掛かりが掴めたらお前に教えるとしよう。それまでここにいるか? 私としては導師様が我が領地に滞在して頂けるとあれば大喜びなのだが? どうだ? 良い酒を用意しようではないか。相変わらず飲んだくれているのだろう? 暫くこの地に居れば良い」
「ふん、まったく俺に居て欲しいなら居て下さいとはっきり言えばいいじゃねえか。お言葉に甘えさせて貰おうか。さあ、酒をもっと持って来いよ」
「ああ。わかったわかった。今持ってこさせる。今日はゆっくりして行けるのだろう?」
「いや悪いが今夜は帰らせて貰うわ。ガキの様子見なきゃならねえし」
「‥‥そうか。では酒は土産に。出来るだけ早く幼子と共にここに来るのだ。よいな。暫し私が保護をしよう」
「悪いな。ガキがまた眠ってしまったんだが。目覚めたら連れてくるわ」
そうだあのガキ、また眠りにつきやがって‥‥一日半が過ぎた。
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