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領主と導師ー②

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   「呪われ滅んだ国か。それはどのような呪いだったのだ?」
 「術の詳細は知らねえよ。研究者の考察程度の話で悪いが呪術の規模で生贄となった人物は王族だろうと言われている。一人の人間では到底出来ない術だ。恐らく犠牲者は複数人で国を滅ぼしたい程の恨みを持つ人間を集めたんだろう。そいつらの恨みの念を呪術に組み込み発動させた…ザッと言えばこうだ」
 「本当にざっくりで肝心な術がわからぬ。それにしても遺恨が呪術に成るとは何とも恐ろしい話だ。では人が呪術具になるとは? 贄とはまた違うのか?」
 「な、何だお前、変に興味を持つな。‥…あんま言いたかねえけど贄と呪いの器は違う。悪いがこれしか言えねえ」

 (贄の役目は怨霊となることだ。贄の命を奪い死者の怨恨を現世に留まらせ呪う糧と化す。それを術具に組み込み呪術具として呪う特定の対象者に与えればいい。これが克ての呪術と言われたモノだ。

 人を呪術具と化したければ、殺さず生かしたままにする。これが決定的な違いか。ああ、周囲を呑み込み災害レベルの災いに発展することもそうだ。特徴的な呪印が身体に不完全な状態で刻印される。それが術にかかった証、呪印が完成すれば呪術具の完全体だと言われている。術式は未解明だが文献の残りが発見されたんだっけ。禁書だから手にしたことはないが)

 友は不承不承俺の断りを受け入れてくれたのだが、言える範囲で教えろと食い付いて来る。正直鬱陶しい。

 「で、呪術をその身に受けた者は災難や不幸に見舞われ易くなる。いや確実に見舞われる。一言で言えば不運体質に様変わりってわけだ。不運だ不幸だと嘆く念が次の不幸を招き寄せる。知らぬ間に世を恨らみ絶望し呪いが成就するんだ」
 「な、何だ、その不運や不幸を呼ぶ? とは‥…」
 「そうだな、言い換えれば不幸な目に遭うか。悉く不運に苛まれ己を不幸だと憐れむ。お前は知らない言葉だと思うが、不幸が不幸を呼ぶ。正しくは不幸と思う想念と言霊が新たな不幸を招き込むってやつだ。これは呪詛の基本だが本来戒めの教えとして語られる言葉なんだ。呪術研究者は負の感情が連鎖し心身に何らかの影響を与えるのだろうと見ている」

 友はわかったようなわからないような顔だ。

 「新たな言葉を聞いたぞ。呪詛とは何だ?」
 「ん? 呪詛は言葉そのままの意味だ。呪いの言葉で災いを呼ぶんだ」 

 額に手を当て‥‥頭痛か?

 「すまぬ理解が及ばん。ところでお前は呪詛や呪術を使うのか?」
 「おい、誤解すんなよ。俺は呪詛も呪術を使えねえ、ってか導師には無理だ。呪術は禁術だぞ、俺達が使うわけないだろ。それに使いたくても誓約がある以上出来ん。誓約を破った途端に俺は死ぬ。態々そんな行為で自殺するとかあり得んわ」
 「‥‥うっ、お前にそんな恐ろしい誓約が? 何故だ?」
 「禁術を使わせない為だ。有事の際、真っ先に狙われるのは俺達導師や高魔力者だろう。戦術に組み込もうと考える奴は必ずいる。術や魔力を求められるだけならまだマシだが兵器と見なされたら俺達に命はない。命と魔力を搾取され戦争の道具とされるんだ。悪用させない処置である誓約が必要なのがわかったか?」
 「‥…お前、導師はそんな責務もあるのか」
 「ああ。それだけの力量と知識量を持つ。縛めは必要だろう」
 「‥…なんと非情な。お前はよくそれを許したな」
 「‥…力の代償と思えば何のことは無い」

 そうだ。得た知識と高度な術を思えば多少の事には目を瞑れる。些末な事なんだよ。誓約ってのは。

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