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後悔 【神官視点】
しおりを挟む僅かな時間、目を離した隙に二人の子供が危険な目に遭いました。
これは私の監督不行き届きで間違いないでしょう。
まさか自分の管轄教区内でこのような恐ろしい呪術具が使用されるとは。
と言っても私もあまり呪術具の効果を知りません。ですが呪術は人に対し災いを齎す目的で使用されます。今回は子供に使われましたが何故なのかと疑問が拭えません。偶々、導師様が様子を見に来て下さったおかげで発見が早く処置出来たので大事には至りませんでした。ですが子供は意識を失い一人は三日も寝込むと言う痛ましい目に遭わせてしまったのです。私が魔力操作を引き受けた子供に辛い思いをさせたのです。至らぬ自分に恥じ入ります。
深く反省しています。私は何故あの幼子に魔力を扱わせようとしたのでしょうか。今だその理由に思い当たらず困惑しております。あの時はジェーンさんにお願いしますと言われ‥‥しなければならない強迫観念が芽生えたのでした。
このままではこの子が酷い目に遭う。この子の魔力が暴発するのではないか。その思いで頭が埋め尽くされ尽きぬ焦燥感に追い立てられ何としても魔力の発動を。と願い急せいたのです。
普段の私では考えられない失態です。導師様は私の責任を不問になさり、その上で悔いているなら事後処理を自らしなさいと、私の気持ちを慮って下さいました。私は馬鹿正直に事のあらましを大聖堂領の司教様に報告と考えておりましたが、導師様は全貌が明らかになるまで黙っておくようにと仰いました。
私が渋ったからでしょう、導師様は今、秘密裏に調査されている件との関係性をこれから調べたいので子供については黙って貰えないかと。もし子供の件が報告されると処罰されてしまう為、導師様は自分にこの件を預けて欲しいと望まれました。
‥‥あの子が目を覚ましたと聞いた時は助かったのだと安堵しました。ですがその後の診察で呪いを受けていたことが分かり、私は真っ暗な闇の中に落とされた心境になりました。我が身の震えが止まらず己の罪深さに打ちのめされそうになりました。
あの子は弟子の立場で引き取られる予定でそれだけでも名誉な事だったのです。それが私の失態で大きな瑕疵が付きました。謝罪で済む話ではないのです。一人の子の未来を摘んだのです。
呪いを受けた人を世の人は受け入れないでしょう。災いを受ける業の深い人を誰が受け入れれますか。忌み嫌われます。虐められ迫害される未来しか見えません。私はやるせなさで胸が押し潰れそうです。
――導師は魔術師のトップに値する役職です。膨大な魔力量に豊富な知識、繰り出される高度な魔術。言葉では言い尽くせない魔術の深淵を知るお方です。
その導師様のお弟子となる者は将来が約束されたも同然です。ですが‥‥
導師様もあの子を育てるから心配はいらないとお言葉を下さいました。お気を使わせてしまい申し訳ないです。
呪いを受けたと聞かされたあの子は導師様の言葉の意味が良く分からないのでしょう。悲壮感はなくどちらかと言うと無邪気に喜んでいます。ですがあの喜びよう…‥アレに真実を告げる役割が私でなくて本当に良かったと心の底から思います。しかし何故あれ程喜んでいるのでしょうか?
そう言えばあの子は記憶が無く誰でも知っている話も知らないのでした。だからでしょう。これでは導師様も説明がし辛いのでは‥‥と心配で見ていると何やら誤魔化されました。‥‥導師様は何をなさっておいででしょう?
私ではお役に立てないですからせめて目覚めの食事でも用意しましょうか。
‥‥あの子が寝入った後、導師様との話し合いです。呪術自体は不完全だった為、時間を掛ければ解呪が可能だと教えて下さいました。自分の手元で行なえば子供に危険はない。だが司教様に今回の件がそのまま伝わればあの子は処罰対象になる。それでは可哀想だ、解呪が可能なのにみすみす殺させるのかと。導師様の言葉は私に決断を迫ります。同時に私の心に傷が付くのもと嘆かれ今回は身内とも呼べる孤児院長の仕出かしたこと、これ以上負い目を背負う必要はないと諭されました。今も己を責めているのだろう。そう言って慰める導師様は何と心の広いお方なのでしょうか。私の答えは決まりました。
導師様にお任せしあの子を守る。その為に私は泥を被っても良いのです。
司教様に事実を有体に申し上げることは出来ませんがあの子の事を触れずに言えば問題ないでしょう。呪術具も未発見です。不完全な術の行使痕だけご報告すればよいでしょう。あ、ご領主様もでした。ご領主様へのご報告は如何致しましょうか。
事後処理含め一度ご領主様の元にご挨拶に伺うのが良いでしょう。それにあの男の子。教会預かりでしたが一抹の不安が。これも導師様とご領主様とご相談でしょうか。
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