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記憶にございません。
しおりを挟む現状把握の出来ていない私に呆れた顔をしながらも体調を気遣ってくれるオジサンが重ねて尋ねる。
「おいガキンチョ。体調は良さそうだが。お前倒れる前の事、覚えていないのか?」
「えっ? 倒れる? ええ、私倒れてたんですか?!」
寝込む前の状況が全く思い出せていないだけに倒れていたと聞いては余計に病気や事故を疑ってしまう。流石のオジサンも倒れていたことも知らなかった私に呆れた様子だ。
(それは仕方ないと思うよ。だって今の今まで寝てたんだからね!)
オジサンと神官さん曰く。魔力を教わっていたあの日。神官さんがちょっと席を外した隙に何かがあったのだと言う。戻ってきてみれば倒れていた私に吃驚したよと言われてしまえば余計に申し訳なさが募る。ごめんなさい。
離れた時間はホンの数分らしく、外傷もないし状態から見て魔力を使って疲れただけだろうと言われた。恐らく初めての魔力で身体が驚いたんだろうと教えてくれた。
(ふうん、そんなものなの?)
「確か神官さんに魔法? を見せて貰ったのは覚えています。でもあれから三日? 私寝込んでいたんですよね、すみません。記憶にございません」
「そうか。チッ! 使えねえな」
「はぁ?」
‥‥ちょ、この髭おじ今舌打ちしたよね? で、使えないって? え、私の事?
三日も寝込んだ子供に言うべき言葉じゃないよね。労わるとか気を遣うとか大人の癖に気配り出来てないんじゃない? 尊大なオジサン…髭おじに悪態吐きたくなるのをグッと我慢。大人な私だから許してあげる。
‥‥でも、倒れる前、私何してたんだっけ? 何かトンデモナイ目に遭わされた気がするんだけど? う~ん思い出せないな‥‥ちょっと自分の記憶喪失ぶりが怖い。綺麗さっぱり忘れるなんて恐ろしや。
ジッと私を見る二人には悪いんだけど思い出せないのだから許して欲しい。幼女に容赦ない視線を送るのは止めて。気になるじゃない。
はぁ、本当私何してたんだろう。
そう言えば、誰かが居た気がする。神官さんじゃなくて別の人。あれ? 誰だっけ? 何だか理不尽な事を言われた気がする。それに…‥‥私、夢を見ていたと思うんだけど、それも忘れちゃった。何だか悲しくて切ない夢だったような? 誰かと一緒に居てお互いの気持ちをわかり合って‥…あれ? わかり合う? 何だっけ?
ぽけーと虚空を見ながら記憶を探っていたのは私だが、敢えてそれを「アホ面」と言い出さなくても良いじゃない。本当に髭おじは失礼な人だ。
「そのアホ面は止せ。みっともない。お前の記憶が無いのは分った。まあ後で何か思い出したら教えてくれや。ところで診察が必要だ‥‥」
(おお、診察! 良かった寝かされたままで放置じゃあ心配しちゃうもんね。ちゃんとお医者さんに診てもらえるならちょっと安心か)
安堵で笑顔になったのは自分でもわかる。でも髭おじ黙ることは無いと思う。
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