上 下
19 / 71

夢の中の見知らぬ女性ー①

しおりを挟む
 
 目の前で繰り広げられる光景は映画かドラマのシーンのような映像美がある。


 青い空の下、花が咲き誇る綺麗な庭園で幼い女の子と男の子が楽し気に笑っている。きっと仲の良い二人なんだろう。幸せそうな表情が離れていてもはっきりと見えた。

 幸せな子供達の姿を漫然と眺めていたら突如として場面が切り替わる。次のシーンは青年と女性の言い争う姿だ。二人の顔は朧気で分かり難いがさっきの子供達の成長した姿だと素直に思えた。

 ‥…それにしても衣装が中世のそれっぽいな、いつの時代だ?

 二人の醜態。喧嘩の理由は分からないけれど、ちょっとした喧嘩とは思えない真に迫った凄みがある。これは結構深刻なレベルではなかろうか。恋愛経験皆無の私でもこれが痴情の縺れだと理解できた。

 どうでもいいけど、この問答無用で繰り広げられる痴話喧嘩を見なきゃいけない私は一番気の毒な人だと思う。

 ‥‥お付き合い出来ただけでもいいじゃない。それじゃダメなの? 彼氏いない歴=年齢の私にしてみればちょっと羨ましいな‥…はぁ。

 めげずに二人に視線を送ると口論の有様が一層酷くなっていた。特に青年から滲み出る嫌悪感が酷いのだ。声は聞こえずとも二人が険悪で憎悪を漲らせているのは一目瞭然だ。これは下手すれば修復不可能になるかもと心配になる。二人に何があったのか、昔の様に仲良く出来ないのかと老婆心ながら仲裁したい。

 啀み合う今の二人に先程の笑顔で語り合っていた幼き姿が重なって悲しみが込み上がってくる。成す術がないのは結構辛いのだ。

 罵り合っていたシーンが青年の横に別の女性が立つ場面へと切り替わった。今度は女性の肩に手を回した姿だ。手つきがイヤラシイのは気の所為? 二人の仲を見せつけたいのか喧嘩をしていた女性の正面で対峙している。

 ‥‥うわお、今カノさんと元カノさん?! ええーこれって修羅場展開!?

 ちょっと修羅場はやだな。ハピエン希望なのにとボヤいても容赦なく場面は続く。

 ‥‥今カノさんらしき女性‥‥いいや、今カノさんで。

 勝ち誇った表情で元カノさんを見下す姿は悪役その者。顔に張り付かせた笑顔は厭らしい女のソレだった。男を盗ってやったぞという満足させた自尊心を、プライドの高さを、そして向けた笑顔の下に嘲りが見て取れた。

 元カノさんに放った笑顔が何とも卑しい性根の悪い悪意の塊に見えたが不躾な悪意の意味は何だろう。

 私は元カノさんも今カノさんもどんな人か知らない。主観で悪いけど今カノさんは性格の悪い人だと思っている。だがあの青年も人が悪そうだから、二人はどっこいどっこいでお似合いかもね。まさに割れ鍋に綴じ蓋だ、何とも世の中上手く出来ている。

 ‥…打ちひしがれた元カノさん。見ているこっちまで辛くなる。

 『男は他にもいるよ! いっぱいいるよ! 彼奴だけが男じゃないよ!』

 恋愛経験皆無の私の言葉は俄には信じられないかも知れないだろうがそこは安心して欲しい。恋多き姉の実体験の言葉だから太鼓判を押すよ。

 ―――失恋の痛手は新しい恋で癒すのが鉄則! さっさと次の男をゲットしなきゃ時間の無駄だって。別れた男は自分を大切にしてくれるイイ男を捕まえるための捨て石ぐらいに思っていればいいのよ。経験が目を肥やすのよ! 失恋の一つや二つで自分の価値を下げるなんて馬鹿らしいでしょ、可能性を摘むのは勿体無いって!

 恋多き姉が語っていたっけ。懐かしい。そうだった姉は自分を大事にしない男はどんなにイケメンでも容赦しなかった。女性側に理想を押し付けてくる男はサイテーだとも言ってたっけ。‥‥お姉ちゃん元気かなぁ旦那さんと仲良くしているだろうか。ちょっと懐かしさで目頭が熱くなる‥‥気がした。


 懐かしい姉の恋愛観を思い出して目の前の哀愁漂わせた女性に、声にならない声を張り上げてしまった。励ましたい私の気持ちは届いただろうか。

 ‥…今は悲しいだろうけど

 過去の恋愛を引き摺るのは心理的にも身体的にも良くないと姉や兄から教わっている。出来れば早く立ち直って欲しい。彼等の恋バナを散々聞かされただけの聞き齧りでごめんなさい。私は経験ないので知りません。でも元気になって欲しいのは本当の気持ちなんだよ。


 次の恋を推奨する私の声は彼女に届いただろうか。無性に応援したくなったのは決して彼氏いない歴=年齢の愛奈だからではない。同じ女性としての応援なの!


 

 背を向けていた筈の女性と目が合った。

 
 彼女の瞳は私を見ていた。私を見つけその視線で捕らえられたのだ。


 えっ!? 何で彼女と目が合うの!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

転生悪役令嬢は双子執事を護りたい~フィギュア原型師は推しの為なら異世界生活も苦じゃありません!~

天咲 琴葉
ファンタジー
推しのフィギュアを公式に認めてもらうーーその一心で人生最高傑作を造り出した私。 しかし、企業との打ち合わせ前に寄ったカフェでフィギュアの原型を盗まれそうになり、犯人と揉み合った挙げ句刺されてしまう。 目が覚めると私は赤ちゃんになっていた。 母が私を呼ぶ名前はーー推しであるイケメン双子執事の主、悪役令嬢サシャ!? ならば私の目指すべき未来は1つ! 推し達の幸せは絶対に私が守る!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...